第13話
グレリッヒの意向により、乳用の雌山羊を飼うことになったものの、動物のあつかいに不慣れな薬師は、必要なミルクをうまく
「さっきから乳房に逆流している。根もとをしっかりつまんで、軽く乳首を押しあげてから、4本の指で搾るんだ」
「こうでしょうか?」
「もっと力を込めろよ。両手を使い、左右の乳頭を
シロの横から逆向きにすわり、うしろ足で蹴られないよう注意しつつ、ユリネルが搾乳に苦戦していると、シェリィの布おむつを干しにトリッシュが庭ヘやってきた。腕組みをして立つグレリッヒは、ユリネルが乳しぼりのコツをつかむまで、根気強くつきあっている。
「あいかわらず、下手くそだな」
「……トリッシュくん」
「よそ見をするな。作業に集中しろ」
トリッシュがユリネルの手つきを茶化すと、グレリッヒが口をはさんだ。医者は小さく肩をすぼめ、ふたりのじゃまをしないよう、診察室へもどった。すると、椅子の背もたれに掛けておいた白衣が消えている。
「デューイか」
犯人に
デューイの部屋は、奥から2番目の右側である。
「まずいな」
デューイだけでなく、フューシャのようすを気にかける必要がある。さいわい、ミルクをすませたシェリィは、ベビーベッドのある部屋で、よく眠っている。庭でシロの乳しぼりをするユリネルとグレリッヒに洗濯ものをまかせておき、先にデューイのもとへ急いだ。
「だいじょうぶか?」
手洗い場の個室に閉じこもるデューイは、返事をしない。なかでごそごそと動く気配があり、ひとまず生存を確認したトリッシュは、「
「いいか、デューイ。きみは、なにも恥じることはない。おれだって、あばれ馬を飼い
身体の一部を動物にたとえると、デューイが「ぷっ」と笑い声をもらした。しばらく待機した医者は、こそこそと個室から顔をだす少年に、「すっきりしたか?」と
「……う、うん」
この後、デューイはトリッシュに対して妙に素直な態度を示すようになるが、一方的な感情は、相手が望まない不幸や事故を引き起こす
「先生、こんにちは」
机に向かって静かに本を読むフューシャだが、雨がふると情緒不安定になりやすかった。
✓つづく
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