第74話 決戦は大晦日


 平成三十五年十二月三十日。

 真日本人教が提出した異能者リストを眺めながら、鳥町はいくつか質問する。


「本当に、この中から好きに選んでいいんスか?」

「ええ、もちろん。我々の命が狙われている状況ですからね……表に出していない異能者もたくさんいますよ」


 見たことも聞いたこともない異能がたくさん並んでいて、鳥町は少々興奮気味だった。

 一方で、兜森は冷上のことが気になって仕方がない。


 冷上は兜森とあの日別れた後、父親を殺した男だ。

 喜奥恵弁護士によって、無罪となり、さらには少年院に送られることもなかったが、その代わりここまではっきりと霊視ができる小学生は珍しいと、教団にスカウトされていた。

 実は才能ある少年少女を集めて、育成するプロジェクトが立ち上がっており、冷上はその内の一人だった。

 その美しい容姿から、育成プロジェクトの中心にいた喜奥肇のだったのだが、百合子に能力を買われ、今の地位についている。


「私の顔に何か付いていますか? 兜森さん」

「え……いや、その…………」


(俺のこと、覚えてない……のか?)


 冷上はにっこりと微笑んでいるだけで、それ以上何も言わなかった。

 プライベートと仕事はきっちり分けるタイプの人間になっている。


「ん……? この印がついている人は、なんスか?」


 リストを見ていた鳥町は、その中に数人、×印が書かれている人がいることに気がついた。


「ああ、それは、現在所在が確認できていない異能者です。連絡が取れないので……もしかしたら、あちら側に————八咫烏側にくみしている可能性があるかもしれないと、念のために」


 印がついていた中で、特に鳥町が気になったのは、鏡の中を自由に移動できる異能だ。


「鏡さえあれば、どこでも移動可能とか、なんだか妖怪みたいな異能っスね」


 年齢も二十代と若い。

 八咫烏の主なメンバーとされている年代ともあっている。


「異能は人の数だけ存在します。教祖様のお力で、その異能に目覚めた者であれば全員把握していますが、自らの力で、自然に目覚めた者までは流石に把握しきれてはいません。ただ、両親が異能者同士の場合、その子供は自然に目覚める可能性が高いというデータもありますので……」

「リストにない異能者が、八咫烏にいる可能性もあるって事っスね?」

「ええ、先日、うちの喜奥肇の顔が利用された事件も、おそらくその異能者によるものかと思います」

「なるほどぉ……」



 鳥町はしばらくリストとにらめっこした後、閃いた作戦を口にした。


「こういうのはどうでしょう? 名付けて、『聖典ホイホイ大作戦』っス!」

「なんだ、その作戦名は……! ふざけてるのか!?」

「大真面目っスよ!! とりま、あーしの話を最後まで聞いてください」


 兜森は思わずツッコミを入れてしまったが、鳥町の作戦はこうだ。


「まず、必要なのは、安寺あんじかけるさんの異能です。催眠術で、あーしを記憶喪失にできないっスかね?」

「催眠術……!?」

「相手は覚りっスよ? どんな巧妙な作戦を立てようと、心の中を読まれたら何の意味もないっス。なので、催眠術で作戦の記憶を消す必要があると思うんスよ」

「はぁ? 記憶がないのに、どうやって作戦を実行するんだよ」

「そのための、聖莉ちゃんっスよ!」

「聖莉ちゃん? なんで……?」

「聖莉ちゃんに、催眠術を解く役目をしてもらうんす。ほら、よく、手をパンっと叩いたら催眠が解けるとか……そういうのあるじゃないっスか!」


 この案に、さらに改良を加えて、聖典を動揺させるということで恋人役が必要になった。

 初めは、兜森を……という話だったが、そうなるともし以前から兜森の心を聖典が読んでいた場合、信ぴょう性にかけてしまう。

 しかも、安寺翔の話によれば、もちろん彼の催眠術の異能にも欠陥があり、普通の催眠術にかかりにくい人間には、異能が通じないのだ。

 兜森は催眠術がかかりにくい人間で、作戦に協力する人員のなかで一番催眠術にかかりやすく、年齢的にも適任とされたのが、茶木刑事だった。


「おそらく、あのキッショいストーカー野郎は、あーしに見張りをつけているはずっス。まずはそいつを割り出して……嘘の情報を聖典に流すっス。あーしが記憶喪失だってわかれば、すっ飛んでくると思うんスよ!」


 そうして翌日、唯一、聖典が心を読むことができない聖莉がベッドの下に隠れていた。

 病院のすべての箇所に設置された監視カメラをスマホで確認し、鳥町の体が聖典にしっかり触れていると思った瞬間、風船を割る。


 催眠にかけられ、作戦を忘れていた鳥町、茶木、美田園、そして、さらに信ぴょう性をますために呼ばれていた知世と、病院スタッフの催眠が解け、戻った記憶。

 自分以外に覚りがいることを知らなかった聖典は、この作戦にまんまと引っかかり、鳥町の異次元に収納されてしまった。


 病院からかなり離れた場所からモニタリングしていた兜森と伊振警部は、加賀と同じように瞬時に移動できる異能者・井道いどうしゅんの力を借りて聖典がしまわれた後、病院の男子トイレへ。

 冷上の睨んだ通り、鏡の中を移動できる加賀を捕まえるためだ。


「兜森圭!?」


 突然現れた兜森と伊振を見て、鏡の中へ逃げようとした福来だったが、すべての鏡は一瞬で兜森の異能により臭い水に変えられてしまった。

 鏡の中にいた加賀も鏡がすべて水に変わってしまったため移動することができず、姿が丸見えになってしまっている。


「やっぱり、あんたも異能者だったか……聖莉ちゃんから話を聞いた時は、まさかと思ったが————」

「本当に、余計なことばかりするわね……あなたたたち親子は揃いも揃って————」



 聖典の秘書・福来彩香。

 顔を変える異能を持ち、『青春小学校女児連続失踪事件』で、小間瀬菜々より前に殺害された女児の実の妹だ。


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