第10話/書簡
拝啓
先生、お元気ですか。
初めてお手紙を差しあげます。
以前、森のなかで霧に迷ったとき、
僕はあなたに救われました。
このご恩を返せるよう、
今は自分にできることから
始めようと思います。
自分の足で草のうえを
歩いてみると、
春のそよ風が心地よく、
たくさん花が咲いていました。
僕の自由を支えた先生は
かずかずの希望を
あたえてくれましたが、
すぐにそれとわからず、
子どもだった僕は
ひややかな目で見て
避けてばかりいました。
生きるすべを知ったとき、
僕は悔恨に悩み、
心で泣きました。
小鳥のようにふるえ
仔犬のようにおびえ、
なおも打つ心臓の音に
耳をすませると、
涙をおしひめて起き立ち
みずから幸福を砕いては
いけないということばを
思いだしました。
先生、僕の心の裂傷は
いまでも完全に癒えることは
ありません。
それでも、こんなに胸の奥が
あたたかく感じられるのは、
やさしさと悲しさを教わった
からでしょうか……。
生きる手だてをもたなかった
僕は、弱者という立場がきらい
でした。それでも、
人生は
いつの日か、
馬車に乗って逢いにいきます。
うしなわれなかった幼年を
過ごした場所、あの
輝かしい大地にかくされた、
エレメンタリーハーツへ……。
敬具
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