Case5 金メダリスト殺人事件
第37話 渦中の人
「————セーテンって……確かに、名前はそう読めるけど、苗字が違うじゃないか」
兜森は、鳥町が八咫烏のリーダーであると予想しているセーテンは、御船百合子の孫であると聞いている。
御船聖典という名前だったはずだ。
それが、テレビに出ているこの男は高橋。
それも、セーテンではなく、マサノリだ。
テロップにも丁寧に振り仮名がふってある。
「でも、どう見てもこの顔は、聖典っスよ!!」
千も兜森と同じで、確かにセーテンと読めはするが、この男が鳥町のいう聖典かどうかはわからない。
会ったことはないし、御船百合子の孫の顔はメディアには出回っておらず、真日本人教の信者に話を聞いたことがあるが、小さい頃に何度か見たことがある程度だと聞いている。
「鳥町くん、間違い無いのかい? 最後に彼に会ったのは、小学生の頃だったんだろう?」
「そーっス。でも、絶対そうっスよ!! この顔!! そのまんまっスもん!!」
鳥町は絶対にそうだと確信をしている。
しかし、そうなると一つ疑問が出てくる。
「————じゃぁ、なんでそのセーテンが、自分で八咫烏のことを批判してるんだよ」
テレビに出ている聖典は、八咫烏を異能者によるテロ集団だと批判的な発言を繰り返していた。
まるで、自分は異能者では無いような振る舞い。
そして、どちらかといえば異能者の存在自体を危険なものだと、嫌っているような発言をしていた。
『異能者は簡単に人を殺すことができるんです。とても危険な存在ですよ————』
*
鳥町は今すぐにでもテレビ局に行って、事情聴取をするべきだと千に訴えたが、任意の事情聴取だとしても何かしら証拠なり証言がなければ不可能だと言われてしまった。
それこそ、彼は今やすっかり時の人となっており、人違いだった場合、厄介なことになること間違いなしだ。
高橋が経営する会社の情報を確認したが、勝率99.9%の超有名な弁護士事務所と業務提携している。
それに、あの高級住宅立てこもり事件が一部全国に中継されていたせいで、「犯人立てこもってるのに、なんで宅配ピザ食べてるんだ!」「あのジャージ女はなんだ!」「警察はふざけているのか!!」などなど、多方面から苦情の電話が殺到し、騒ぎを起こすなと各所から怒られたばかり。
確たる証拠がなければ、今は派手に動かない方がいい。
そして、若者はテレビを見ないと言われているが、やはりまだまだテレビの影響力は大きく、異能者に対する風当たりが強くなってきていた。
御船百合子をはじめとする真日本人教の異能者たちは、これまで異能者に対する差別や偏見を無くそうとしてきたが、世論というのは本当に少しのきっかけでいい方にも悪い方にも傾くものだ。
数日後、兜森は自身が異能者となってしまう前に感じていなかった異能者としての障害にぶち当たることになる。
「————
「あ、帰ってきた!」
帰宅した兜森の部屋の前で、待っていたのは二つ年下の兜森舞。
兜森の妹————と言っても、血は繋がっていない。
兜森が中学生の頃、父親が舞の母親と再婚した。
「この寒いのに待ってたのか?」
「ちょうど今来たところ。ナイスタイミング! さすが私」
「仕事は……?」
「今日から三連休なの。有休消化で————って、ねぇ、私の方が質問したいんだけど……お兄ちゃんはいつも質問責めにするよねぇ」
「……そりゃそうだろう。しばらく会ってなかったんだから」
鍵を開けて中に入ると、舞は玄関のところで黒いロングブーツを脱ぐのにもたついている。
今日買ったばかりで、まだ履き慣れていなかった。
「それで、質問って?」
「お兄ちゃん、警備部から刑事部に異動になったって言ってたよね? それも、《異能》犯罪対策室。それって、出世したから? それとも、異能に目覚めたから?」
「異能に目覚めたからだ。でも、それがどうした? 身内が異能者になって珍しいとか?」
「だーから! 質問してるのは私!」
「ああ、悪い」
舞はブーツを玄関に揃え終わると、まるで自分の家に来たかのようにリビングのソファーに一直線に向かい、どさっと背中から寝転んだ。
「異能に目覚めたこと、ママには言ってないよね?」
「もちろん。
兜森の継母は、異能者が昔から大嫌いだ。
なぜ嫌いなのか、詳しい理由は聞かされていない。
聞こうにも、異能の話をするとあからさまに嫌そうな表情をするから、聞けない。
兜森は異動になったことを両親に報告した時も、自分が異能者になってしまったことは隠していた。
「……彼氏がさぁ、異能者だったのよ」
「え?」
「どうしようかと思って。ママに話したら、絶対反対されるじゃん?」
まず第一に、兜森は妹に彼氏ができたことにも驚いた。
舞は中高女子校育ち。
高校を卒業後通っていた専門学校も、女性の割合が多い美容学校で、家族以外の男とはあまり関わりがなく、こらまで何人か恋人はいたが、相手は皆女性だった。
それが、今度は男で、しかも異能者だとは……————
「彼女じゃなくて、彼氏? お前が?」
「だから、そうなんだって……私的には、結婚まで考えてるわけよ。
「まぁ、そうだろうな……」
「それが、この私の心を射止めた彼氏が、異能者だったの」
それは確かに、困った状況だ。
「うーん、異能者であることを隠して紹介したらどうだ? 結婚して家族になるからって、全部何もかも話す必要ないだろ?」
「いやぁ、それがさらに問題でね……」
舞は勝手にテーブルの上にあったリモコンに手を伸ばし、テレビの電源をつけると、ニュース番組にチャンネルを合わせた。
画面には、つい最近MVPを獲得し話題になっていた日本人メジャーリーガー・
『先日、メジャー初挑戦で見事MVPに輝いた早板選手ですが、一部週刊誌の報道から、異能を使ってプレイをしていたのではないか————と、問題になっています』
異能者とスポーツ選手の問題について……
番組では、異能者かもしれないと噂になっている世界的に活躍している人たちの名前が挙げられていた。
「ニュースになっちゃったからさぁ……隠しようもないんだよね」
「————は?」
舞の異能者である彼氏というのが、この渦中の早板だった。
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