139話 雷神の幻影と雷神の精霊
一方カゲヌイはスルトたちの技の発動に邪魔が入らないように一人で英雄ヒロと雷の精霊を食い止めていた。
《雷影操作》
カゲヌイは地面から影を壁のように出現させ敵の視界を遮る。
「その程度——」
《聖剣の波動》
しかしそれは英雄ヒロの聖剣の波動の力によってかき消される。
すかさず雷の精霊がカゲヌイに向けて大剣を振り下ろし、咄嗟にカゲヌイはその攻撃を槍でいなす。
あまりの威力に完全にいなすことができずカゲヌイはバランスを崩してしまう。
その隙を見逃さず英雄ヒロは聖剣による薙ぎ払い攻撃をカゲヌイに直撃させる。
「がはっ——」
なんとか直前で槍によるガードをするも威力を殺し切れずカゲヌイは口から血を吐きながら吹き飛ばされてしまう。
「その程度の目くらましでこの俺を倒せるとでも思ったのか?
今その首をねじ切って——」
ドガァン!!
英雄ヒロがカゲヌイにとどめを刺すべく聖剣を振り上げた瞬間、光の精霊がいた場所で轟音が鳴り響いた。
「なんだ——」
その時、英雄ヒロが目撃したのは、自身の使い魔である光の精霊が核を貫かれ消滅していく場面であった。
「な——そんな、馬鹿な……!」
ありえない出来事が目の前で起きたことで英雄ヒロは驚きの声を上げる。
「この俺がリカラの先代の聖女から奪い取った最強の召喚スキルを、ウェルラがスキル付与実験によって更に強化した最上位の精霊だというのに……ありえんぞ!!」
「目の前にあるのが現実だ、英雄よ」
「な——」
メアと共に光の精霊を討った後、即座に俺は英雄ヒロの元に駆けだしてた。
そして英雄ヒロが動揺した隙を狙い、魔剣と同化した右腕に闇の魔力を込め殴打を繰り出した。
《紅黒拳》
「ぐぅっ!?」
英雄ヒロを彼方まで吹き飛ばし、カゲヌイと引きはがした。
「カゲヌイ、問題ないな。立て」
俺が檄を飛ばすとカゲヌイは横腹を抑えながらもなんとか立ち上がった。
「せめて労いの言葉くらい言えよな……」
「くくっ、そうだな。
期待通りの働きだ。我が左腕よ」
「……はいはい、お褒めに預かり光栄だよ」
「違う、もっと敬礼したりひざまずいたりした上で心底忠誠心丸出しな感じで言うんだぞ」
「なんで戦っている最中にそんな馬鹿な真似しないといけないんだよ」
「馬鹿? 馬鹿だと? 貴様、この行為がどれだけ魔王趣向的に大事か——」
《雷の大槍》
俺とカゲヌイが口喧嘩をしていると雷の精霊が左手に生成した雷の大槍を俺にめがけて放ってきたのを直前で回避する。
「ちっ、空気の読めないやつめ」
「どっちがだよ……」
光の精霊は潰したが、もう一体面倒な奴が目の前に残っている。
光の精霊が英雄ヒロにとっての右腕なら、雷の精霊はさしづめ左腕といったところだろう。
そうなれば、下す命令はただ一つだ。
「我が左腕よ、あのヒゲ生やしたなんかよく分からん神まがいみたいな雷の精霊の首を俺様に捧げろ」
「お前に言わなくてもやる」
俺がそれを言うと同時にカゲヌイは雷の精霊に向け駆けだした。
****
《我流竜人流槍術:影雷一閃》
《精霊剣トール》
カゲヌイの槍の突きと雷の精霊の大剣の振り下ろしがぶつかり合い、あたりに雷が爆発によって周囲に散っているかのごとき稲妻が走る。
「お前も雷か……」
《神の稲妻》
雷の精霊は周囲に爆発的な雷をばらまき、周囲を覆いつくす。
「自分の力に自信があるみたいだな……だが——
お前と私は相性が最悪だ。
雷なんて、私にとっては足場にしかならないんだよ!!」
《雷潜り》
「!!」
カゲヌイはなんと雷の精霊が剣先から放った雷に潜り、そのまま雷の中を進んでいく。
そして剣に流れる雷を伝い、雷の精霊の目の前まで移動した。
「頭がお留守だぞ」
《我流竜人流槍術:雷神一閃》
カゲヌイは右手の中から雷で形成された新たな槍を生み出し、そのまま相手の頭にめがけて突きを繰り出した。
しかし、寸前のところでそれは躱されてしまう。
「ちっ、今のを避けるのかよ」
《雷神槍波》
カゲヌイは槍先から稲妻を落とし、雷の精霊に直撃させる。
しかし、雷の精霊には対して効いていないようだった。
「こっちの雷の効きも悪いな——だったら」
雷の精霊は巨大な雷の剣を構える。
それに対してカゲヌイは槍を仕舞い、両手の拳を構えた。
