第20話 続々改宗、入信
もちろん見た者ばかりではない。
そうでない者も一定数居る。
根尾もその一人だ。
彼女は面白くなさそうに言った。
「嘘でしょ。みんな本気なの?信じられない……」
すると、数人が声を上げる。
「大丈夫、私も信じてないよ。そんな夢も見なかった」
「俺も見れなかった」
「見た気がしてるだけじゃね?知らんけど」
ホッとしたように、根尾が呟いた。
「よかった……。もしかして私の方がおかしいのかと、少しだけ思っちゃってたよ」
そんな中で、黒江はもじもじとしながら口を開く。
「そ、空を飛ぶ夢を見た人は、少なからずそういう力が、普通よりも強いってことかと……」
この発言は夢を見た者達を、大いに喜ばせた。
「えーウチも超能力的な力あるってことー?」
「凄ーい!」
自分達は特別だという優越感。
思春期という、自分が特別であると思いたい年頃。
「俺に隠された力があったとは……」
「中二かよ!でも俺にもあるってことだよな?うわヤバッ」
まさに選民思想。
そして、動き始める。
「……私、入ろうかな、黒江の宗教。せっかく夢見たし」
「あ、じゃあウチも入る!なんか力あるなら伸ばしたいし」
「俺も黒江教入ってみようかな。別にタダだし」
渡辺もこの流れに乗り、本音を吐露した。
「実は俺もちょっと入ってみたかったんだよね。しかも空飛ぶ夢まで見ちゃったしなぁ」
田中も一郎に訊ねる。
「鈴木、俺も入っていい?」
「もちろん。黒江様は拒まないよ」
「よかった!でもさ……黒江様って呼ばなきゃ駄目?」
「別に呼び捨てでなければいいんじゃないか?僕らはそう呼びたいから呼んでるだけだし。強制はしてないから」
田中はホッと胸を撫で下ろした。
「そうか?じゃあそうするよ!」
これがネックだったのか、話を聞いていた他の者も口々に言う。
「様付けはなんか嫌だったけど、さんとかでもいいなら私も入る!」
その中には加藤純奈の姿もあった。
「……あたしも入っていい?夢見たし……。謝るからさ。黒江……さんに」
やはりこれまでの反応は、黒江の力を信じていたからこそ恐怖を覚えていたのだろう。
同じく、塚原も。
「俺もいいか?後、先に謝っとくわ。黒江……さん、今まで悪かったわ」
そんな二人を黒江は快く迎えた。
「あの、もう気にしてないから、大丈夫。嫌じゃなければ、い、一緒に仲良くして欲しい……」
「黒江様優しい」
「さすが教祖」
周囲の者から黒江の株が上がっていく。
根尾を始めとし、この流れを快く思わない者達は、苦々しい表情を張り付けていた。
空を飛ぶ夢を見れなかった者は疎外感と、自覚があるにせよ無いにせよ、こちらに来たいという思いに駆られていることだろう。
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