第18話 転校生は家族も世間知らず?
現在の世界記録は地下33階。
それも先月達成されたばかりの偉業だというのに、ここの家族は地下30階を物置に使っているという。
なら、実際にはもっと下の階まで行ってるんじゃなかろうか?
それに、ランキング上位にいる「
私の中ではすでに確信しているレベルなのだが、それも含めて私は怖くて聞くことが出来なかった。
これを聞いてしまったら、私はもう部外者とは言えないんじゃないだろうか?
引き返すならここが限界地点なんじゃないだろうか?
この時、私はとっくに脱出出来ないほどに沼っていたことに気付いていなかった。
「30…階……?」
さすがの空もこれには驚いたようで、今までに見たことが無いような面白…いや、驚いた顔をしている。
多分――にわかの私よりも、探索者を目指している空の方が驚いただろう。
「うん。邪魔なものは全部そこにまとめてあるの。薬がきれた時に取りに行くくらいかな?」
もう薬って言っちゃってるよ。
多分、それは高価なポーションだよ?
「それって……阿須奈も取りに行ったりする?」
おい!それ以上当たり前の事を聞くんじゃない!!
更にヤバい話が出てくるかもしれないだろうが!!
「え?もちろん行くけど?というか、ほとんど私が頼まれて行ってるかな?」
ほらあ!!そうに決まってるでしょ!!
小鳥遊さん一家を舐めるんじゃないよ!!
それに、あんたこれ以上驚いてたら死んじゃうよ?
「あは……あはは……」
笑いながらへたへたと座り込んでしまった空。
まあ、面白いものが見れたから良いか。
「ただいまー」
昨日と同じように
そこに小鳥遊父が帰って来た。
これも昨日と同じように逆立ったぼさぼさの髪に髭面という見た目。
「お邪魔してます」
一瞬びくっとしたが、それを誤魔化すように挨拶をする。
「あ、鈴ちゃんいらっしゃい。あれ?今日は新しい友達が来てるの?」
小鳥遊父はロボットのように淡々と食事をしている空に気付く。
――が、空は気付いていないというか、未だに意識は遠いお空に行っているようだ。
「いてっ!」
私はテーブルの下から、長い長い足を延ばして空のすね辺りを蹴った。
その時、私の座高が半分くらいになったのは内緒だ。
「こんばんは。阿須奈の父です」
小鳥遊父が空に挨拶をしたところで、空もようやくその存在に気付いてそちらに視線を送る。
「あ――どうも。阿比留…そ…ら……」
空は自己紹介の途中でスンっと意識を失って、手に持っていた箸を落とした。
よし!勝った!!
私は叫んだだけだからね!!
「ネット配信?それを阿須奈がやるのかい?」
意識を取り戻した空に小鳥遊父の事を説明して、それからネットでダンジョン探索の動画を撮りたいということを小鳥遊両親に伝えた。
「うん。空ちゃんに話を聞いて面白そうだなって。それで家の中で撮影したいの」
ダンジョン探索の動画を撮りたいから家を使いたいという異次元の会話。
「なんだかお宅訪問みたいで恥ずかしいわね……」
当然その反応も異次元である。
「まあ、私は全然構わないよ。せっかく阿須奈が友達と一緒にやりたいことを見つけたんだから、むしろ嬉しいくらいさ」
「そうね…。今まで阿須奈から何かやりたいって言ってきたことなんて無かったしね。それにお友達と一緒に何かするっていうのは大切なことだわ」
おっと、完全に私がその中に入っちまってるぞ。
やるのは小鳥遊さんと空だけですよ?ご両親。
「そうだな。引っ越してきたばかりなのに、こうして遊びに来てくれる友達が2人も出来たんだ。これを機にもっと仲良くなってくれたらと思う」
いや、これを機に疎遠になりたいなあ…とか、ちょっと思ってたりするんですが?
お隣さんだから無理?
そんなことは無いでしょうよ。
「えっと、ということは、りんさんはこれからもいえにあそびにきてくれるってことですか?」
しまった!!
やめて!そんなに期待に満ちた顔で私を見ないで!!
「……うん。これからは撮影の時に来ることになるよ」
口が!!この口が勝手にぃぃぃ!!
「やったあ!!」
天使に抱き着かれたあぁぁぁ!!
悶え死ぬぅぅぅ!!
もしくは今後ダンジョンで死ぬぅぅぅ!!
「もし私たちに協力出来ることがあったら何でも言ってくれて構わないよ。出来る範囲のことだったら協力するからね」
「私はお弁当でも作ろうかしら?」
予想外に協力的な小鳥遊両親。
やはりどこかネジが外れているのだと思う。
「きょうかもおてつだいします!」
この子はただ天使なだけだ。
「じゃあ、ポーションを貰いたいんだけど、良いかな?」
おっと、本題を忘れていた。
というよりは、私は何とか逃げようと思っていたので、そんなに重要に考えていなかっただけなんだけど……。
「りんさんもがんばってくださいね」
この笑顔を見たら、もう逃げられそうもない……。
「ポーション?別に構わないよ。どうせなら薬箱ごと持っていきなさい。どこで怪我するか分からないからね」
本当にこの家はポーションを絆創膏くらいにしか思ってないんだな。
「あ、違うの。撮影に使うカメラを買おうと思ってるんだけど、結構高いらしくて。それでダンジョンで採れたポーションだったら買い取ってくれるって聞いたから」
「ああ、そういうことか。確かにあれは結構な値段で売買されているからね」
あれ?小鳥遊父は高く売れることを知っているんだ……。
これは厳しくなってきたか?
「うーん……」
難しそうな顔で考え込む小鳥遊父。
空に聞いた話では、とても高校生が持っていていい額ではなかった。
でも、小鳥遊さんを見ていると、家族も世間知らずなのではという期待があったんだけど…。
「ちょっと待ってなさい」
そう言うと小鳥遊父は立ち上がって部屋を出ていった。
小鳥遊母はその間もずっとニコニコしたままだ。
少しして帰ってきた小鳥遊父。
「阿須奈、それだったらこれを売ってカメラを買いなさい」
その手に持っているのは紫色の大きな水晶のようなもの。
「え?それを?だってそれって――」
「これはだいぶ前に知らずに売ったことがあって、その時にポーションなんかより高く売れたから」
「そ、それって!!」
説明してからもずっと小鳥遊父に怯えていた空が急に立ち上がって叫んだ。
「魔結晶じゃ?!しかも最高級の紫魔結晶!?」
なんじゃそりゃ?
紫色の水晶とは違うのか?
水晶に色があるのかは知らんけど。
「お、空ちゃんはよく知ってるね。そうそれだよ」
「だ、だ、だったら!そんな貴重なもの、もの……」
あ、また気絶した。
何故に魔物は平気なのに、アイテム関連に弱いんだろうか?
まあ、今は大事なところだから放っておこう。
「本当にこれの方がポーションよりも高いの?」
小鳥遊さんは半信半疑といった感じ。
確かに珍しそうではあるけど、私には奇跡の薬って言われているポーションの方が高そうに思える。
「前に売った時は――8000万円で売れたよ。これならカメラ買えるんじゃないかな?」
――がふっ!!
は、8000万円!?
おい!!小鳥遊父!!
買うのはカメラだ!!カメラ屋じゃない!!
「え?この漬物石って、結構な値段で売れるんだあ」
「まあ、物置にたくさんあっても邪魔だし、普段は本当に漬物漬けるのに使うくらいしか用途がないから、いくらでも売ってくれて構わないよ」
……空。
私もすぐにそっちへ行くね……。
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