第2話 また明日

「は〜面白かった。今日も沢山話してくれてありがとう。」

百貴と話していたら、あっという間に時間が過ぎ、気づけば空も赤みを帯び始めていた。


「もうこんな時間か。話す内容ないって思ってたけど、案外盛り上がっちまったな。」

椅子に腰掛けながら、夕日と海を眺める。

ちらりと横をみれば、百貴も同じように海を眺めていた。


「ねえ、朝陽」

おもむろに百貴が話し始める。


「どうした?」


「朝陽はさ、夏の香りがするよね」


「突然どうしたんだ?香り?」


「そう、香り。人はね色んな香りをまとってるの。その人を表す香り、感情、過去、未来。色んな香りがあるの。」

意味のわからないことを話しだしたから、俺をからかっているのかとも思ったが、百貴の表情は真剣そのものだ。


「とりあえず、人に色んな香りがあるのはわかった。それよりも百貴はずっと昔からそんな不思議な力があったのか?」


「どうだろ?気づいたらっそこにあったって感じかな。」


「まぁ、家の特徴的にそういう特殊能力があっても不思議じゃないか。」


「信じてくれるの?」


「信じるも何も、いきなり話しだしておいて、今さら何言ってるんだ。それに、何年お前と幼なじみやってると思ってんだよ。」


「……ふふ、それもそうだね。ありがとう朝陽。」


「で、なんで俺は夏の匂いなんだ?名前が夏っぽいからか?」


「んー、なんて言ったらいいのかな。太陽と爽やかさを感じる匂いというか、夏特有の香りってあるじゃない?それに近いものを感じたから、朝陽は夏の匂い香りだなって思ったの。」


「ますますわからんな。もっと分かりやすい香りの例とかないのか?」


「分かりやすい香りだと感情だね。悲しいと雨が降ってる時のような香り、嬉しいとお菓子のような甘い香りがするの。」


「なるほどな。」


「ね、私はどんな香りがする?」

またおもむろに、百貴が言い出す。


「いや、俺には分からないよ」


「なんでも良いの。なんか、ないかな?」


「なんかって、言われてもな...ん〜」

しばらく考え込み、答える。


「ゆり...百合の花。」


「百合?」


「ああ、百合の花だ。全然違うとか馬鹿にするなよ!いきなり話を振ってきたのはそっちなんだからな!」

真面目に答えたことに恥ずかしくなってきて、俺は言い訳をする。


「百合...そう...。私は百合の香りがするのね。

ふふ、案外当たってるかも。」

予想していた反応とは違う返答が返ってきて、少し動揺した。


「なあ百貴、今日のお前なんか変だぞ?なんかあったのか?」


「別に...何もないよ。さてと!そろそろ帰らなきゃ。」

百貴は椅子から飛び上がり、公園の外へ歩きだす。


「あっおい!」

百貴を呼び止めるが意味はなかった。


「朝陽!今日もありがとう!」

公園の入口でこちらを振り返り、百貴が叫ぶ。

「じゃあね!また明日!!」

そのまま手を振りながら坂道を降りていった。


取り残された俺は、ただただ公園の入口を眺めるしかできなかった。


「......俺も帰るか。」

ゆっくりと立ち上がり、公園をあとにした。






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