第14話 転校生は仲間を増やす?

「何……これ……?」


 空の反応は私と同じようなものだった。

 というか、他の反応をする奴を見てみたいわ。


「え?あれ?私…今……」


 私は空の肩をぽんと叩いて、その気持ちに同意するという意味を込めて頷いた。


「空ちゃんようこそ私のお家へ!!」


 今はそういうテンションじゃないから。


 空はまだこっちの世界に戻ってきてないから。


「これってまさか……ダンジョン?」


 お、意外と物分かりが早いじゃないか。

 脳筋だと本能で考えてるのか?


「そう!私の家はダンジョンになっているんでーす!!」


 二人も家に遊びに来たからか、小鳥遊さんのテンションが爆上がり中の様子。

 その内の一人である、私は拉致されたんだけども。


 私は家の入り口を手を広げて空が逃げ出さないようにブロックする。

 ここまで来たら、お前を逃がすわけにはいかないんだ!


 私は不敵な笑みを浮かべて空を迎え撃つべく腰を落として構える。


「すごーい!!」


 そう、すごーい体勢でかまえ―――は?


「え!?うそ!?マジで阿須奈の家ってダンジョンなの!?」


 何故そこで喜ぶ?

 驚いて、恐怖で逃げ惑うところだろうが。

 魔物の巣窟に誘い込まれたんだぞ?


「うん!本物のダンジョンだよ!!」


「やったー!!」


 何?どうしたの?2人のテンションに付いていけないんだけど?

 ひとつなぎの財宝でも見つけたのか?


「うわあ!!どうしよう!!ねえ!!鈴ってば!!どうしたらいい!?」


 とりあえず私の頭をめちゃくちゃに揺さぶっている手をどければ良いと思うよ?

 その制服が私のレインボーシャワーで汚れても良いと言うのなら別だけども。


「空ちゃんがそんなに喜んでくれるなんて嬉しい!!」


「だってダンジョンだよ!!そりゃ喜ぶに決まってるじゃん!!ねえ鈴!!」


 発射のカウントダウン入りまーす。


 3……。


「あれ?鈴ちゃんの顔色が真っ青だけど……」


「え!?あれ?どうした鈴?おいって!!」


 1……0。




「阿須奈……ほんとにゴメンね……」


「ううん、全然気にしないで。体調が悪い時は仕方ないもの」


 小鳥遊さんと私は、持ってきた雑巾で床掃除をしている。


 うう……こんなの人に見られるのは恥ずかしすぎる……


「いや、お前は私に謝れよ!」


 私のレインボーシャワーの直撃を受けた空はとりあえず制服を脱いで体操着に着替えていた。


「いや、お前は私以上に気にしろ。そして私に土下座して謝れ」


「何でだよ!!」


「それが世の中の摂理だからだよ」


「まあまあ――」


 小鳥遊さんが私たちのじゃれ合いを止めようとしていると、奥から小鳥遊母がやってきた。


「二人ともよかったらお風呂沸かしたから入っていって」


 まるで私の粗相が無かったかのような笑顔でそう言ってきた。


 天使2人を生んだ母もまた天使であったか……。


「じゃあ!3人で一緒に入ろうよ!」


「入ります!!」


 あれ?口が勝手に……。


「お前…何でそんなに乗り気なんだ?そんなに気にするほど臭くないぞ?」


 吐いた後なの思い出して、逆に気になってきたわ!!


「じゃあ、ここ掃除終わったらお風呂行こうね!!」


 そこでようやく思い出す。

 ここがダンジョンだったことを…。


「阿須奈……お風呂って……何階?」


 トイレは3階だった。


「お風呂?5階だよ?うちのお風呂広いんだよー!!」


 ご…か……い……。


 どっかの馬鹿がダンジョン探索だーとかはしゃいでやがる。


 お前なんか芋虫見て漏らしてしまえ。




 私は脳筋を舐めていた。

 そのことをこれほど後悔する日がくるなんて思ってもみなかった。


 いや、あのはしゃぎ具合から察することが出来たのかもしれない。

 しかし、見るのと聞くのとでは全く違っているとかあるじゃない?

 ダンジョンなんて、いくら憧れてたからって言ってもさ、本当に魔物に遭ったら怖いじゃない?


 普通はさ……。


「へえ、これが探索者カードってやつ?」


 何をしれっと倒しやがってございますの?



 ほんのちょっとだけ時間は戻って――


 玄関ホールから昨日晩御飯を食べた部屋のある通路へ向かった私たち。


 先頭を歩く小鳥遊さん。

 その背中にしがみついている私。今日は目を開けていられた。


 そして、物珍しそうにきょろきょろしている空。


 そうして余裕かましていられるのもあと少しだぞ。


 私が必死で目を開けているのは、怖がる空を見るためだ。


「ねえ、あれ何?」


 空が天井を指さしながらそう言う。


 その先を見ると、天井に張り付いている緑色のジェリー状のものが。


「あ、あれはスライムよ」


 事も無げに言う小鳥遊さん。


 サイズ的には私の部屋にあるクッションよりも大きい。


「おおー。あれが本物のスライムかあ」


 何を感心しているんだ?

 お前は偽物のスライムを見たことがあるのか?


 しかし、そんなやり取りをしながらも小鳥遊さんの歩く速度は変わらない。

 私も離れるわけにはいかないので、一緒にスライムへと近づくこととなる。


「あれどうするの?襲ってきたりする?」


 するよ。きっと、でろんでろんに動いて襲ってくるよ。


「ん?別に気にしないで良いよ」


 いやあ、気にしてほしいかな?


 私たちがスライムのほぼ真下に来た時、奴が降ってくるのが見えた。


「たかな――」


 叫ぼうとした言葉が終わる前に、そのスライムは縦に両断されて消えていった。


「おおー!!凄い!!何したのか全然見えなかった!!」


 手を叩いて喜んでいる空。


 でも、私には見えた。

 何か光のようなものがスライムを両断するところが。


「二人は気にしないで進んでくれて大丈夫!ゴミ掃除は私がやりますから!!」


 褒められたことに更に気を良くした小鳥遊さん。

 へへん!といった感じで胸を逸らしている。


 何か可愛いな。

 いや、もともと可愛いんだけどもさ。


「ねえねえ!次にいたら私にもやらせて!!」


 おい!何馬鹿な事を言い出すんだ!?


「いいよ!」


 おい!何馬鹿な事を聞いてるんだ!?


「じゃあ…空ちゃんにはこれが良いかな?」


 そう言って一本の剣を空に……それどこから出した!?


「おおー!本物の剣だ!かっけー!!」


 いや、違う。驚くところはそこじゃない。


 その剣は昨日私が使ったのとはまた違う剣。

 装飾は少し地味だったが、その刀身は黒く艶のある光を放っている。


「空ちゃんは力がありそうだから、この方が使いやすいと思うよ」


 ぶんぶんと片手で剣を振り回す空。


「うん、しっくりとくる」


 お前はどこぞの剣豪か何かか?


 そして――



「へえ、これが探索者カードってやつ?」


 いとも簡単にスライムを真っ二つにしたのだった。





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