第15話
フューシャは、トリッシュと会話をするうちに平静を取りもどし、ふたたび勉強机に向かった。昼食までの自由時間は意外と長い。トリッシュは、落ちついて勉強する少年の背中をしばらく見まもった後、持ち場である診察室へ引き返した。そして、数日後におこなわれる健康診断の準備に取りかかった。現在、入所している子どもは5名である。さらにふたり増える予定もあり、ユリネルが置いていった新しい名簿を確認した。
「フューシャ、デューイ、スフィーダ、ブランカ、シェリィ、……それから、ライエルに、アッシュか」
後者のふたりは、まだ手続きの段階であったが、遅かれ早かれ、ユリネルが連れてくると思われた。念のため追加の
トリッシュは懐中時計で時刻を確認すると、
「なんだ医者、そんなところにいたのか」
しばらくすると、グレリッヒがもどってくる。いつもの作業服を着ていたが、トリッシュはたくましい胸もとが気になった。まじめに庭仕事をこなすグレリッヒだが、ときどき内側のポケットから小さいものを取りだし、熱心に見つめていた。診察室の窓からでは、手もとは不明だが、大切なものであることはまちがいない。グレリッヒの性格を考えたとき、お守りを持ち歩くような印象は受けないが(偏見だったら、すまん……)、それはたしかに、彼の心の支えになっていると思われた。
「そっちこそ、ユリネルとの密談は終わったのか」
庭師にたいして、トリッシュは素っ気ない口調に変わる。当初より、互いに敬語は使わない。ごく自然にそうなったが、どちらも気にしなかった。トリッシュは「メェー」と鳴くシロの頭をなでると、このさいとばかり、グレリッヒの顔を見据え、ポケットの中身をたずねた。
✓つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます