第5話 心に決めた君へ
教室の扉を開けると、友達数人が俺の所に来て労わってくれた。だけど、それ以外の人は俺のことを空気のように扱ってきた。
当然のような気がする。それだけのことをしてきたという自覚もある。
だけど、言葉では表せない変な違和感が存在していた。しかし、この時はまだそれの正体はわからなかった。
その後、学校は滞りなく進んでいき、あっという間に放課後になった。クラスの皆は続々と廊下へと出ていき、部屋はもぬけの殻となっていく。
俺は独り、机の上でうずくまっていた。
久々の授業。当然だが内容に付いていけるわけもなく、何もかもが異国語だった。何なら同級生の会話にすら追いつけなかった俺は、休み時間中ずっと上の空を向いていた。
今日感じた謎もわかった。何かというと、それは全員が皆穂鈴のことを忘れていたことだ。正確には、口に出すまでもないほどに気にも留めていないということになる。
俺は彼らとの間に劣等感を抱いた。同時に、しても意味はないとわかっている後悔もした。そして、人間とはこういうものなのだと理解することもできた。
「……畜生がぁぁぁ!!!」
俺は思いっきり机を叩く。怒りも悲しみも、後悔も何もかもを2つの拳に込めて解き放った。
カサッ
その時、机の中から紙が落ちる音がした。何かと思って覗いてみると、そこには細長い手紙が一通、奥に眠っていた。
震える手でそれを開くと、そこにはとても美しい文字が並んでいた。俺は直感した。これは穂鈴のものだと。
俺は潤みかけている眼で手紙を読み始めた。
「自分の口から言えばよかったんだけど、恥ずかしくて無理だった。ごめんね。それでね、今日のデートの後、○○って場所に一緒に来てほしいんだ。そこで伝えたいことがあるの。それじゃ、また後で」
要約するとこんな風な文章が書かれてあった。○○という場所はまさに俺が行こうとしていたところで、この瞬間彼女も同じことをしようとしていたことに気が付いた。
すると、さっきよりも体が小刻みに震えだした。心は揺れに揺れ、神経は原型を保つのに精一杯であった。
そして手紙の裏を見てみると、隅っこに「I love you forever」と書かれていた。直後、目から涙が溢れだした。もう……感情がどうにかなりそうだった。
「俺も……俺も大好きだよ……穂鈴……絶対に君のこと、忘れたりなんかしない……絶対にだ……」
雫の雨が止まらない。俺は彼女の遺した言葉に、心の底から救われたような気がした。いいや、間違いなくそうだった。
ほどなくしてゆっくりと立ち上がると、黒板の右端の前まで歩み寄った。そして右手にチョークを持つと、空白の当番欄に俺はこの名を刻み込んだ。
過去のあなたに送る詩 リート @fbs
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