第6話
スフィーダは、好奇心旺盛な10歳の少年である。トリッシュは、フューシャと食堂でミルクをいれた哺乳瓶をもってシェリィの部屋に向かうと、庭へ遊びにいく途中のスフィーダと
「トリッシュと、フューシャ!」
言語症により〈エレメンタリーハーツ〉の住人となったスフィーダだが、有効な薬物などは明らかになっておらず、治療としては機能訓練をおこなうていどである。むしろ、環境の変化による悪影響が
「それ、シェリィのミルク?」
哺乳瓶をもつフューシャが「うん」と答えた。ならんで立つトリッシュは、バックベルトつきのスーツベストのうえに、ユリネルが新調した白衣を身につけている。
「スフィーダも行くか」
「じぶんは庭に行く!」
「そうか」
「じゃあね、ふたりとも」
スフィーダは、トリッシュと短いやりとりをして、階段をかけおりていく。施設の外には
「じきに帰れそうだな」
少年の背中を見送るトリッシュは、患者の回復をよろこんで云う。しかし、かたわらのフューシャは無反応を
ベビーベッドのなかで両手をバタつかせてミルクをほしがるシェリィを、フューシャがのぞき込む。
「先生、やっぱり、ぼくには無理です」
「なんでだよ。ここまできて
トリッシュにうながされ、フューシャはおそるおそるといった手つきで赤ん坊の頭を両手で少し持ちあげた。
「よし、それでいい。片方の手で首のうしろを支えながら自分の胸もとへ引き寄せるんだ」
泣いていたシェリィは、フューシャの体温を感じて安心したのか、丸い目でじっと少年の顔を見つめた。トリッシュは、体勢を保ちつつ椅子に腰かけるよう指示をだす。シェリィを横抱きにして哺乳瓶の乳首をふくませるフューシャは、ぎこちない手つきで授乳を開始した。
「赤ちゃんのからだ、やわらかくて緊張する。……先生、ミルクはどれくらいあげていいの?」
「ほしがるぶんだけあたえてかまわない」
多くの人間は、3歳より前の記憶は思いだせないという。これは脳の発達に関係していたが、こんなときがあったなと
✓つづく
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