エピローグ5:カゲヌイ

<カゲヌイ視点>


 英雄との戦いを終えて数日後。

 私は魔城の横にある荒野で墓場を見下ろしながら黄昏ていた。


 自身の大切な家族を魔城の横にある荒野の下に埋めた。

 ——そう、これは私の父親代わりでもあったオルガスの墓だ。


 荒野に吹き荒れる風は冷たく私の頬を流れていき、それはまるで私の心情そのものを表しているかのようだった。


「……オルガス」


 ずっと成し遂げたかったことをついに成し遂げた。

 殺したかった英雄を、ついにこの手で殺した。

 ……そう、復讐が終わってしまった。


 スルトは魔王になれずそれどころか英雄呼ばわりされていることを投げ悲しんでいたがそんなことすら今の自分にはどうでもよかった。

 ずっと成し遂げたかったことを達成したことで、私の心には大きな穴が空いてしまった。

 復讐を成し遂げ、嬉しいはずなのに、気分が良いはずなのに、私の心に残ったのは虚しさだけだった。

 そんなこと、最初から分かっていたはずなのに。

 復讐をしたところで、大切に思っていた人たちが戻ってこないことなんて。心のどこかで、気づいていたはずなのに……


 いっそのこと八つ当たりのために王都の人間たちを皆殺しにしてもよかったが、そんな気にもならなかった。


 オルガスは死の間際に私に生きろといった。

 しかし復讐を終えた今の私にはもはや何もない。

 心に大きな穴が空き、何もする気も起きなかった。


 自分はいつも失ってから大切なものに気づいてきた。

 先代の魔王様だってそうだ。

 いつも危険の中に身を置いているのに、いつまでも自分の前にいるものだと思い込み、甘えていた。

 気が付いた時には目の前から消えてしまっていた。

 

 復讐なんかよりも大事なことがあったのではないかと、今までの自分を否定する考えさえ浮かんでしまう。

 スルトの旅になど同行せず、森で静かに暮らしていればよかったのではないかと。

 そうすれば失わずにすんだのではないかと。


 だが、不思議なことにその考えにたどり着くことだけは嫌だった。

 スルトとの旅を後悔したくなかった。

 それがなぜか分からなかった。

 オルガスの墓に来れば何か答えが浮かぶかもしれないと思った。


「……オルガス。私はこれから何を目的に生きればいいんだ?

 教えてくれよ……」


 するとオルガスの墓の近くでうっすらと幻影が見えた。


「オルガス……?」


 オルガスの幻影は私の方を向こうとはしなかった。

 その代わり、ゆっくりと右手を上げると、私の後ろを指差した。

 そしてその幻影は静かに消えていった。


 私はオルガスの幻影が指さした方向を向く。

 そこには、スルトとメアが立っていた。


「あ、カゲちゃん。やっぱりここにいたよ」

「カゲヌイィ! 何をやっている!!

 次の魔王計画にはお前が必要なんだよ!!」


 スルトは声を張り上げてこちらを指差してくる。

 私はやれやれといった顔で小走りで二人に駆け寄る。


「うるさいな……今度は何をするんだよ」

「王都に巨大な雷と竜巻を起こす!

 これだけのことをすれば流石に俺のことを英雄と呼ぶ奴はおるまい!」

「なんでそんなことするんだよ……」

「魔王になるっつってんだろうが!!」

「スルト、お前……ヤケになってないか?」

「なってない!!」


 そう言いながらもスルトは地団太を踏む。

 明らかにヤケになっている。


「私たちが苦労して手に入れた能力をそんなくだらない理由で使うつもりか?」

「何を言っている、お前たちが手にした力は俺の協力あってこそ。

 すなわち、お前たちの力はこの俺のものだ!」

「なんだその理屈は……」


 スルトの強引な物言いに思わず呆れてしまう。


「——そもそも、私がお前の旅に同行したのは、英雄たちに復讐するためだ。

 それが達成した今、私がお前たちについていく理由は——」

「カゲちゃん、いなくなっちゃうの?」


 私が言いかけた時、メアが近づいてきて私の手を掴んで両手で握る。


「——え、マジで?」


 スルトでさえも素で驚いている。

 こいつは自分で自分のことを魔王とか言いながらたまにこういう素の態度が出てくることが多い。正直この態度を何度も見てる私にとっては全くと言っていいほど魔王らしくは感じない。


「な、なんだよ……そもそも、お前らにとっても私はただの戦力の一つでしか——」


 私が言いかけた時、今度はスルトが近づいてきて私の両肩を掴む。


「貴様、魔王の配下となったものがそう簡単に抜けられると思っているのか!

