エピローグ1:エイル

<エイル視点>


 私は王都にある応接間に案内され、騎士グローレンスと対面していた。


 彼は英雄ヒロの部下で戦争の指揮をしていた人物だが、彼が私たちの和解に応じてくれたおかげで被害を最小限にすることができ、しかも英雄ヒロの悪行を世に知らしめることができた。

 もちろん、それらを実行できたのはなによりもスルトのおかげだ。


「お忙しいのにお時間をいただきありがとうございます」

「いや、こちらこそ。君たちがいなければ我々は英雄ヒロに騙されていたままだった」

「これも全て貴方が和解に賛同してくださったおかげです。

 そうでなければ戦いは続いたままだったかもしれませんから」

「おかげで被害を少なくできた。騎士団を代表して感謝を申し上げる」


 騎士グローレンスは胸に手を当て敬礼をする。


「まさか英雄ヒロの方が悪者で、真の魔王と言われていた君たちこそが英雄ヒロの悪行を暴こうとしていた正義の者たちだったとは……今でも信じられない自分がいる」

「彼は錬金術師ウェルラの開発した洗脳の力で10年かけて民衆を欺いてきました。

 彼らの術を解いたとはいえ影響はまだ多く残っています。

 信じきれないのは無理はありません」


「エイル殿、一つお聞きしたいのだが、貴方はどうして命をかけてまで彼に従い戦ってこれたのだろうか」

「彼は私の恩人なんです」


 私は魔法学園にいた頃の記憶を思い返す。


「私は、剣術を重んじる一家に生まれたものの、生まれ持ったスキルの代償で体が弱く、落ちこぼれと蔑まれてきました。

 そして、その弱みに付け込んで偽の英雄ヒロが従えるロキシス教団に命を狙われました。

 彼は、そんな私を助けてくれた上に、新たな道を指し示してくれたんです。

 だから、彼の求める理想のために戦いたかったんです」

「そうだったのか……」


 騎士グローレンスは顎に手を当て納得したような顔をする。 


「それにしても、あの証拠は一体どこから?

 王都の記録のどこにもあのようなモノは残っていなかった」

「そうでしょう。

 英雄ヒロは自分にとって都合の悪い証拠や人間は徹底的に消し去っていましたから。

 実際、この証拠を手に入れるのは大変でした。

 王都中を駆け回って、ついに本来の英雄が聖剣を抜いたという証拠を持っているという人物に出会うことができました」


 私はこれからの話をする。

 

「英雄ヒロの力によってもみ消されていた錬金術師ウェルラの被害者の人たちの救済、各地で残っている彼の洗脳による影響の解決、ロキシス教団の捕虜たちの処遇、解決しないといけないことはまだまだたくさんあります」

「そうだな。 二度とあのようなことを起こしてはならない」


 私は騎士グローレンスの言葉に深く頷く。


「もう一つ伺いたいのだが……」


 騎士グローレンスは緊張した面持ちで話を切り出した。


「君がルーン魔法学園の地下に封印されていた禁断の魔導書に適合して、《魔法創造》の力を得たというのは本当なのだね?」

「はい、本当です」


「このことは我々に話してもよかったのか?

 もちろん、軽々しく口外するつもりはないが…… 

 エイル殿の《魔法創造》の力……知られてはその力を利用しようとする者はいくらでもいる。

 君一人では危険なのではないか?」

「私は一人じゃありません。

 彼らがいますから」


 私は胸に手を当てスルトの顔を頭に浮かべる。


 私は彼のために命をかけて戦った。

 でも、彼にもらった恩を返すためにはこのくらいじゃ足りない。

 落ちこぼれと蔑まれていた私に自信をくれて、価値を与えてくれて、使命を与えてくれた。


「この《魔法創造》の力が平和のために使えるのなら、いくらでも使うつもりです」


 もはや過去の自分はどこにもない。

 この力を彼のために、平和のために使うのみだ。


「そのためにもまず、英雄ヒロが偽の英雄だったこと、なによりも彼こそが真の英雄だということを世界に広めていきましょう!

 そうしていけば各地に残っている英雄ヒロに従う残党をあぶりだすこともできますし、彼の力になってくれる協力者も増えていくはずです!」

「そうだな、そうしよう」


 私はあの時、彼の背中を追いかけ、追いついて見せると誓った。

 この新たに手に入れた力を生かすために。

 彼は見せかけの平和をぶち壊し真の平和をもたらそうとする真の英雄なのだとあの時考えた。

 その予想は間違っていなかった。

 彼こそ、真の英雄なのだ。

 真の英雄ために、私はこれからも戦い続けると固く心に誓った。

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