第18話 恐怖!日本刀女の取り調べ
北窓の念動力の発動に大事なのは、目である。
対象物が見えていないと、力が発揮できない。
よって、取り調べにはアイマスクを着用した状態で行われた。
「あ、あんたら、本当に刑事なのか? なんで、こんな事……!!」
「刑事ですよぉ。さっき見せたじゃないっスか、警察手帳」
「いや、俺が見たのは、日本刀で……」
「ああ、これッスか?」
鳥町は左手から日本刀を出すと、抜刀して北窓の頬に
頬に感じたその冷たさに、恐怖を感じ、北窓は「ヒッ」っと短く悲鳴をあげ、脂汗を流していた。
「大丈夫っすよ。あーし、刃物の扱いには慣れてるんス。正直に答えてくれれば、傷つけたりしませんって」
「こ、答えます! なんでも、なんでも正直に答えますから、い、命だけは……命だけは……!!」
「あらやだ、八人も殺しておいて、自分は命乞い? 嫌ですねー人間って……本当に自分勝手で」
「す……すみません」
声は笑っているが、鳥町はブチギレている。
「あ? もう一度言ってみろ?」
「すみません……!! 申しません!! ごめんなさい!!」
「わかればいいんスよ。で、相棒の火本くんとはどこで知り合ったんスか?」
「ね、ネットです。その、急にDMが来て……セーテンって男から」
「セーテン……DMなのに、どうして男だって?」
「な、何度か電話したんで……————ドローンの手配と、あと、ターゲットの情報提供をしてもらいました。セーテンの指示通りに動いたら、俺らを苦しめてたあいつらに復讐できたし、視聴者も再生数もフォロワーも増えて……その————つい、調子に乗ってしまいまして……」
「調子に乗っただけで、人殺しはダメでしょうよ? そんなことも分からないんスか? あんた、一応国立大出身っしょ? 学校では何も教えてくれませんでした? 人を殺しちゃいけないって」
「す、すみません」
鳥町は刀を鞘に収めると、押収した北窓のスマホの電源を入れる。
「スマホのパスワードは?」
「え?」
「え? じゃねぇんすわ。さっさと答えてください」
「2914です」
「……ああ、この番号っスか? セーテンで登録してある」
「そ、そうです」
通話履歴から、セーテンを見つけて、鳥町は電話をかける。
しかし、電話はつながらない。
もう一度掛け直すと、今度は『おかけになった番号は現在使われておりません』とアナウンスが流れる。
「ああ、そっか、セーテンも配信見てただろうし、まぁ、当然っちゃぁ当然っスね。クソが……」
「ひっ! すみません、すみません」
鳥町の態度がかなり悪い。
(調書は強気でいけとは言っていたが……流石に、もう萎縮してるし、ここまでしなくてもいい気が……)
後方で話を聞いていた兜森は、流石に色々後で問題になりそうだなと思って、鳥町を諭した。
「おい、流石にビビりすぎて調書になんねーよ。お前もちょっと落ち着けよ」
「あのねぇ、こいつ八人も殺してるんスよ? それに、あーしのこのキャワイイ顔みて気絶するとか、まじ失礼にもほどがあると思うんすよ!!」
「どこにキレてんだよ!! 誰だってあんなのビビるに決まってんだろ!? 無人で動くパトカーと上から日本刀持った女だぞ!?」
「えー……だって、パトカー動かしたのはあーしじゃなくて、室長っスよ? 幽体離脱ってすごいっスよねぇ、魂乗り移っちゃえば、なんでも動かせるんスから」
確かにすごいが結局、心霊現象に変わりはない。
北窓は心霊系がとにかくダメのようで、思い出してガタガタと震えている。
「————ねぇ、ちょっと、鳥町くん」
「ん? どうしたっスか、室長?」
そこへ隣の取調室で火本を取り調べていたはずの千が、いきなり入って来た。
「妻が産気づいちゃってさぁ、今すぐ帰らないといけなくなっちゃったんだよ。悪いけど、そっち終わったらあっちもやっといてくれるかい?」
「ああ、了解っス!! あ、あと、おめでとうございます!!」
「ありがとう! じゃぁ、僕行くね!!」
(え? 産気づいた……? え……?)
すぐに出て行ってしまった千の背中に、鳥町は手を振りながら言った。
「双子なんですって。可愛いんだろうなぁ、奥さん美人だから」
「え、双子!?」
(室長って、あと数年で定年じゃなかったか……? すごいな)
「でも生まれるの今日かぁ……明日だったら、あーしと同じだったのに……」
◇
その頃、都内某所のクラブ。
VIPルームの一室。
「何これ、火の玉が消えた……? いや、変化した……?」
プロジェクターに画面を映し、承認欲求モンスターの配信を見ていた御船聖典は、火の玉が消えたシーンを何度も繰り返し見ていた。
大きな黒縁の眼鏡のブリッジを中指でクイっと上にあげ、初めて見る異能を興味深々に見つめる。
「音声が入ってないからなぁ……何か言ってるみたいだけど、よくわからない。濡れてる? 水? 水に変わった? 多分、物質変化系の異能者だろうけど……新入りかな? 知らない顔だ————
「はい、聖典様」
聖典に名前を呼ばれ、ワインを開けていた金髪の女が返事をした。
口元は白い不織布のマスクで隠しているが、目元だけで美人だということは一目瞭然。
彼女は、
八咫烏の幹部の一人————聖典の秘書のような存在だ。
「この男の情報、調べておいて」
「はい、かしこまりました」
「ああ、それと————……」
画面の端に映っていた鳥町を指差して、聖典は言った。
「璃子ちゃんの家に、ワインと薔薇を送っておいて。明日、誕生日だから。お祝いしないとね」
「かしこまりました。薔薇は、何本お送りしましょうか?」
薔薇には、本数によって花言葉がある。
「————二本に決まってるだろ」
その意味は、この世界は二人だけのもの————……
【Case2 インフルエンサー炎上焼死事件 了】
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