エピローグ4:メア

<メア視点>


 英雄との決戦が終わり数日後。

 英雄ヒロを倒したことでスルトが英雄と王都中の人から称賛されてしまって以降、スルトたちと戦っていた私たちも同じように英雄扱いされていた。

 あの日以降スルトは国王に用意してもらった王都にある豪華な宿の一室に閉じこもっていた。


 私はスルトが閉じこもっている部屋のドアをこんこんと二度ノックする。

 もしかしたら今日もスルトは部屋から出てこないかもしれない。

 そう思ったが諦めきれず私はスルトに声をかけた。


「スルト、今日は——」


 扉が勢いよく開く。

 目の前には死んだ目をしたスルトが立っていた。


「スルト、どうかしたの——」


 スルトから無言で木剣を投げ渡される。

 私はそれを疑問に思いながらも受け取る。


「決闘だ」

「え?」

「俺が魔王になれなかった理由を確かめるに必要なのだ。何も聞かず付き合え」

「いいけど」


 スルトの意図は分からなかったが、スルトがそうするというのであれば私に反対する理由はない。

 私はスルトについて行き王都にある鍛錬場へと向かった。


****


 王都にある鍛錬場に移動し向かい合った私たちは、お互いに木剣を構えた。

 私は木剣を二本持ち、スルトはいつものように一本の木剣を右手に持った。


「先に言っておくが、本気で来い」

「分かった」


《魔眼開放》


 私は両目の魔眼を開放し、最初から全力でスルトに向かって一直線に突っ込んだ。


 スルトは私が今までに敵から模倣した剣技を次々と繰り出すが、たった一本の木剣でそれを受け止め続ける。


 両眼の魔眼を開放して本気を出した私の剣を受けられる人間はほとんどいない。

 スルトはその数少ないうちの一人だ。


 横に、上にと縦横無尽に動き回り、空を蹴りお互いに攻撃を仕掛け続ける。

 スルトもこの数日で部屋で修行かイメージトレーニングをしていたのかは分からないが、今までにない剣術を繰り出し私を責め立てる。

 しかし、私の魔眼の力はその剣術を即座に見切り、どう攻めればいいか私に教えてくれる。

 だからこそ、どんなに強いスルトでも剣の技術だけは私に勝つことができなかった。


《絶技:破断流剣》


 私は瞬きの時間もないわずかな隙を狙い、スルトの持っていた木剣を弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた木剣を宙を舞い、地面に突き刺さった。


「く……完敗だ」


 スルトは両手を地面につき悔しそうにそう呟く。


「あの魔剣は使わないの? それだったらいくら私でもスルトには絶対に勝てないよ」

「魔王は、全ての能力において配下に負けることはあってはならないのだ!

 故に純粋な剣技でお前に勝てるかを確かめたかったのだ」


 スルトは地面に両手を置いたまま私に決闘を挑んだ理由を語り始めた。


「何故俺が魔王になれなかったのかを模索しているところなのだ。

 そして、今その理由が分かった」

「それは?」

「俺が魔王になれなかったのは、剣術の才能が足りなかったからだ!!

 なにより魔眼、魔眼の力が足りなかったのだ!」


 スルトは急に立ち上げると拳を握りしめそう言い切る。


「魔眼といえば魔王、最強の力の象徴だ。

 それがなかったから俺は魔王になれなかったからに違いない……!

 だが、魔眼の力も剣術の才能も生まれ持つモノだ。

 今からそれを得ることはできない……!

 ということは俺は一生魔王にはなれないというのか……!」


 スルトはまた地面に両手をつきうなだれる。


「スルト……大丈夫?」

「しかぁし! 例え俺が魔王になれなくても、次の世代という手がある!」


 またすぐに立ち上がったスルトは高らかにそう宣言する。


「遺伝子操作、人工的なスキル付与、そして選抜された優秀な母体、非人道的な実験を繰り返し我が分身たる新たな命をこの世に誕生させる!

