第12話 転校生はUNKNOWN?
小鳥遊ファミリーとの夕食は特に何の変りもない普通の家庭の食事風景だった。
主に私が質問を受けるような形になったが、内容的には小鳥遊さんの学校での様子がメインで、これからも仲良くしてやってくれというようなことだった。
ちょっと拍子抜けした私だったが、こちらから魔王ってどんなでした?とか聞くには、流石に初対面でははばかられたのだ。
それに、これ以上巻き込まれたくないという気持ちが強かった。
帰る時に家族総出でお見送りされたのは照れ臭かったが、鏡花ちゃんの手を振る姿はどうしようもなく可愛らしく、最後まで後ろ髪をひかれる思いで家に帰った。
部屋に戻った私は、探索者カードとスマートフォンを机の上に取り出し、ダンジョンと探索者について調べた。
それまでの私の知識だけでは、このカードを持っている事すら怖かったのだ。
現時点で世界中で確認されているダンジョンの数は365個。
そのいずれも最下層と思われる階層は未だ発見されておらず、その全貌は不明のまま。
その探索に当たっている探索者は、公人個人含めて1億人を超えており、日々その人数は変動している。
この変動というのは増えているだけではないということだろう。
つまり、探索中に命を落とす人も少なくないということ。
そして探索者カードだけど、このカードは国が管理しているシステムに登録すれば、氏名がランキングに反映されるようになっているそうだ。
そのシステムもダンジョンから発見されたものらしい。
しかし、登録しなくてもポイントとランキングは反映されるらしく、その場合は「UNKNOWN」とランキングに表示されるらしい。
ちなみに、そのランキングは全世界共通とのことで、いつでも国連のHPで見ることが出来るとのこと。
で、今日現在のランキングトップ10がこちら!!
ランク1 ジョージ・ビシェット(アメリカ)
ランク2 UNKNOWN
ランク3 トレバー・ガルシア(アメリカ)
ランク4 UNKNOWN
ランク5 ルイス・ポープ(イギリス)
ランク6 李 震(中国)
ランク7 UNKNOWN
ランク8 コリン・ブラッドリー(アメリカ)
ランク9 ジキヤ・アンドレイ(ロシア)
ランク10 キリアン・フェキル(フランス)
ランキング上位にいる人たちは全て国に属している軍人さんらしい。
まあ、一般人が参加するまでは国が独占していたんだから、累計のポイントだって当然高いに決まってるけどね。
で、問題はですね。
この3人の「UNKNOWN」なんですよ。
そんな人たちに混じって、ここにランクインする無登録の3人。
私の頭の中には、さっきまで顔を合わせていた人たちの顔が浮かんできた。
鏡花ちゃん、可愛かったなあ……。
いや、違う。そうじゃない。
私が生まれる前からダンジョンに住んでいる夫婦。
そこで生まれて、小さい頃から魔物を倒し続けているだろう娘。
職業サラリーマン、専業主婦、高校生。と、超可愛い妹。
無登録でランキング入りしている可能性はあるんじゃないだろうか?
だって、このカードを自分の家の来場ポイントカードくらいに思ってる人たちだよ?
絶対に登録なんてしてないよね?
だとしたら!!
……どうだというんだ?
別に私には何の関係も無いじゃない?
凄いかもしれない人が隣に引っ越してきたというだけの話じゃんね。
スン、と何かスイッチが落ちた私は、今日の出来事を思い出すことも無く、意外なほど簡単に眠りに落ちたのだった。
「鈴ちゃんおはよー!!」
「……おはよう…ごじゃい…ます」
次の日、私は目覚まし時計が鳴るよりも早く、小鳥遊さんの元気な声で起こされた。
なんで、私の部屋に小鳥遊さんがいるの?
「一緒に学校行こう!!」
なんで、朝からそんなにテンション高いの?
ぼんやりと体を起こした私のパジャマのボタンを小鳥遊さんが外して――
「ちょ!!何してんの!?」
朝っぱらから何をしようと!?
「え?着替えを手伝おうかな?って思って」
「大丈夫!!自分で着替えるから部屋の外で待ってて!!」
「そう?じゃあ待ってるね」
ああ!!一気に目が覚めたわ!!
お母さんには上げる前に声をかけてもらうように言っておかなければ……。
「え?声かけたわよ?上がってもらう?って聞いたら、「うん」て返事したじゃない?」
いや、寝てる人間の返事は信じちゃいけないよ母。
教室に着くと、早速小鳥遊さんはクラスメートに囲まれていた。
転校生ブームはまだ収束を見せる気配はない。
そりゃあ、あれだけ美人なんだから、みんなお近づきになりたいと思うのは当然なのかもしれない。
だから私は恵まれているんだろう。
そうか?友達になるとダンジョンに連れ込まれるんだぞ?
みんなはそれを知っても友達になりたいのか?
私は恵まれているんじゃなくて、巻き込まれているんだぞ!?
バンバンバン!と自然と机を叩いていた私に、いつものように空が声をかけてきた。
「どした?机からモグラでも出たか?」
「ええ、今退治しているとこ」
「忙しいところ悪いんだけど、少し相談があるんだけど」
「ちょうど退治終わったとこだから別に良いよ」
「そうか、奇行はほどほどにな」
ほっといてくれ。
「鈴はさ、小鳥遊さんと仲良いじゃん」
昨日その友情に亀裂が入ってるかもですけどね。
「お昼も一緒に食べてるんでしょ?そこに私も混ぜてもらえないかな?って思って」
「空も?何で?」
「ほら、あんな感じで、なかなか話しかけるタイミングがないじゃん。それに、鈴に小鳥遊さんの話をいちいち聞くのもなんだからと思って」
それで一緒にお昼を食べて仲良くなろうと。
どれだけ好奇心で動いてるんだこの脳筋は。
――ボキボキ。
「え?急に指鳴らしてどうしたの?」
「ん?あれ?なんでだろ?何か急に殴る準備しなきゃって思ったんだよな……」
「よし!私が小鳥遊さんにお昼一緒して良いか聞いておいてあげよう!」
「本当!鈴ありがとう!!」
こら、抱き着くな!!
お前の胸に私は殺意しか湧かないんだ。
阿比留空――別名脳筋のG。
筋肉質な体に似つかわしくない豊かなバスト。
もいでしまいたい!!
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