140話 カゲヌイの全て
「どうやら力では私の方が上みたいだな——!」
カゲヌイは相手を煽りながら殴打を続ける。
《憤怒》
すると、雷の精霊の両目が赤く光り、魔力が格段に増していくのを感じた。
「なんだ、まだ何かする気なのか——」
雷の精霊が繰り出す大剣をカゲヌイは拳で受け止めようとする。
しかし、その直前でただならぬ気配に気づき、横方向に動き回避する。
ドガァン!!!
雷の精霊が振り下ろした大剣の余波は天界の地面を大きく抉り、大きな亀裂を入れていた。
「な——」
間髪入れず雷の精霊は大剣を薙ぎ払い、追撃を行う。
「ぐぅっ!?」
その体験はカゲヌイの渾身の力を振り絞ってようやく受け切れるかどうかという威力だった。
しかも、それは雷の精霊が大剣を振るごとに威力は増していっていた。
「調子に、乗るなぁ!」
《雷神拳》
カゲヌイは大剣の振り払いを紙一重で躱しながら、カウンターを入れる形で雷を込めた拳を相手の頬に叩き込んだ。
その攻撃はクリーンヒットし、雷の精霊は大きく後ろに吹き飛ばされる。
しかし、攻撃を受けた瞬間、雷の精霊の力がさらに増した。
「一体、なんのスキルなんだ——」
カゲヌイは雷の精霊の大剣の薙ぎ払いを拳をクロスさせることで正面から受けるが、威力を殺し切れず、後ろに吹きばされてしまった。
「がぁぁあァっ!?」
雷の精霊の持つ最強のスキル。《憤怒》
攻撃を続ければ続けるほど攻撃の威力が上がっていき、攻撃を受ければ受けるほど攻撃力を増すことのできるスキル。
代償は怒りによりやがて暴走してしまうことだが、召喚した精霊はその主に絶対的に服従する。
故に英雄ヒロは雷の精霊が持つこのスキルの代償を踏み倒している。
このスキルはメアの持つ《狂騒の魔眼》と効果が似たスキルだが、最大の違いはその上昇度。
攻撃を受けることでも攻撃を続けることでも攻撃力を増していくため、最終的な上昇値は凄まじいものとなっていく。
「がぁっ!?」
必死に攻撃を捌き続けるも、連戦を重ね、魔剣同化に至ったことで消耗は著しく、カゲヌイの限界は近づきつつあった。
「くそっ、くそくそクソッ!!」
カゲヌイは戦いの最中、自身の力不足を噛み締め、悔しそうにする。
「私は、負けるのか——!?
この力で、この有り余る力で、ようやくここまで来た私が、ここに来て力で負けるのか——」
『本当にそうか?』
——その刹那、自身の親代わりであったオーガの戦士オルガスの幻聴がカゲヌイの耳元に届いた。
「な——」
まるで走馬灯のように時間が遅くなる。
その時間の中で、カゲヌイははっきりと死んだはずのオルガスの姿と声を聞いた。
『懐かしいな。その怪力に頼る戦い方は、俺がお前に教えたものだったなぁ。
だが、お前がこれまで技を教わってきたのは俺だけじゃない。
そうだろ?』
「そうだ、私は——」
カゲヌイはその遅い時間の中から抜け出し、槍を懐から顕現させ構えた。
《精霊剣トール》
雷の精霊は大剣を構えカゲヌイを叩き潰すために上から振り下ろす。
《竜人流槍術:竜尾螺旋斬》
カゲヌイは槍を両手で持ち、真横から横に大きく薙ぎ払い、自身の力と遠心力を駆使して相手の大剣の振り下ろしと弾いた。
カゲヌイが魔剣の国で黒竜人ドラガーから学んだ竜人流槍術。
これは槍を大きく薙ぎ払うことでその遠心力を利用し敵の強力な攻撃を無理やり逸らす技である。
「これは、あのドラガーから学んだ技術だ」
今度は自分が攻める番だと主張するように、カゲヌイは槍による連撃を繰り出す。
《雷影纏い》
カゲヌイが槍を振るたびに、周囲の雷が槍先に集まり槍の振る速度が増していく。
カゲヌイが動くたびに、カゲヌイの足元にある影が槍先に集まり槍の威力が増していく。
「そしてこれが——スルトを見て盗んだ、スキルの扱い方と魔剣の使い方だ!!」
まるで時間と共に大きく鋭利になっていく
それによって、力で劣っていた雷の精霊相手に立ち向かえるようになっていく。
「だが——決め手が足りない」
このままではいずれ自分の方が消耗し倒れてしまう。
そうなってしまえば完全に自分の負けである。
「スルト!」
カゲヌイはメアと共闘することはあっても自分からスルトに頼ろうとすることは今までなかった。
理由はなんか気に食わないからだ。
カゲヌイは勝利のために自身の拘りを捨て、スルトに助けを求めるために振り返った。
だがスルトは説明する間でもなく意図を察しすでに左腕を構えていた。
「いいだろう」
