第17話 転校生は世間知らず?

「ダンジョンのアイテムって売れるの?」


 小鳥遊さんが不思議そうな顔でそう言ってきた。

 ダンジョンのアイテムが高額で取引されているのは、さすがに私でも知っている。

 武器とかはダンジョン内でしか使えないらしいが、探索者にとっては高くても喉から手が出るほど欲しいものらしい。まあ、そりゃそうだよね。自分の命がかかってるんだから。

 外で使えないという意味はよく分からないけども。


 あとはポーション類。

 これは特に高額で取引されるアイテムだ。

 これだけは外の世界でも効果を発揮するんだから、そりゃ高値が付くってなもんだ。


 たちどころに大怪我を治したり、毒に侵された人を治したりと大活躍。

 事故に遭って瀕死だった人が助かるレベルの効果らしいからね。


 ただし、ダンジョンで見つかる数は極めて少ない。

 稀に魔物が落としたり、宝箱的なものから見つかったりするみたいだけど、ゲームみたいにぽんぽんゲット出来るということはないらしい。

 それでも、1つ見つければサラリーマンの年収の何倍ものお金が手に入るというんだから、探索者の数が増え続けているのも頷ける話だ。


 ん?何か忘れているような気がする…。


「売れる売れる!ポーションとまではいかなくても、薬草の1つでも見つければカメラ買えるよ!」


 空はすでにやる気満々の様子。

 頼むから私の事は巻き込まないでくれ。


 私は祈るような気持ちで湯舟の中に顔を沈めていった。


「じゃあ、あれも売れるのかな?」


 小鳥遊さんが何かを思いついたように言った。


 その言葉で私が何を忘れていたのかを思い出して、全裸だというのを忘れて立ち上がってしまった。


「うおっ!どうした急に立ち上がって?ここの効能で胸でも増えたか?」


「そんなもんここ数年増えてないわ!!いや!ほっといて!!」


 そうだよ。ここはダンジョンの中じゃない。

 で、ここに長い間住んでいる家族がいるって事は…。


「阿須奈の家って、ポーションとかもいっぱいあるんじゃないの?」


「あ!!そうだ!!」


 稀にしか見つからないとはいえ、お父さんたちの時からここに住んでいるんだったら、いくつかは残っていても不思議じゃない。

 小鳥遊さんが持っていた、何か凄そうな剣の事を考えても全然あり得ることだと思う。


「ポーションならあるけど……売れるやつかどうか分からないよ?」


 逆に売れないポーションはただの水かな?

 中身が毒とかでも買う人はいそうだし……。


「あ、でも勝手に売るわけにはいかないよね……高価な物だし……」


 一瞬で上がっていたテンションが通常より下がっている空。

 見えたと思っていた光明が、実は自分に差していたのではないと気付いたんだろう。

 それでも私は――


「一応聞くけど、それってどれくらいある?」


「怪我を治すやつだったら薬箱にいくつかと……あとは物置にいっぱいあると思うよ」


 ポーションが常備薬扱いされてる…。


「いっぱいあるって事は、今までに売ったこと無いの?」


「うーん。私が知ってる限りでは無いと思う。お父さんたちが売らないってことは、大して価値が無いんじゃないかな?」


 そんなことはない!!

 この家の常識が世間の非常識なのは、この2日で身に染みて分かっているのだ!!


 そう、小鳥遊さんの両親も含めて。


「価値の無いポーションとかってあるのか……?」


 空がそんなことを呟いているが、すでにその顔は真っ赤だ。

 あんた、そろそろ上がらないとのぼせるよ?


「阿須奈、物置に置いてあるポーションて、1個譲ってもらうことって出来るかな?あ、もちろん、ご両親が良いって言ったらだけど」


「うん。全然大丈夫だと思うよ。一応聞いてみるけど、物置に入れてあるのは邪魔になるものばっかりだし」


「本当!!」


 再びテンションマックスになって立ち上がる空。

 私の視界に空の鍛え上げられた裸体が見せつけるように入ってくる。


 あんた、今の状態でそんないきなり立ったりしたら……。


「あ……」


 ほら、そうなるよね。


 空はふらふらっとした次の瞬間、どぼんと湯舟の中に沈んでいった。


 回復の泉の効能のところに、「湯あたりは治せません」と追記しておこう。




「ぷはあー!!生き返るー!!」


 瓶に入ったコーヒー牛乳を一気に飲み干した空が、そんなおっさん臭いことを言っている。


 私としては半分くらいは死んだままの方が静かで良かったんだけどね。


 ふらふらの空をなんとか着替えさせて、私が担いだまま小鳥遊さんの部屋まで戻って来た。


 私より身長が10センチ以上は高い空を背負っていたにも関わらず、何故か簡単に運んでくることが出来たのが不思議だ。

 あ、もちろん、体重も空の方がある……はず。

 ただ、背中に当たるドでかい異物はとても不快だったけどね。


「お父さんはまだ帰ってきてないみたい」


 それを確認する為に出て行っていた小鳥遊さんが戻って来た。


「今日は少し遅くなるみたいだから、良かったら先にご飯でも食べて待っててってお母さんが言ってるんだけど」


 そこで私はスマホの時計を見る。

 19時……おっと、これは帰ったら怒られるやつだ。


「あ、鈴ちゃんの家にはもう連絡してあるって」


 お母さんナイス!!


「え?私も良いの?」


 空が目を輝かせてそう言う。


「もちろん!あ、でも、空ちゃんの家は連絡してないから、先に連絡入れといた方が良いよ?」


「それなら大丈夫!うちの親が帰ってくるのはまだ先だし、部活のある日は帰るの21時とかになってるから」


 いや、今日も部活はあっただろうよ。

 勝手に休んだだけで。


「じゃあ、お父さんが帰ってくるまでご飯食べて待ってようか」


「あ、それなんだけど――」


 私は先に確認しておかなければいけない大事なことがあったのだ。


「物置ってどこにあるの?」


 トイレは3階。お風呂は5階。

 さあ、物置はどこだ!!



「物置は30階よ」


 ぎゃふん!!



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