 どうしても抜けるというのなら腕の一本でも置いて行ってもらうぞ!!」

「ほら、スルトもカゲちゃんがいなくなったら寂しいって」

「そんなこと一言も言っとらん!

 お前は魔王の側近! 左腕! いなくなったら魔王が隻腕になるだろうが!」


「なんだよ魔王が隻腕になるって……馬鹿か?」


 そんなよく分からないことをスルトはああだこうだと叫んでこちらを困らせてくる。


 スルトが偉そうに語っている内容はどう考えてもおかしいのにメアが全肯定して、たまらず私がそれを突っ込む。

 今までの旅で毎日のように繰り返してきたことだ。

 でもそれが今は楽しかった。


 ――楽しい、楽しい?

 私が、こんなことを、楽しい?


「……どうした、カゲヌイ」


 あぁ、そうか。

 ようやく、ようやくわかった。

 今度は、失う前に気がつけた。


 私にとって、この二人も。

 こんな馬鹿で意味の分からないような奴らでも。

 私にとっては楽しい時間を与えてくれる家族だったんだ。


「カゲちゃん? ……泣いてるの?」

「え——?」

 メアに言われて、私は泣いていることに気づいた。


 気づいたら瞳から涙があふれて止まらなかった。

 オルガスが死んでも全く流れなかった涙が、今になってようやく流れた。


「なんだお前、お前が泣くとは珍しいな。というか初めてか。

 飯でも食いすぎたか?」

「……馬鹿が、そもそも泣いてないし、食いすぎたくらいで泣くか馬鹿」

「おい魔王を馬鹿馬鹿言うとは見過ごせんぞ。だが今はいい。

 とにかく、さっさと来い。城の中でこの俺の崇高なる王都破壊計画を教えてやる!!」

「あはは、分かったよ……」


 私は溢れて止まらない涙を何度も腕でぬぐいながら、二人のあとをついて行った。


 ——今度は失わない。

 私がこの手で守ってみせる。

 こんなよく分からない奴らでも。

 馬鹿で阿保で変なことばっかする奴らでも。


 私に居場所を与えてくれて、楽しさをくれる大切な家族なのだから。



-----====[キャラエピローグ Fin]====-----


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以下、作者コメント

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「大虐殺魔王」はこれで完結になります。

 最初から最後まで読んでくださった方も、途中から読んでくださった方々もここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!

 去年の9月から投稿を始めて二章以降は週3投稿というスローペースになってしまったせいで完結まで1年近く時間がかかってしまいましたが、無事完結させることができてよかったです!

 これもレビューや評価や応援コメントをくださった読者の方々のおかげです!


 もしレビュー追加がまだの方がいらっしゃいましたら是非☆3レビューの方をお願いします!!(☆2レビューでも☆1レビューでも嬉しいことには変わりないのでぜひお願いします~)


 次回作に関してはまだ候補がいくつかあるので同じような異世界モノや恋愛モノなど色々と構想を練っていますが、まだ未定なので新作が投稿されたらぜひそちらの方も読んでくださればと思います!


 それでは、改めてここまでお読みいただき本当にありがとうございました!

 また次回作もぜひよろしくお願いいたします!


 蜂月はちがつ八夏ようか

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【完結】大虐殺の魔王を目指す俺が「装備者の望みを逆の形で叶える呪い」を持った魔剣を抜いた結果魔王どころか英雄になってしまう話 蜂月八夏 @hachigatuyouka

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