スルトは地面に手を置く。
左手の先に暗黒の魔力が集まっていく。
《全てを覆い隠す魔王の常闇》
スルトは左手に集めた闇の魔力を開放し、地面を莫大な闇が覆っていく。
それはさながら太陽の光を空を通り過ぎさる竜によって塞がれてできる影のごとき暗黒であった。
「スルト、一体何を——」
「舞台は用意してやった。あとは貴様がこの上で踊るだけだ」
カゲヌイはスルトが発動した技の意図を理解できなかった。
スルトもその技の意図を説明するつもりはないようだった。
しかし、カゲヌイはその闇の影の上に立っているこの瞬間、言いようもない全能感に包まれていた。
「これは——」
なんて心地よさだ。
スルトの言うように、本当に自分が舞台の上の主役にでもなったかのような気分だ。
この心地よさ——前にも感じたことがある。
そう、先代の魔王様の影の中にいた時の温もりだ。
先代魔王様は優しかった。
魔族と人間が手を取り合う世界がきっと来ると、そう信じて手を尽くしていた。
自分のことをないがしろにして、常に他人ことばかり気遣っていた。
それに対してスルトは誰に対しても優しくない。ド屑と言ってもいい。
自分が魔王になると信じて疑わず、よく分からないことやくだらないことばかりに手を尽くしている。
自分のことが第一で、他人のことなんて気遣いもしない。
似ても似つかない先代魔王様とスルト。
——でもたった二つだけ先代魔王様とスルトには同じところがある。
一つは、この影の中の心地よさ。
二つ目は、自分の仲間や配下を心の底から信じているということだ。
この闇の影を置くだけで、私がアレに勝てると、そう確信しているんだ。
それなら、私はその挑発ともとれる期待を裏切るわけにはいかない。
《闇潜り》
カゲヌイはスルトが展開した闇の中へと潜った。
気配が完全に消え去ったことで、雷の精霊は周囲を見渡しカゲヌイの居場所を把握しようとするも、全く居場所を感知することができなかった。
《雷影槍》
すると闇の中から突如雷の槍と影の槍が出現し雷の精霊に体を貫こうと出現する。
雷の精霊は動揺しつつもそれを寸前で回避する。
だがその雷の槍は1本、2本と立て続けに地面からはい出し、襲い掛かる。
雷の精霊はそれを大剣で弾き、体を動かすことでなんとか回避し続けるが、あまりのその数に何発かは体をかすめてしまう。
雷の精霊はダメージの蓄積を警戒し、空を飛び闇の領域から距離を取ろうとする。
「それくらい、私が予想してないとでも思ったか?」
だが、カゲヌイはそれを事前に予想し背後に回り込んでいた。
《雷影拳》
カゲヌイは雷を纏った拳を雷の精霊にぶつけ、そのまま闇の地面に叩き落した。
「体の調子がいい、心のなしか体の傷や疲れも感じない。
スルトのこの闇の領域のおかげか?」
スルトが展開した闇の領域。
これはスルトがカゲヌイに対して
スルトの闇空間に長期的に滞在したものは闇に対する抵抗力を徐々に身に着け、かつスルトの闇の上にいる際に
その上、カゲヌイは影を操るスキルを所持しているため、スルトの闇の力との相乗効果でスキルの効力を更に増すことができる。
「——行ける、今なら」
これは蛮勇でも、慢心でも、ましてや単なる希望的な観測なんかじゃない。
これは確信だ。
今の私なら奴を仕留められる。
次の瞬間、雷のごとき速さで雷の精霊に向かって駆けた。
敵のいる位置の直前、闇の地面を蹴り飛び上がった。
槍を両手で握り頭の上に構え、まるで大剣を振り下ろすかのような構えを取る。
——これまで、いくつもの戦いを経験し、修羅場を乗り越えてきた。
力を振るう術はオルガスから学んだ。
技術は黒竜人のドラガーから教わった。
そして——この魔剣の力とスキルを使いこなす力はスルトから身につけた!
今から繰り出す一撃が、私の全てだ!
《我流竜人流槍術:雷闇魔王斬》
「オラァァァァアアアアアア!!!!!」
カゲヌイがその攻撃を雷の精霊にぶつけた瞬間、爆発が起こり周囲に雷の金色と、影の暗黒の粒子が飛び散る。
雷の精霊はそれをまともに食らったことで体を大きく抉られていた。
もはやこの世に召喚され続けていることが不可能になったことで体が手の先から少しずつ砕けていく。
「この、雷神の名を持つ我を屠るとは、見事、なり——」
雷の精霊は最期にその言葉をカゲヌイに残し、消えていった。
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