第2話「魔術と結界とカラス」

「....で、話って何なのよ......」


「はい? 先ほどもうした通りですが......」



 私、子友田 憂こともだ ゆうは 今、猛烈に面倒くさい。

 原因は、今 私の目の前にいる 赤髪ロングの女の子――アリスである。

 いきなり『結界』とやらに閉じ込められ、『頼み事』をされそうになっている。

 その頼み事というのが――


「......ですから、あなた様には 我々の暮らす世界『無形ノ国』を救ってくださりたいのです。そのために...」


「もうその時点で 分からない」


「......あまり 時間はかけたくないのですが......仕方ありません...」



 アリスは小さく ため息をつき、にらむ私をベンチに座らせて 丁寧に話し始めた。


「まず、あなた たちの住む世界。様々な 地域、環境、気候、生物が存在し、人々は 『科学』によって 文明を発展させてきた。ここまで分かりますか?」


「......まぁ、何とか......?」


「次に私たちの住む世界『無形ノ国』。こちらは、『交差魔術』によって存在を形成、及び維持している あなた たちの世界とは ”別の世界” です」


「......別の世界? コウ......校舎魔術?」


「『交差魔術』。まぁ、簡単に説明すれば、別々の物体でも、共通している点――つまり 『交差』している点を 結びつける魔術です」


「ま、魔術......?」


「そう、あなた たちの 科学の世界にはない、『魔術』です」



 ――アリスは その後も『無形ノ国』や『交差魔術』について 無駄に長々と語り続け、10分ほど経った頃、私もついに我慢と限界となった。



「........................まぁつまり、交差魔術はこのようにして生まれ、無形ノ国以外での様々な世界でも使われているので...」


「 「 だーーーーっ! さっさと、本題に、入れぇぇーー!! 」 」 



 バっとベンチから立ち上がった私に アリスは驚き、ハッと我に返った。


「あ! 時間ないんでした! いけない いけない、私としたことが......!」



 アリスは わざとらしく あたふたして、ベンチに座り直した。


「......殴られたいの......?」



 そう言いながら、私も 再度ベンチに座る。


 この頃には、私のアリスに対する態度は すっかり『ムカつく友達』を相手にするものだった。


「......いや、まぁ簡単にまとめさせていただくとー......、無形ノ国を繋ぎとめていた交差魔術が 何者かによって解かれてしまって、それで無形ノ国の各地域が パズルのピースみたいに 虚空に飛び散ってしまって......それを元に戻すのを 手伝ってほしくてー......」



 怒られたためか、先ほどの妙な 上から目線は消え去り、逆にモゴモゴと話し始めたアリス。

 それはそれでイラついたが、用件は分かった。



「だったら最初から そう言えばいいじゃん!」



 我慢できず、私は再び 怒る。


「ええ!? いや、いきなり話されても 理解できないかな、って......」



 戸惑うアリス。

 立場が逆転してるような気がする。


「私 こう見えて、いろいろ深く考えない人間だから!」


「そういう問題ですかぁ!?」



 アリスと話すのに熱中していた私だが、ふとあることに気づく。


「あれ? そういえばさ、結界とか言ってたけど、これ 周りからはどう見えてるの?」


「......何も、見えてませんよ」


「え?」


「私が張っている結界は、外側から内側、内側から外側へ伝わる情報を『遮断』しているだけであって、物理的な壁か何かではありません」


「......どういうこと?」


「つまり、外側から入ろうとしても 『情報の無い空間』への突入の 『無意識的な拒絶』によって 自動的に避けてしまうんです。内側からでも同じ。先ほど あなたは 結界から出ようと、その場で走り続けていました。一切の情報がなければ、無意識的に脳が作り上げた『想像』が 『実物』として補完されてしまうためですね。だから、『大通りを走っている』と錯覚して走り続けた、ということです」



 長い説明を聞き、私はすっかり感心してうなづいた。



「さて、本題に戻ります。改めて、子友田 憂さん。私の頼み事を、承っていただけますか?」



 アリスは期待の眼差しを 私に向けてきた。

 私は「うん」という返事をしかけた。


 しかし、ここで ふと我に返る。




 ――あれ? これ、私、関係なくね?











「――お願いしますよ! 憂さんってば!」


「いいから早く 結界解きやがれ! よくよく考えたら私には無関係じゃねえか!! 何で 他人の頼み事、しかも よりにもよって『世界を救え』とか......!」



 私はとにかく機嫌が悪かった。

 なぜ こいつに時間を割いていたのかが謎だ。


「あそこまで話 長々と聞いといて、それはないですって!!」


「あんたが勝手に閉じ込めて 話してたんでしょうが!」



 するとアリスは 見た目通りの子供のように駄々を こね始めた。


「子友田 憂さん、あなたの力が必要なんですうーー!」

「子友田 憂さん、このままでは私 帰れないですうーー!」

「子友田 憂さん、ヤバいですうーー、ヤバいんですうーー!」

「子友田 憂さん、世界があぶ......」


「 「 うっせぇんじゃ!! 」 」





「 「 イッタァァァァァイイイ!!!! 」 」


 拳骨げんこつを食らわすと、アリスは 頭を抑えて ぴょんぴょん跳ね回った。

 まったく、いつまで 面倒かけさせるんだ この少女は。


「 「 「 うわああぁぁぁぁぁぁぁぁああん!!!! 」 」 」



 頭を抑えながらへたれこみ、 アリスは泣き叫び始めた。

 いよいよ『駄々っ子』である。

 一瞬 周りの目を気にしたが、結界で見えないものだと 思い出した。

 その結界を さっさと解いてもらいたいが、このままだと 周囲から一斉に注目を浴び、冷たい視線を向けられてしまう。


 どうしようかと 考え込み、仕方なく アリスに話しかけた。


「.....分かったよ、やるよ。引き受ける。......だから、一回 結界 解いて」


「ほんと!!?」



 言った瞬間 アリスは泣き止み、こちらをキラキラした目で こちらを見つめた。


「うん、ホントだよーー」



 嘘だけど。

 だって面倒くさいし。

 結界解けた瞬間 走って逃げる、そうすれば こんな幼い子供、簡単に巻けるだろ

う。

 


「私に任しといてよーー。頑張るからさーー」


「わぁ! やったぁぁぁ!!」



 逃げることを悟られないように、ベンチに腰かけておく。


「じゃ、約束通り結界解きます!!」



 アリスは 両手を空に掲げて 何やら力を注ぎだした。



 ――そして結界が解け、たちまち辺りに見慣れた空間が広がったが、 



「 「 「 と、いう訳でお願いし、まぁぁぁぁぁぁぁあ――!!?」 」 」



「 「 「ひ、人混みに 流されて 行ったーーっ!??」 」 」 




 先ほどまで 空いていた大通りは、通る隙間のないほどの人混みになっていた。


 ベンチに座っていた私は 埋もれずに済んだが、アリスは......うん......。



 よく見ると、人々は 全員必死の形相で、まるで何かから逃げるように押し合っていた。


「何が、起こったの、かな......?」



 人々が逃げてくる方には、駅のホームがあったのだが――――



「――――――え?」



 ホームは建物ごと、『巨大な 黒いカラス』によって食い荒らされていた・・・・・・・・・のだ。


 私は ただ、唖然とした。







―――第一章「大異変ディザスター

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無形ノ国のアㇼㇲ イズラ @izura

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