《精霊剣トール》
《雷神轟拳》
魔剣と同化したことで雷の篭手と化したカゲヌイの拳と雷の精霊の剣がぶつかり合い、稲妻の衝撃波が周囲に走る。
「力でどっちが勝るか勝負ってとこだな!!」
****
一方俺とメアは英雄ヒロと対峙していた。
「貴様の片翼は捥いだ」
それを改めて口に出すと、英雄ヒロはまだその事実が飲み込めていないのか、歯を食いしばり悔しそうな顔をしていた。
「何故だ……なぜ雑兵ごときに、神の精霊の力を——」
《ダークネスブレス》
「ぐぅっ!?」
俺はすかさず口から闇の魔力を込めた
英雄ヒロは聖剣でそれをそらすも、頬をかすめて血が出ていた。
わざわざ考える時間を与えてやるほど俺は甘くはない。
「行くぞ。我が右腕、メアよ」
「うん」
俺が前に飛び出すと同時にメアも全く同じタイミングで踏み込んだ。
《紅黒拳》
俺が闇の魔力を込めた拳を繰り出すと、英雄ヒロはそれを寸前でよける。
《
メアはすかさず英雄ヒロの後ろに回り込み、死角から連撃を繰り出す。
「ぐぅっ!?」
英雄ヒロは未来を視るスキルでも使っていたのか、完全な死角からにも関わらず体を動かすことで回避し続ける。
《闇弾》
注意がメアの方に向いている隙を狙い、俺は周囲に闇の弾丸を展開し英雄ヒロにめがけて射出した。
英雄ヒロは聖剣を振るいそれら全てを弾き飛ばすも、立て続けに俺とメアは同時に攻撃を仕掛けた。
《ダークネスブレス》
《風神の審判》
俺の放った闇のブレスと、メアが放った風魔法の刃がぶつかり合い、爆発を起こす。
「くそっ——」
直前で回避したようだが完全には衝撃をよけきれなかったようで、英雄ヒロは体に傷を負っていた。
「なんだこいつらは——」
(思念を送るようなスキルでも持っているのか!?
そうでなければ、こんな連携はありえない!!)
英雄ヒロが俺とメアの神がかった連携に衝撃を受けている刹那、俺とメアは視線を交わし合っていた。
(冷静に考えてみれば、こうしてまともに共闘するのは初めてかもしれないな)
(……そうだね)
俺とメアは戦いながら目だけで会話していた。
そうこれは長年、幼馴染として、配下として、そして右腕として何度も剣を交え、戦いを共にしていたからこそ為せる技。
「こいつら、まさか——」
その戦い方を少しずつ肌で感じ取っていた英雄ヒロは、俺とメアの連携に正体を少しずつ理解していたようだった。
(お互いの目線や微かな動きだけで、お互いがどう動くかを即座に理解し、それに合わせて連携を行っている——!?
そんなこと、幼い頃から訓練を続けてきた双子でもない限りできるはずがない!!)
「何故、スキルの力で世界を掌握してきたこの俺に、スキルでない力で立ちふさがるのだ、貴様らはァアア!!!」
《聖剣の衝撃》
英雄ヒロは怒りに任せ聖剣から衝撃波を放つ。
俺はそれを事前に察知し距離を取ることで回避するも、メアはその衝撃に巻き込まれ吹き飛ばされていた。
「ぐぅっ——!!」
「これで貴様も——」
《紅黒拳》
俺はメアのことに見向きもせず、英雄ヒロに向けて一直線に突撃し、拳を脇腹に叩き込んだ。
「がぁぁァアッ!?」
「どうした? この俺様が動揺するとでも思ったか?」
「貴様——」
どうやら英雄ヒロは俺の右腕たるメアがダメージを受ければ俺が動揺して隙が生まれるとでも思っていたようだ。
《風神波》
「!?」
死角から風の刃が飛んでくるのを英雄ヒロは咄嗟に横に移動することで回避する。
その風の刃はメアが飛ばしたものだった。
「何故……あれを食らって人間が生きていられるわけが——」
「奴は俺の右腕だぞ? 貴様の怒りに任せただけの攻撃で死ぬと思っていたのか?」
「黙れ! その言葉、反吐が出る!!」
(この男と戦っていると、俺が殺した本当の勇者の顔が頭にちらつく……忌々しい!!)
「あちらもそろそろ終わるようだしな」
俺の後ろではカゲヌイと雷の精霊が拳と大剣をぶつけ合う衝撃波が鳴り響き続ける。
「馬鹿が——そう何度も奇跡が起こるとでも——」
「それはどうかな」
カゲヌイの勝利を確信している俺は英雄ヒロのその発言に怪しげな笑みを浮かべた。
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