第26話 異能操作の難しさ
小手崎はバンドマンだが、ピアノ教師のバイトと涼子からもらった金で生活が成り立っている。
左腕が猟銃のこの状況で、ピアノもキーボードも演奏なんてできるわけがない。
「大丈夫。異能の使い方を覚えれば、出したり戻したり、自由にできるはずですよ。しばらくここへ通って、修行なさい」
小手崎の不安な表情を読み取ったのか、御船百合子は優しく諭す。
それから、小手崎は真日本人教本部で修行をすることになった。
信者の一人から指導を受けて、左腕の猟銃の出し入れはすぐに可能になる。
ところが、股間の小さな拳銃の方は、まだコントロールするのに時間がかかる。
猟銃は発砲もできるが、こちらはどういう仕組みで発砲するのか、まだわかっていなかった。
とりあえず、バンドマンとしても、ピアノ教師として働き続けることは可能だ。
そして、小手崎は異能者となったことを自慢しようと涼子に左腕の猟銃を見せた。
出したり引っ込めたり、自由に操作して、涼子は不思議そうにそれを見つめ、感動していた。
「すごい!! 本当に異能者になったのね!! 素敵!!」
「そうだろう? これで、俺は無敵だ!! たとえ今強盗に襲われようと、これで一撃だ!」
ところが、股間の拳銃を見た瞬間、涼子は笑い出す。
「なにこれ……ちっさ……い……え? え? どういうこと……?」
「わ、笑うなよ。こっちも、もう少し修行したらもっとでかいマグナムに変えることができるらしいし————」
「マジありえないんだけど! くっそうける……!!」
涼子は大爆笑。
そこへインフルエンザの流行により学級閉鎖で急遽、早めに学校を終えた妃愛がその場に遭遇してしまう。
「え、なにそれ……ちっさ!! キッショ!! ってか、なに!? ママたちそういう関係だったの!?」
「ま、まさか!! 誤解よ!! この男が勝手に脱ぎ始めたの!! ママは知らないわ!!」
そうして、小手崎はピアノ教師をクビになった。
◆
「————あの女が、異能者になるように言ったから……こうなったんだ!! それを、いきなり解雇しやがった!!」
小手崎の異能は、体の一部を銃に変えることができるというもの。
それも珍しい異能で、完璧に使いこなせるようになるにはとても難しい異能だった。
極めれば、鳥町のようにいつでも自由自在にどこからでも自分が思い描いた大きさの銃に帰ることが可能になるのだが、慣れない内は自分の意思とは関係なく、勝手に体の一部が様々なサイズの銃になってしまう。
左腕のコントロールは簡単にできたのだが、股間のコントロールができるようになるには、まだまだ時間がかかるらしい。
そんなことを全く知らない涼子に馬鹿にされ、ピアノ教師もクビになり、自暴自棄になった小手崎は涼子を恨み、殺そうと突発的に起こしたのが、今回の立てこもり事件である。
まさか、涼子が沖縄に行っているなんて、知りもしなかった為、死者を出さずに済んではいたが、もし涼子が家にいたら、確実に殺されていた。
下手をすれば、涼子だけでなく、一家全員を銃殺なんて可能性もあった。
「興味本位で異能者になんてなるからっスよ。いいっスか? 異能に目覚めたら終わりじゃないんス。一度目覚めたら、自分の異能とは一生付き合っていかなきゃいけないんスよ。あーしだって、今のように使いこなせるようになるまで一年かかりました」
御船百合子によって、異能に強制的に目覚めたとしても、それが自分の望んでいる異能であるとは限らない。
異能者の大半は霊視ができるようになることが多い。
興味本位で真日本人教の門を叩き、希望した通り見えるようになっても、その見えるものがあまりに恐ろしく、悍ましく、耐えかねて自殺する者だっている。
特殊な異能の場合、小手崎のように操作が難しいものもあるし、命に関わる欠陥がある異能だってある。
「異能操作の難しさは、人それぞれっス。自暴自棄になって立てこもり犯になんてならずに、そんな特殊な異能を持っているなら、異能を生かして生きる道を選ぶべきなんスよ。体の一部が銃になるなんて、うまく使いこなせるようになれば、多くの人を助けるのに使えたはずっス」
「それは……っ……」
鳥町の言っていることが正論すぎて、小手崎はなにも言えなくなった。
男の象徴を馬鹿にされたという、いっ時の感情で関係のない人を巻き込んで、こんな騒動を起こし、大事な左腕を失った。
もうピアノを弾くことはできない。
「……こんなはずじゃ、なかったのに————」
小手崎はなくなった左腕を見つめ、泣き出した。
これまでの異能者と違って、反省しているのが目に見えてわかった兜森は、その姿に考えさせられる。
(もし、俺の異能が操作の難しいものだったら————)
念じるだけで、あらゆる物質が水に変わる異能。
使い方を間違えたら、確かにそれは命に関わる。
試したことはない。
もし、その異能を人に向けて使ったら……————
異能は、使い方によっては簡単に人を殺すことができる。
恐ろしい力だ。
異能者は、殺人の兵器になり得る。
だからこそ、各国が異能者である日本人を警戒し、そして、自国を守るために異能者を手中に収めようとしている。
「ところで、立てこもり事件の他に、もう一つ聞きたいことがあるんスけど……兜森さん、これ小手崎さんによく見えるように並べてください」
鳥町は手のひらから数枚写真を出して、兜森にベッドのテーブルの上に並べさせる。
(……なんの写真だ?)
どれも、何かの事件の遺体の写真だ。
高校生か、中学生くらいの若い女性の遺体の写真が複数枚。
「さっきここに来る前にちょっと調べたんスけどね、これ、この約一月の間に見つかった五人の遺体なんスけど————奇妙なことに、死因を調べたら、体内を撃ち抜かれて死んでるんすよね。着衣の乱れから性的暴行にあっていることは明らかで、しかも子宮に穴が空いてるんスよ。これ、犯人、テメェだろ? 小手崎」
(な、なんだって————!?)
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