第45話 生存者
「————
喜奥弁護士に取調室を追い出された兜森と鳥町。
しぶしぶ外で話が終わるのを待っていると、そこへやってきたのは、兜森の継母・美香子だった。
「
「ああ、僕が呼んだんだよ。平成七年の例の事件、本当に当時の犯人が足壁か取り調べの様子を見てもらって、
「弁護士に追い出されてたんですよ! あーしがちょっと脅して、やっとゲロったところだったのに……!!」
鳥町は怒っていたが、美香子の顔を見て、ピタリと動きを止める。
「あれ……? どこかでお会いしたことありません?」
「え……? そうかしら?」
しかし、美香子は全く覚えがない。
鳥町もしばらく考えたが、どこであったのか思い出せなかった。
「あ、そっか。舞さんに似てるからっスかね? そっくりですね! さすが親子! そして、お綺麗!! いいなぁ」
確かに美香子は親子なだけあって舞と顔が似ている。
そっくりそのままとは言わないが、鼻と口元がよく似ていた。
そういう結論に至って、納得しているとそこへ後を追うように舞が現れる。
「もう、ママ!! 私も一緒に行くって言ったのに、なんで先に行ったのよ!!」
「舞、ついてこなくていいって言ったでしょう? どうしてついてきたの?」
「だって、あの動画見た時のママの様子、なんか変だったし……室長さんから電話がきた時だって……心配で」
「圭ちゃんがいるんだから、何も心配いらないでしょう? それに、ここは警視庁よ? 大丈夫だから、舞は帰りなさい」
「でも……!!」
「いいから!! 私は、大丈夫だから、お願い……ね?」
美香子は舞を追い返そうと必死だった。
鳥町は、なんとなく何か理由があるようなそんな気がして、気を使って舞の手を引く。
「ちょうどよかった、あーし、舞さんともっとお話ししたかったんすよ! 向こうでお話ししましょう? ね? 兜森さんの子供の頃の様子とか教えてくださいよ」
「えっ?」
「事情聴取って、書類書いたり、なんか色々あって結構時間かかるんすよ。どうせ待ってるだけになるし、あっちで待ってましょう? ね?」
「で、でも……!」
「大丈夫っスよ! 終わったらちゃんと兜森さんがおうちまで送り届けてくれますから! ね!! じゃぁ、あーしら女子会してきますので、あとはごゆっくり!」
鳥町と舞が離れたのを確認すると、美香子は一度大きく深呼吸をしてから、兜森の方を見た。
「圭ちゃん……舞と室長さんから聞いたわ。私の異能嫌いの理由を調べたそうね? そこで、学生時代の……あの事件のことを知ったって————」
「あ、ああ。
「真日本人教!?」
真日本人教の名前を出した途端、美香子は真っ青になる。
過去に異能者によって恋人を殺害され、その上、夢まで奪われたのだから、異能者や真日本人教を嫌うのは当然のことだった。
それは、兜森も納得できる。
しかし、美香子の口から語られたのは、平成七年のその事件ではなく……
「まさか、舞の事件のことも調べたんじゃないわよね!? あの子に、話してないわよね!? 教えてないわよね!?」
「え……? 舞の事件……?」
「……——え? だって、今、真日本人教って、言ったじゃない。舞の事件のことじゃ……ちがう……の……?」
美香子はそれまで決して、誰にも話さないと決めていたのに、兜森たちが自分の過去の事件を調べたと知ってひどく動揺し、口走ってしまったのだ。
「舞の事件って、なんだよ、
「…………違うなら、いいの。ごめん。忘れて」
「何言ってるんだよ、どういうことだよ! ちゃんと話してくれ!! 舞に、舞に何かあったのか!?」
舞と兄妹になって十四年。
兜森はそんな話は、一度も聞いたことがなかった。
舞が何か事件に巻き込まれていたなんて、まったく知らなかった。
「————あの子自身は、もう忘れていることなの。だから、あの子の前で、この話をするのは、やめてちょうだいね……」
美香子は、もう一度深く深呼吸をする。
これは、『薬師丸』だった頃の調書を調べられれば、いずれ判明すること。
「舞は————……平成十九年に起きた『青春小学校女児連続失踪事件』の被害者だったの」
被害にあった女児の内、唯一の生存者。
真日本人教の信者で、異能者だった上部健の部屋に監禁されていたところを保護された当時小学四年生の女児。
その女児の名前は、薬師丸舞だった。
【Case5 金メダリスト殺人事件 了】
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