第12話
異世界の心療内科は、身体医学にも視野をひろげ、さまざまな心理的要因が精神面だけでなく、身体にも症状があらわれる点を重視し、ひとりの人間の全体を
「ねえ、なんでトリッシュは医者になったの?」
と、いきなり話しかけてきたスフィーダは、国語が苦手で算数が得意な少年である。ふちのないメガネをかけていたが、目が疲れるといって、よくはずしてしまう。トリッシュは眼精疲労を緩和する薬草をユリネルに調合してもらい、それを台所のグレリッヒに渡し、パンの
「なんでだろうな。ほかにやりたいこともなかったし、そうなるべきだと、早くに実感したからかもな」
備品室で、使える道具がないか探していたトリッシュは、物音が気になったのか、なかをのぞき込むスフィーダと会話した。少年は近くにあった木箱のうえに
「トリッシュって、ちょっと変わってるよね」
「そうか?」
「うん。初めて顔を見たとき、こ、こわいひとなのかと思った……」
「今は平気なのか」
「うーん、痛いことされるのはこわいけど、トリッシュはお医者さんだから、しかたないよね……。前にいたひとより、ずっとかっこいいし、同じ男のひとでも、ユリネルやグレとも全然ちがうし……」
子どもの視線とはいえ、遠慮なく全身を見つめられたトリッシュは、微かに眉をひそめた。スフィーダいわく、トリッシュの前任を務めた医者は、
「なんでだろう。トリッシュを見ていると、すごくふしぎな感じがする」
スフィーダに意外な洞察力を発揮されたトリッシュは、小さく笑みを浮かべた。
「きみは、案外、おれに似ているのかもな」
「じ、じぶんが? どうして?」
「そのうちわかるさ」
真意をはぐらかされた少年は、ますますトリッシュの顔を
「きみは、動物が好きなようだな」
「それって、シロのこと?」
「
「うん。いつもピーヒョロロッてなくの。なんの鳥かなぁ」
「
「もうきんるいって、なに?」
「動物を捕食する
虎嵩が生態系の食物連鎖を授業で
「じぶんも、トリッシュみたいなお医者さんになりたいなぁ」
数日後、少年は獣医の資格に興味を示すようになる。
✓つづく
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