第10話 転校生はサプライズがお好き?

「ねえ……何が何だか説明してくれる…かな?」


 いろいろなことが一度に起こりすぎて、私の日本語は崩壊している。


 しかし、小鳥遊さんはそんな私の言葉が聞こえていないかのように、地面に落ちていた何かを拾っていた。


「はい!これが鈴ちゃんの探索者カードでーす!」


 そしてハイテンションで拾った黒いカードを私に差し出してきた。


「探索者…カード?」


 それは何度もテレビでは見たことがあるカード。

 スマートフォンと同じくらいのサイズで、ダンジョン探索をしている人が持っているものだと聞いたことがある。


 で、それが私の?何で?


「イッツ!サプラーイズ!!どう?驚いた?」


 それはどういう意味で?

 死にかけたことに関しては驚きましたが?


「鈴ちゃんは聞いたことが無いのかな?ダンジョンで初めて魔物を倒したら貰えるんだよ」


「え?私は魔物を倒してなんか……今のか!?私をぶん回して魔物にぶつけようとしたあれか!!」


「ぴんぽーん!!」


「じゃない!!」


 あれで私が芋虫を倒した事になるの!?


 むしろ、「私で」倒したんじゃない!?


「あれが一番早いと思ったの。でも、なかなか鈴ちゃんが呼んでくれないからハラハラしちゃった」


 いや、ずっと呼んでましたけど?

 最初から最後まで呼びっぱなしでしたけど?


 そんなに名前で呼ばれたかったですか?


「ほらほら!早く見てみてよ!」


 小鳥遊さんはそう言いながらカードを私に押し付けてくる。


 仕方なく受け取った私はカードを見るが、それは何の変哲もない真っ黒なカード。


 表も裏も分からない、何も書かれていないカード。


 私がくるくるとカードを裏返したりしていると――


「どちらでもいいから、カードを指でタッチしてみて」


 タッチ?さっきからべたべた触ってるのはタッチじゃないとでも?


 そんなことを思いながらも、私はカードの真ん中あたりを人差し指でタッチした。


 すると、その瞬間――真っ黒だったカードに文字が浮き上がる。



ランク Z

名前 鈴原 鈴


ポイント 50

ランキング ランク外



 でも、表示されているのはたったのそれだけ。


「……これだけ?」


 私がそう呟くと、小鳥遊さんは嬉しそうな顔で――


「じゃじゃーん!これはうちの家にいつでも遊びに来れるカードです!!」


 いや、違うやろ。


「そこに表示されているポイントが規定数まで貯まったら、素敵なプレゼントがもらえます!!」


 だから、そうじゃないだろ。


 てか、ポイント貯める為には魔物倒せってことでしょ?

 誰が貯めるか!!


「んー。プレゼント何にしようかなぁ……」


 そんな私の気持ちなどどこ吹く風で、楽しそうに考えている小鳥遊さん。


 世界広しといえど、探索者カードをポイントカード扱いしてるのはあなただけだよ。


「鈴ちゃんはクマが好きみたいだから、クマのぬいぐるみとかどうかな?」


 ……おい。


 それはいつどこを見てそう思った?


 さっきだよな?

 さっき私を振り回した時に見たんだよな?


 私のパンツ。



 私は小鳥遊さんに軽い殺意を抱きながら部屋へ戻ると、そこには小鳥遊さんのお母さんが待っていた。


「ねえ、鈴ちゃんも一緒に晩御飯食べていかない?」


 すでに鈴ちゃん呼びだ。


「え?でも……」


 一刻も早く帰りたい。

 さすがにそれは口に出来なかったのだが――


「遠慮しないで。せっかく初めて阿須奈のお友達が来てくれたんだから歓迎したいのよ」


 割と良い方に解釈してくれた。


 やっぱりこの家の人の感覚はおかしいと思いました。


「ねえ!食べていってよ!」


 小鳥遊さんがそう言って私の腕に抱き着いてくる。


 おう、主張が乏しいながらも、なかなかの感触が腕に……。


「……じゃあ、ごちそうになります」


 決して欲望に負けたわけじゃない。

 多分……。



 私が家に連絡を入れると言うと――


「もうお母さんに電話しちゃった」


 そもそも食べて帰る前提で話をしていたようだ。


 ちょっと怖いぞ。


 そして二人と一緒に玄関ホールへと戻る。

 二人いると安心だね。


 そして、玄関ホールに入った瞬間――私たちの目の前に巨大な魔物が姿を現した。


「ヒッ!!」


 その魔物は、私よりも遥かに背が高く、筋肉隆々なシルエット。

 頭髪は逆立って、その顔には表情が見えないほどの髭が……。


 そしてその魔物は大きな目を輝かせながら――


「ただいまー」


 そう言った。


「いやあー!!しゃべったー!!」


「あら?お父さん。おかえりなさい」


「いやあー!!お父さーんだー!!」


 は?お父さん?

 この魔物が?

 え?小鳥遊さんて魔物とのハーフなの?


「あれ?その後ろの子はもしかして……」


 ヒイッ!!

 私は反射的に小鳥遊さんの背中に隠れる。


「ふふふ――そう!!お友達の鈴ちゃんでーす!!」


 こら!大声出すな!

 気づかれるだろ!!


「ああ……阿須奈が……友達を……」


「そうなのよ……お父さん……」


 いや、小鳥遊さんが友達を連れてこなかったのは、多分あなたたちの建てた家のせいですよ?


 そおっと背中から顔を出して、改めて大男を見る。


 いや、やっぱり雪男とかの仲間にしか見えないって!!


「やだ、お父さん。どうしたのその髪?」


「え?ああ、帰りのバスでうたたねしてたから寝ぐせが付いてるんだな」


 は?その逆立った髪が寝ぐせ?

 逆立ちでもして寝てたの?


「あ、鈴ちゃん。紹介するね。これが私のお父さん」


 うん、もうこれまでの会話でそれは分かった。

 あと分かってないのは、その人が本当に人間なのかどうかよ?


 私はおずおずと小鳥遊さんの背中から出ていき――


「は、初めまして。鈴原鈴といいます。お邪魔してます」


 どうやら日本語が通じるようなので、とりあえず挨拶してみた。


「これはこれは。私は阿須奈の父です。ようこそいらっしゃいました」


 お父さんはそう言ってニコリと笑った。

 その笑顔に、どこか小鳥遊さんの雰囲気を感じた気がした。


 そして、大きく光っていた目は、丸い銀縁の眼鏡だったのだと分かった。



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カクヨムコン9参加作品です。

面白かったなあ。お父さんはオーガじゃん!

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