第21話 学修会事件被害者家族
根尾達を横目に見ながら、渡辺が愚痴を溢した。
「にしてもさあ、根尾の奴。何かと突っ掛かってきてうざいよなぁ。入らないなら入らないで、放っておいてくれればいいのにさぁ」
これに田中が答える。
「あー、仕方ないよ、根尾さんは」
「なんで?」
「中学の時の話だけど、あいつん家の親、学修会って新興宗教に嵌まって、根尾さんと弟を捨てて蒸発したから」
「……マジ?一家離散ってやつか」
「確か今は、祖父母の家に住んでるらしいよ。だから宗教とかそういうのを、目の敵にしてるんだと思う。同じ中学の奴には結構有名な話だよ」
「そりゃ宗教ってだけでアレルギーも出るか……」
しかし、渡辺は納得できない。
「……でもだからって、そんなカルトみたいな新興宗教と俺達を一緒にするのは違うだろ。気持ちはわかるけどよ……」
「まあ、そうだよね」
「うんうん」と、近くに居た者らも頷いた。
だが黒江だけは、深刻そうに顔を伏せる。
一郎はそんな様子を見逃さない。
「……」
……どこでダメージを受けてるんだよ。
別に根尾のそれはお前のせいじゃないだろ。
頼むからこんなことで萎えてくれるなよ。
そう願わずにはいられない。
そしてこの日の放課後のこと。
またも渡辺発信で、議論が始まる。
「俺よく知らないんだけど宗教ってさ、具体的にどんなもんなの?何すればいいんだ?」
多くの者が、この意見に同調した。
それを受け、渡辺が訊ねる。
「鈴木、どうなんだ?」
「え、僕?」
「お前しかいないだろ。黒江様の代理人だか補佐役?みたいなことずっとやってたじゃん」
「ああ、まあ、誰もやらなかったし。黒江様にもお願いされたから」
「こういうことも詳しそうじゃん?」
「別に詳しくは無いよ。だから今、色々頑張って調べたりはしてるけど……」
「おお!じゃあやっぱ丁度いいんじゃん!その調べたことをわかりやすく俺らにも教えてくれよ!せっかく宗教に入ったんだし、どうせならなんか活動したいんだわ!」
「それ私も思ってた!」
藤咲だ。
「今は何もして無くて、むしろ物足りなかったし。……まあ、バレーがあるから大して参加できないかもしれないけど」
遠藤沙紀も会話に加わる。
「ねえ、そういう込み入ったことはファミレスでしない?話してる内に喉渇きそうだし」
遠藤は夢こそ見なかったが、これまで黒江を見てきて思うところがあったのか、流れに乗じて信者になっていた。
この話に皆もその気になって同意し、今日このまま信者となった者達でファミレスに移動し、集会が開かれることとなる。
自分が導かずとも状況が望んだ方へ転がっていくこの状況すら、一郎は見越していた。
……いい兆候だ。
◇
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