第20話 高級住宅立てこもり事件
その事件が発覚したのは、平成三十五年十月十四日土曜日の午前7時15分頃だった。
閑静な住宅街————それも、超がつく高級住宅が立ち並ぶ街中に銃声と悲鳴が鳴り響く。
直前に男女の言い争いのような声も聞こえていたし、不審に思った近所の住人が部屋の窓から外を見ると、猟銃のようなもので男が女性を撃った後だった。
すぐに警察に通報が入ったが、一番最初に現着したパトカーに気がついて、その猟銃男は近くの住宅に立てこもる。
さらに中からさら一発、銃声と悲鳴が聞こえた。
高い塀で囲まれているため、中の様子は外から確認することができない。
次々と警察車両や消防車、救急車などが集まり、近隣住民に避難するよう呼びかけがある。
土曜日の午前中ということもあって、ほとんどの住人は在宅中だった。
最初に人が撃たれ、倒れていた場所から一番近い家は何度インターフォンを鳴らしても留守のようで、応答がない。
きっと不在なのだろうと、警察は住民たちの避難を終えると規制線を張った。
最初に撃たれた女性は脚に怪我をして、救急車で搬送されたが命に別状はないらしい。
しかし、撃たれたショックで、しばらく意識を失っていたため、目覚めるまで身元は不明だった。
立てこもり事件発生に、警察はもちろんマスコミ各社も中継をつなぎニュース番組はこの事件で一色に染まる。
被害にあった女性の名前が判明したのは、午後になってからだ。
『えー……今入りました情報によりますと、最初に男に撃たれたのは美田園
産婦人科の待合室のテレビで、そのニュースを偶然目にした千は、事件が発生している場所————そして、美田園という家政婦に聞き覚えがあり、すぐに鳥町に電話をかける。
ところが、鳥町はまだまだ熟睡中のため、電話は通じなかった。
双子が生まれたばかりで、病院から出られない千は仕方なく兜森に連絡する。
「兜森くん、非番のところ、悪いね」
『どうしました?』
「今、テレビは観れるかな? 立てこもり事件が起きてるようなんだけど……」
『え? ああ、はい、観てますよ。朝からずっとこのニュースで……』
「悪いんだけどね、現場を見て来てくれないかい?」
『現場を……? もしかして、犯人は異能者ですか?』
「いや、そうじゃないんだけど……犯人が立て籠もっている家、鳥町くんの家の近所だと思うんだよ。撃たれた家政婦さんも、鳥町くんの家の家政婦さんだと思うし、心配だからさ……電話も繋がらないしね」
『はぁ……わかりました』
「詳しい住所はLINEで送っておくから、よろしくね」
千は電話を切るとすぐに病室に戻る。
「どうだった……? 璃子ちゃんは」
お産後でまだぐったりしている日奈乃が尋ねると、千は優しく微笑みながら日奈乃の頭を撫でる。
「兜森くんに頼んだから、大丈夫だよ。何も気にすることはない。日奈乃は自分の体のことだけ考えてくれればいいよ。本当に危険なら、幽体離脱で飛んでいけばいい話だ」
*
SITが現場に派遣されて、三時間以上経過しているが、膠着状態が続いている。
近隣の住民、それから隙を見て抜け出した家政婦たちの話によれば、犯人が立てこもっているこの家は七人家族。
家主である
事件の発生が土曜日の早朝ということもあり、家の中で人質となっているのは修二の母・
しかし、肝心の犯人が何者かは、わかっていなかった。
「————《異能》の人間が、何の用だ?」
兜森が警察手帳を見せて、規制線が引かれた中に入ると、伊振が兜森に気づいて怪訝そうな表情をしていた。
「あー……いや、それが、犯人が立てこもっている家の向かいが、《
「向かいの家……? ああ、そういえば、最初に撃たれた女性はあの家の家政婦だって……いや、しかしあの家には今誰もいないぞ? 避難するように
「そうですよね……? おかしいな……それじゃぁ、なんで通じないんだ?」
兜森はその場でもう一度、鳥町に電話をかけようとしたが、その前に銃声とガラスの割れる音が響き渡る。
犯人がまた発砲した。
「おい、犯人との交渉はどうなってる!?」
「人質に怪我は……!?」
「くっそ、無駄に高い塀が邪魔で、中の様子が全然見えねぇんだよ!!」
徹底したプライバシー厳守の高級住宅。
公共の施設でも商業施設でもないため監視カメラは玄関とガレージにしかない。
家の詳しい間取りも、犯人の位置、人質の安否も不明。
立てこもられたら一番厄介な建物だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます