第15話 転校生は配信者になる?
「あんた……どういう神経してるの?」
何で――何の躊躇も無く斬りかかっていけるのか。
「ん?何をそんな呆れたような顔してるの?ダンジョンで魔物を倒すのは普通でしょ?」
「それは普通だけど!初めて魔物見た女子高生のあなたがそれをするのがおかしいって言ってるのよ!!」
いくら見た目がそうでもないスライムだといっても、空の行動はおかしすぎる。
「初めて――見たってわけじゃないからかな?鈴だってスライムなんて見た事くらいあるでしょ?」
「無いわよ!!そんなもん動物園にいるわけじゃないしね!!」
「まあ、鈴ちゃん落ち着いて。鈴ちゃんだってスライムは昨日見たじゃない。初めてなのに全然悲鳴も上げなかったし、私凄いなって思ってたの」
……いえ、見てませんが?
見たのは馬鹿でかい芋虫だけですけど?
「ほら、最初に私の部屋に行く時、何匹もいたでしょ?」
「ずっと目を瞑っていたんで見てない……」
私……そんな中を歩いてたんだ……。
「あ……ああ……そうだったんだあ……」
あ、何かゴメンね。
小鳥遊さんまで気まずい気持ちにさせちゃって。
「いや、ここじゃなくても、ネット配信とか動画とかでいくらでも上がってるじゃない?一度も観たこと無いの?」
配信?動画?スライムが?
「……無い。そんな存在すら知らない」
「マジか!?あんた、普段ちゃんと文明人としての生活してる?」
何でそれを観てないだけで、未開人扱いされにゃあならんのだ。
「え?そんなのあるの?」
小鳥遊さんの方がその話に食いついた。
「あれ?阿須奈も観たこと無いの?」
ほらみろ!!
別に私がおかしいだけじゃないじゃないか!!
「私の家、ネットだけはどうしても繋がらなくて」
電気水道電話が不思議接続されてるのに!?
「そうなの?――あ、本当だ。スマホのネット接続だけが圏外になってる」
空はポケットからスマホを取り出して確認する。
私も昨日はそれどころではなかったので、今聞くまで知らなかった。
「で、空はそれが好きで観てたからスライムがどんなのか知ってたってわけ?それでも全然怖がらないってのが、私には信じられないわ」
「私の場合は好きでってわけじゃなくて、高校卒業したら探索者になろうと思ってるから」
「――え!?――は!?――探索者!?」
「そう、探索者」
やっぱり私の聞き間違えではなかった。
空は至って真面目な顔でそう言った。
「……初めて聞いたんだけど」
「初めて言ったからな」
せやな。
無駄なやり取りをしてしまった。
「ねえねえ!その動画ってどんなことやってるの!?」
もうね、話の流れとか、場の空気とは、小鳥遊さんには関係無いんですよ。
ここは普通だったら、空の将来について話を進める流れじゃない?
「まあ、そういうのをやってる探索者ってのは、ほとんどが浅い階層で撮影してるから、大した魔物は出てこないよ。下に潜ってしまったら撮影どころじゃないんでしょ。だから、スライムとかグリーンキャタピラーとかを相手に、芝居がかった動きと台詞を編集で凄そうに見せてる動画がほとんどかな?」
まあ、下の階層の魔物がどういうものか知らないけど、国を挙げて探索してるくらいだからね。
そんな撮影の為に探索者やってるような人たちが下りて行ったら、それこそ命がいくつあっても足り無さそう。
ちなみに現在の世界記録は、ランキング1位のアメリカの人が率いるチームが先月踏破したフロリダのダンジョンの地下33階らしい。
昨日調べた時にネットニュースが載ってた。
「そっか、じゃああんまり面白そうじゃないね」
そりゃ小鳥遊さんにとったらそうだろうね。
部屋行くまでにスライムがいて、トイレ行くのに芋虫がいるんだもんね。
そんな日常、私はいくらお金を積まれても嫌だけど。
……ん?あれ?
撮影目的とはいえ、一応はプロの探索者なんだよね?
そんな人たちが撮影しながら倒してるのが芋虫?
この家の地下3階?
私たちがお風呂に入りに行くのは……地下5階?
んん?んんん?
「そうだね。阿須奈が観ても面白くないかも?私だって、明日になったらつまんなく感じるんじゃない?だって今から行くのは地下5階でしょ?米軍が初めてそこまで行ったのは、ダンジョンが出来てから半年以上経ってからでしょ?それもめちゃくちゃな犠牲を払って。そんなとこに行っちゃったら、あんなちゃちい動画なんか観れなくなると思う。まあ、中にはエンタメに振り切った動画もあるから、それはそれで面白いけど」
なるほどなるほど。
そんなところに行ってお風呂に入ろうとしてるんだな私たちは。
イカレてんなあ。
「5階って別にそんな強い魔物が出てくるわけじゃないのにそんなに大変だったんだ」
「ほら、最初は何も分からない状態だったから、地上の兵器を持ち込んで失敗してたみたい」
「ああ、じゃあ仕方ないわ。ここは素手や魔法か、ダンジョン内で見つけた武器とかしか効果がないから」
「魔法の存在なんて、分かるまで数年かかってるしね」
小鳥遊さん。あなた基準で話をしてるのに、何でか空と会話がかみ合ってるのが不思議なんですけど?
多分今の話だと、5階でも十分にヤバいって事じゃないんでしょうか?
そんな私の心配を余所に、小鳥遊さんの口から衝撃的な言葉が発せられた。
「空ちゃん――じゃあさ、私たちで動画を撮ったら良いんじゃない?何かそういうの楽しそう!!」
……私、たち?
小鳥遊さんと空で?
「ね?鈴ちゃんもそう思わない?」
あ、やっぱり私もそこに含まれてるんですね。
全く思いません!!
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