第25話 マイノリティーレポート
いつもの就活生にしか見えないスーツに着替えた鳥町が病院に来たのは、その日の夕方のこと。
小手崎は、鳥町を見て最初は恐怖に震えている。
自分の左腕を切り落とした女が事情聴取に笑顔で現れたのだから、仕方がない。
「刀は……?」
「岡根大臣の家に返して来たっス。大丈夫っスよ、あーし、今丸腰っス」
両手を顔の横でひらひらして、何も持っていないとアピールする鳥町。
兜森は鳥町の異能が異次元ポケットであることを知っているから、丸腰なわけがないとわかっているが、小手崎から話を聞くには重要なポイントだった。
小手崎は、鳥町が近くに寄らないことを条件に、自身に何があったのかぽつりぽつりと語り始める。
「向野涼子と、不倫関係にあった。あの女は10代の頃女優をしていて、俺はファンだったんだ。だから、向こうから誘われて、関係を持った。旦那の仕事が忙しくて、欲求不満だったらしくて……」
「それが、どうして、立てこもり事件なんか起こしたんだ?」
「解雇されたんだよ。こんな異能に目覚めてしまったせいで————あの女が言った通り、異能者になろうと真日本人教に行ったんだ。今思えば、それが間違いだった」
◆
一ヶ月ほど前、小手崎はいつものように子供も旦那も姑もいない時間に涼子と肉体関係を続けていた。
涼子は小手崎の腕に抱かれながら、つい最近見た異能者について特集されたテレビ番組のことを話す。
「異能者って、なんだか特別って感じがして素敵よね。ウチの旦那は異能反対派でつまんないのよ。私は、異能者の方が魅力的だと思うんだけど……」
そんなようなことを言われて、小手崎は調子にのったのだ。
「それなら、俺、異能者になってくるよ」
「え? 本当!?」
涼子はとても嬉しそうだった。
小手崎にも涼子の周りには異能者はいなかったし、もしいても公言していない人の方が多い。
涼子にとっては、ただの興味本位な発言だったのだが、小手崎は本当に真日本人教へ行き、涼子からもらった金で上納金を払って、御船百合子から異能を付与されることになった。
怪しい宗教団体だと最初は思ったが、案外、中に入ってみると真日本人教本部は地域の公民館とか、コミュニティーセンターのような場所だった。
一部、同じような紫色の袈裟を着ている人間が何人かいたが、それ以外は誰も皆、見た目的には普通の人たち。
「こちらへどうぞ」
案内された部屋に行くと、そこには小手崎の他に五人の男女が椅子に座らされて座っていた。
一番左の椅子に座らされた小手崎。
案内人にここで待っているように言われ数分後、テレビで見たことのある御船百合子本人が、二人のお付きの男を引き連れて部屋に入ってくる。
右から順に、御船百合子は椅子に座っていた異能付与の希望者の頭をまるで子供をあやす母親のように撫でる。
「一度目を閉じて、それからゆっくりと目を開けて御覧なさい」
一人目の男が、言われた通り目を閉じ、ゆっくりと開いた。
「うわああああっ!?」
その瞬間、何かが見えたようで驚愕の表情で椅子から転げ落ちる。
「な……な、なんですか、これは……っ!?」
「これが見えるのですね? でしたら、あなたの異能は霊視です」
「れ、霊視……!?」
「ええ、あなたの目に見えているこれは、俗世では幽霊と呼ばれている者です」
日本人の場合、なんの異能に目覚めるかは、その人の持つ遺伝子による。
一番多いのが、霊視である。
レア度としてはかなり低い。
それでも、異能であることに間違いはない。
二人目の女も同じく霊視、三人目の男は霊の姿は見えず、ものを触れずに動かすことのできる念動力であることがわかった。
四人目はどう見ても外国人————白人の男。
「あなたは、日本人ではありませんね……異能の波動を感じられません」
「そーデス。フランスからきまシタ。イノー……ほしい。おカネ、はらっタ」
片言の日本語を話した男に、百合子は優しく微笑むと、頭ではなく彼の左胸に手を置いて、何かぼぞぼぞと呪文のようなものを呟く。
「おおっ!? これは、スゴイイイい!!」
男は体が急に熱くなったのか、白かった肌が赤く色づいて行く。
「明日には、異能に目覚めているでしょう。どんな異能に目覚めるかは、あなたの運命次第です。それがどんな異能であろうと、受け入れなさい」
「は……ハイイイ……!! オッウッ!!」
とても異様な姿だったが、男は喘ぎ声のようなうめき声のような、謎の声をあげ、それから痙攣をし始めたかと思うと、意識を失った。
五人目も霊視の異能に目覚める。
そして、ついに小手崎の順番がやって来た。
頭を撫でられ、そこから何だか暖かいものが体を巡るような、そんな感覚があった。
「一度目を閉じて、ゆっくりと開いて御覧なさい」
言われた通りにして見たが、小手崎には何も見えない。
ということは、霊視ではないのだと思った。
きっと、珍しい異能に目覚めているに違いない。
少し怖くもあり、嬉しくもあった。
「————まぁ、これは珍しい」
百合子はにっこりと微笑みながら、小手崎の左腕を指差す。
小手崎がそれに気づいて自分の左腕を見ると、肘から下が猟銃に変化していたのだ。
「な、なんだこれ……!?」
ありえない光景に、流石に焦る。
思っていた異能とは、全然違うものだった。
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