 そしてこの俺の思想と魔剣を受け継がせ、最終的にはこの俺の魂を移植し——」

「……スルト、子供作るの?」

「ん? まぁ、要するにそういうことではあるが、新世代魔王計画と呼べ――」

「相手は誰?」

「へ?」


 私はスルトの両肩を掴み、問い詰める。

 スルトは少し困惑した顔をしていた。


「相手は誰なの?」

「は? そんなもん、優秀な遺伝子を持った人間に決まって——」

「それは誰なの?」

「いや、別にこれとまだ決まってるわけじゃないが——」

「私がやる」

「へ?」


 私は有無を言わさず言葉を吐き出した。


「私じゃダメなの?」

「何を言う、メア、お前は——」


・魔眼持ち

・天才的な剣術な才能

・大地をも切り裂く風魔法の使い手


「……一応要件は満たしてるな。うん」


 スルトは一瞬迷ったような顔をしながらも、私の顔を見つめながら右手を顎に当て考える素振りをしながら呟いた。


「というかもしかしてこれ以上の適任者いない?」

「私にやらせてくれるの?」

「えでも俺遺伝子操作とか人工的なスキル付与とかやりたいんだけどいいのかお前は。 実験台にしてあれこれする気満々だぞ」

「スルトがそうしたいっていうのなら」


 私はずっとスルトのそばにいられさえすればいいと思っていた。

 

 でもスルトが誰かとそういう関係になって、スルトが誰かのモノになるのだけは許せなかった。

 だから村でもスルトに近寄る女の子には睨みを利かせたりして追い返したし、なんだったらスルトに圧力をかけたこともあった。

 しいて言えばカゲちゃんはそもそもスルトが好きで旅に参加したわけじゃなかったから許した。

 でも、長く苦楽を共にして、仲間として過ごしてきたカゲちゃんがどうしてもっていうのなら私の次くらいには許してあげないこともないかなって思ってるけど。

 でも、スルトにとっての一番は絶対に私じゃないとダメなんだ。


「スルトが誰かのモノになるくらいなら、私がやる」

「ふっ、メアよ、分かっていないな。俺が誰かと交わったからってそれは誰かのモノになるわけではないのだ」

「分かってないのはスルトだよ。私は——」


 私が言葉を言いかけた時、突然スルトは私を壁際まで追い込み、壁に右手を置き、左手で私の顎を引き寄せた。


「一つだけ訂正させてもらおう。俺がお前のモノになるのではない——

 お前が俺のモノになるのだ」

「——う、うん」

 

 急なその言葉と距離の近さに、私は思あw図顔を赤くしてしまい、耳まで赤くなってしまっていた。


「どうしたメア。

 そういう態度を見せるのは珍しいな。

 俺が魔王らしくてかっこよすぎて痺れてしまったか」

「な、なんでもない……」


 なんだろう。スルトのことは好きだったけど、こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。

 顔と胸が熱くなって、心臓の鼓動が早まる。

 その心臓の鼓動は、私が今までにどんな強敵と戦って窮地に陥った時よりも早いかもしれない。


「その、いつやるの?」

「そんなすぐやらんぞ。あくまで最終手段だ。ありとあらゆる計画を王都で試した後の苦肉の策だ」

「じゃあ早くそっちを進めよう」

「そっちがおまけみたいな言い方するでない。あくまでメインはこっちだぞ」

「約束だよ。子供作る時は私を選んでよ」

「新世代魔王計画と呼べ!

 とにかく、先に実行しなければならない魔王計画第二部第一章がある!

 新世代魔王計画はそれがすんでからまた詳しく話す!

 まずはカゲヌイを呼びに行くぞ!」

「うん!」


 そんなことを言い合いながら、私は大好きなスルトの隣にこれからもずっと一緒にいられる喜びを噛み締めながら歩いて行った。

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