コント:おまえのせいで眠れんかった

 コントに入る前にここでクイズです。


Q. 小説家や漫才師でもストーリーを作ろうとしている人に与えられた特権があります。それはなんでしょう? 経験は問いません。


 私が考える一つの答え、それは「どんなに辛い経験でも、それを作品というものに昇華できるチャンスがある」というものです。

 今回のネタは実際にあった不愉快極まりない経験をネタにしたものです(笑)



会社のオフィス。スーツを着た男性2人が隣り合った席に座って仕事をしている。

A「あーあ、もう5時か。疲れたなぁ」

B「お疲れ様です」

A「ほんっと疲れた〜、あー疲れたな〜!」

B 怪訝な表情でAを見るが、また仕事を再開

A ちらっとBを見て「あーあ、疲れて今日全然仕事はかどらなかったわ〜」

B「そうなんですか、大変でしたね」

A 眉をひそめ、Bを少しにらむ

A 「なんかおまえ、他人事だな」

B 「他人事もなにも。自分何かしましたっけ」

A うなだれる

A 「あー、もういやだ。これだから最近の若いやつは……。全然覚えてないわけ?」

B 「いや……すんません、ちょっと思いつかないっす」

A 大きくため息

A 「昨日の話だよ? ちょうど今頃の時間。覚えてないの?」

B 「昨日ですか? そうですね、だいぶ忙しくてバタバタしてたのは覚えているんですが……」

A 「そう、忙しくて、どうした?」

B 「どうって……先輩と関係あることって言ったら、あ、そう言えば、同時に2つの案件が入って、1つお願いできませんか? って頼みました」

A 「そーだよ、それだよ」

B 「そうですね、確かに頼みましたね」

A 「だろ? 忘れんなよ。あんな大事なこと。大変な案件だったんだから」

B 納得いかない表情で「ええ、はい」

A 「ええ、じゃないだろ。全然納得いってねえ顔だな」

B 「まあ、その……。確かに頼みましたよ」

A 「おお」

B 「大変な案件でした、それもわかります」

A 「だろ? そのせいで疲れて、全然眠れなかったんだから」

B 「でも1個確認していいっすか?」

A 「なんだよ」

B 「先輩、その頼み、断りましたよね」

A 「は?」

B 「お願いしましたけど、先輩こういいましたよ。『ムリ』って」

A 「言ったよ。それが何か?」

B 「はい、めっちゃ困ってたんで、それでもお願いできませんか? って聞きました。そしたら先輩なんて答えたか覚えてますか?」

A 「覚えてるよ」

B 「先輩、『それでも絶対ムリ』って言ったんです」

A 「そうだよ、それが何か?」

B 「それでどうしようもないから自分でなんとかこなしたんです」

A 「そりゃそうだろうよ」

B 少し間を置いてから「いや、そうだろうって……それでなんで俺のせいって言われなきゃいけないのかよくわかんないっす」

A 頭をごちゃごちゃさせる「あーもう、わかってねえなお前は。俺があの後どうなったか知ってっか?」

B 「あのあとって俺の依頼を断った後ですか?」

A 「そうだよ、決まってるだろ」

B 「いや、知らないっす。何かあったんですか?」

A 「あったよ、そりゃ。あの後、1時間、ずーっと仕事が手につかなかった」

B 「なんでですか?」

A 「決まってるだろ? お前から3度目の依頼があるかもしれないって思ったからだよ」

B 「いや、もう2回も断ったじゃないですか」

A 「もうって、お前2回しか頼んでないじゃないか」

B 「2回で十分でしょう。もう1回頼んだらやってくれたんですか?」

A 「そりゃそうだよ。後輩から3回も頼まれたら断れないに決まってるだろ」

B  「えー?(あきれる)、でも実際頼まなかったし、何もしてくれなかったじゃないですか」

A 「でも頼まれるかもしれないだろ? 頼まれたらすぐできるように、1時間待機してたんだ」

B 「待機? 何もしないで?」

A 「何もしないで。というか、いつ頼まれるかハラハラしてたわ」

B 少しフリーズ。「だったらですよ、もうやってくれれば良かったじゃないですか」

A 「そんな2回も断っておいて今更、やっぱやろうか、なんて言えるかよ」

B 「でもできるような心構えはしてたんですよね?」

A 「そうだよ、それで疲れたんだよ」

B  「でもやってない」

A 「やってないよ、頼まれてないから」

B 「それで、疲れたと、お前のせいだと」

A 「そーだよ」

B しばしフリーズ「先輩、その1時間宇宙でもっとも無駄な時間ですよ」

A 「なんでだよ」

B 「何にも役に立ってないのに、勝手に疲れて、勝手に俺のせいにして。こっちからしたら助けてもくれなかったのに、さらにそのせいで疲れたとか意味わかんないっす」

A 「お前にはまだわからないかもしれないけどさ、色々あんだから、先輩にも先輩の事情がさ」

B 「いや、十分わかりますけど。ちなみに先輩、今大事な案件が重なって一個手伝ってもらいたんですけどお願いできますか?」

A 「いや、ムリ。ごめん帰るから。じゃーな」


(おわり)



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