第13話 転校生は友達を増やす?
「ねえ、阿須奈。ちょっと…いいかな?」
私はあまり気が進まないかったのだが、もしかしたら――いや、上手く誘導できれば、私の身代わりに…人身御供に…生贄に……おっと、空と阿須奈が友達になれるんじゃないかと思って声をかけた。
「どうしたの?鈴ちゃん」
そんな私の企みを知らずに、無垢な笑顔を向けてくる阿須奈。
ああ、やっぱり普段こうして見るとヤバい。
昨日で慣れたと思っていたのに、全然駄目だ…。
「あの、あのね。阿比留って子がいるんだけどね。その子も一緒に昼ご飯食べるのってどうかなあ?って思ったり思わなかったりしてね…」
いかん!この顔を見ていると私の良心が痛む。
「思ったり思わなかったり?どっちかな?」
「思ってます!めちゃくちゃ一緒にお昼したいです!!」
しかし!私は心を鬼にするのだ!!
でないと、本当の鬼にいつか喰われてしまう……。
「阿比留さんて鈴ちゃんのお友達でしょ?二人が仲良さそうに話してるの見てて、私もお話したいと思ってたの」
食いついた!!
いや、落ち着け私の心の鬼よ。
そして、決して仲良く話してたわけじゃないぞ?
「じゃあ、空に伝えておくね。場所はいつものところで良い?」
落ち着けそうな中庭のベンチ。
まあ、遠目で小鳥遊さんをうっとりと見つめる視線は多いのだが……。
「空は購買派だから、後から来ると思うから」
「購買……」
そう言った途端に小鳥遊さんの表情が曇った。
ん?何か嫌な思い出でもあるのかな?
「ゴメン!ちょっと遅くなっちゃった」
私と小鳥遊さんがベンチに座ったと同時に、空がパンを片手…両手に持って走ってきた。
いや、早すぎるだろ?
私でももう少しかかるぞ?
「いやあ、今日はなかなか重量級が多くてさ。ちょっとどけるのに手間取っちゃって」
さすが脳筋。
購買でもブルドーザー方式なのか。
「あ、小鳥遊さん。クラスメートなのに変だけど、阿比留空です。初めまして」
ん?こいつこんなにちゃんっとした挨拶出来るのか?
風邪ひいてる?
「小鳥遊阿須奈です。よろしくお願いしますね」
おうっ!
軽く小首を傾げる仕草と天使の笑顔!!
死ぬ!悶え死ぬ!!
「あんた気持ち悪い動きしてどうしたの?脱皮でもする前兆か?」
それなら私は蝶になりたい。
綺麗な羽で優雅に舞う可憐な蝶に。
「蛾になって、鱗粉撒き散らすなよ」
その時はお前を粉まみれにしてやるよ。
「隣良いかな?」
空は私と反対側の小鳥遊さんの隣に座った。
さて、後はどうやってあいつを釣るかだけど…。
「えっと、阿須奈って呼んで良いかな?私も空で良いからさ」
自分から釣られに来た!!
まだ餌も付けてない針に食いついてきた!!
「え!?……えっと、空ちゃん?」
「そうそう。じゃあ、私はこれから阿須奈って呼ぶね」
「空ちゃん…阿須奈……。じゃあ、私たち親友だね!」
さあ、空よ。この試練を乗り越えられるか?
「うん!親友だ!!」
類友だった……。
まあ、お前の将来はどうでも良いか。
「え!?阿須奈って、鈴の隣の家に越してきたの!?」
あ、そこから言ってなかったか。
すまん。睨むなよ。
「だから今朝も一緒に登校してきてたのか」
ん?お前は部活の朝練だったんじゃないのか?
「ちょうどたまたま二人が登校してきた時に正門近くで素振りしてたから」
……ストーカーかな?
じゃなきゃ、通り魔未遂で捕まってしまえ。
「ねえ、空ちゃんも今度私の家に遊びに来てよ」
キタキター!!
「え?良いの!?」
「もちろん!私たち親友でしょ?鈴ちゃんも昨日来たのよ」
家に行った感覚は無かったけどね。
「うん!行く行く!!いつだったら都合良い?」
「私はいつでも、それこそ今日でも良いけど?」
「じゃあ今日の放課後に行っても良い!?」
「いや、あんた部活があるでしょ?」
「休む!!」
よくぞ言った!!
ようこそ小鳥遊被害者の会へ!!
「鈴の家は昔から何度も行ってるから、阿須奈の家も分かりやすくて良いね」
帰り道、そんな余裕をかましながら歩いている空。
ふふふ。
「着いたよ。ここが私の家でーす!!」
小鳥遊さんもテンションが上がりっぱなしで、学校での清楚な雰囲気はどこにもなかった。
「あ、この家は記憶にあるよ。鈴の家も久しぶりに見たけど懐かしいな」
そういや、高校入ってから空は家に来てないや。
まあ、そんなノスタルジックな気分に耽っていられるのも今の内さね。
せいぜい楽しんでおいで。
「じゃあ、私はここで」
二人にそう言って私が自分の家の方に歩いていこうとすると――
「何言ってんの?あんたも来るに決まってるでしょ?」
空に腕を掴まれてしまった。
いつ決まった!!
私は聞いてない!!
魔女裁判か!?弁護士を呼んでくれ!!
「そうよ、鈴ちゃんも一緒!!」
逆の腕を小鳥遊さんに抱き着かれる。
うん。これはこれで良い。
その一瞬の気の緩みを突かれて、私はモンスターハウスへと引きずり込まれてしまったのだった…。
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