第54話 家族
平成二十一年の秋。
圭が中学二年生の時に、敬が
二人の出会いは三年前。
当時美香子は前夫である薬師丸氏と調停離婚のため依頼したのが敬が働いている大手弁護士事務所のだった。
当時、美香子の担当は別の弁護士であったが、敬はそのサポートで少し関わった程度。
しかし、その後、偶然再会したことがきっかけで恋の炎が燃え上がったらしい。
思春期の息子に、頬を赤らめながらノロケ話をされても……と圭は思ったが、美香子はベビーシッターとして働いているだけあって子供好きの優しい人で、何より姑になる恒子に気に入られていた。
美香子は圭にとっても理想の母親だったし、小学六年生の妹・
学校では、圭の
しかも、血の繋がらない妹という関係がどうも一部で流行りのラブコメ展開を期待されたが、現実はそんなものではなく、小学生の段階で既に舞には彼女がいた。
圭には、彼女のかの字もなかったが……
「なぁ、ところで、知ってるか? 幽霊屋敷の話」
「幽霊屋敷?」
中学から同じクラスになった
「ほら、何年か前にあっただろ? 幽霊屋敷に本当にしたいが捨てられていた話! 幽霊屋敷死体遺棄事件!!」
「ああ、あったな……」
(まぁ、その現場の一つは、うちが所有してる家だったんだけど)
「その犯人が最近やっと捕まったらしいんだけど、異能者だったって話らしいぜ? なんでも、霊視ができる医者の男だったらしくて……」
本堂は自慢気に話していたが、圭はすべて知っていた。
数週間前、事件が解決したことを告げに不動産屋が話に来たのだ。
犯人は、司法解剖を行っている大学病院の医師。
彼は、独自に異能の仕組みについて研究していた。
遺棄されていた遺体は、霊視ができる異能者の力が本物か調べるために使われたもので、司法解剖でも判別が難しい殺し方をして、霊視による殺害方法や遺棄されている場所、殺害日時などが一致するかどうかを調べていたらしい。
被害者は、裏サイトで募った自殺志願者。
殺す前に、契約書の形で遺書が残っているため、法的にどうなのかというところで今もめているらしいが、とにかく、やっとあの家を取り壊すことができると、話を聞いた勇と恒子は一安心していた。
来年の春には、あの家は月極駐車場に変わる予定になっている。
「それと、これはネットで見たんだけどさ……霊視と言えば二年くらい前に起きた小学生による殺人事件があったの覚えてるか? 外国人のお坊さんが、小六の長男に刺し殺された話!」
「外国人のお坊さん……?」
「知らないか? アメリカ人だけど日本に帰化してお坊さんになった人がいてさ、その人が殺されたんだよ。実の息子に! 今じゃ、その現場になった寺は廃寺になってて、夜になると幽霊が出るらしいぞ。片言の念仏が聞こえて来るらしい。片言の念仏ってのが、リアリティあって逆に怖くね?」
圭はその時、初めて理解した。
慧留がどうして姿を消したのか……
「あと、まだ子供だったけど、逮捕された息子が異能者だったらしくて……警察署に連行された時、ほら、あのなんとか小学校の連続女児失踪事件で真日本人教の弁護士がたまたま来てて、そっちの犯人と父親を殺した息子の方も両方とも無罪にしたって話だぜ? 一番怖いのは、やっぱり異能者だよなぁ————特に、真日本人教の法務部は最強に怖いらしい。兜森の父ちゃんよりすげぇ弁護士なんじゃねーか?」
「……まさか、うちの父ちゃんよりすごい弁護士なんていねーよ。そんなにすごい弁護士なら、きっと有名人だろ? なんて名前だ? 聞いて来てやるよ」
(どうせ、ネット上の噂だ。俺は、この目で見たものしか信じない)
実際のところは、青春小学校女児連続失踪の犯人は無罪ではなく懲役15年への減刑、父親を殺した小学生は精神耗弱と少年法により無罪になっている。
ネット上では、その二つがごちゃごちゃになって伝わっていた。
本堂の話すことは、全て本当とは限らない。
又聞きの更に又聞きのようなものだ。
「えーと……確か、変わった苗字だったんだよなぁ……なんとか
「キオク……? 確かに珍しい苗字だな」
「弁護士界では有名だったりしないのか?」
「さぁ……どうだろうな」
圭はこの日、下校時にばったり会った敬に喜奥のことを尋ねたが、敬の所属している弁護士事務所では異能者相手の訴訟は勝率が低い為、基本的に受け付けない方針に数年前から変わったらしく、聞いたことがないと言っていた。
もし、この場に美香子がいたら、何か違っていたかもしれない。
美香子が喜奥弁護士に抱いた、舞を誘拐し監禁した犯人を死刑にできなかった悔しさや憤り。
真日本人教や異能者に対する美香子の過剰なまでの嫌悪感。
そして、その喜奥弁護士が何者であるか……
圭が全てを知るのは、まだ先の事だ————
【Case6 幽霊屋敷死体遺棄事件 了】
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