第3章 魔王城を手に入れる編
64話 新たな国へ来たけどせっかく考えた脳内設定が一瞬で崩壊した
「転移魔方陣は無事に発動したようだな」
どうやらここは地下室の倉庫を改造して転移魔方陣の置き場所としたものらしい。
湿っぽい雰囲気に、足元でネズミがはい回る気配がする。
それにこの匂い、元々はワイン樽でも置いていたのかもしれないな。
上へと続く階段があったので俺たちは階段を上り上へと上がる。
扉を開くと外の眩しさに目がくらんだ。
少しずつ目を開けるとそこは魔剣の国が広がっていた。
象徴的な巨大な風車、あちこちにある高さの低い建物たち。
そして遠くには鉱石が取れるであろう山々が鬱蒼と並んでいる。
あちこちから鉄を叩く音が聞こえるし、町を行きかう人間も皆上質な武器を下げている。
さすがは魔剣の国と呼ばれているだけある。
そう、この魔剣の国と呼ばれるバルムンクが次の標的だ。
「よし行くか」
「それよりも先に、今回の目的をちゃんと説明してくれるか?」
カゲヌイが腕を組みながら煩わしそうに説明を求めてくる。
そういえば詳しい内容はまだ話していなかったな。
「城を手に入れるとかなんとか言ってたけど、どういうことなんだ?」
「俺の集めた情報では、この国では魔城と呼ばれる強大な城を建設しているらしい」
「魔城?普通の城とは違うのか?」
「詳しくは俺も知らん。
少し遠い国だったからな、噂話程度の情報しか集めることができなかった」
とりあえず判明しているのは主にこれらのこと。
魔剣の国と呼ばれているほど魔剣の製造が盛んであること。
ドワーフと竜人が共に暮らしていること。
魔剣を持った戦闘能力の高い軍があること。
そして現在魔城を建設していると言うこと。
「魔城って言うんだから、魔剣みたいに特殊なスキルがあるんじゃ?」
確かにメアの言う通りではある。
言葉の語感だけで判断するなら、魔剣と同じような力を持っていると予想できる。
なにより、魔王たる俺が持つべき城は普通の城であってはならない。
だからこそ、俺はこの魔城とやらを狙っているのだ。
「そのためにもまずはこの国で情報収集を——」
「おい、そこのお前たち」
不意に後ろから話しかけられたので振り向く。
するとトカゲと人間を組み合わせたような姿をした生き物が立っていた。
体中に緑色の鱗があり、とんがった尻尾とワニのような顔が特徴的な生き物が、鉄の鎧をつけ盾と剣を握っている。
これは、いわゆる竜人と呼ばれる種族か。
この国では竜人とドワーフが共存しているというのは本当のようだな。
「貴様ら、見られない格好だな」
槍を構えた竜人の衛兵が俺たちに話しかけてきた。
「この国に来た目的は何だ?」
これは、よくある観光客が聞かれるやつだ。
こういう時に備えて設定はこれでもかと練ってある。
俺はこういう税関とかに旅行目的を聞かれてたじたじになって怪しまれた結果麻薬密売を
「観光だ」
「身なりは冒険者か何かのようだが、観光……?」
やべ、怪しまれてる。
魔剣で有名な国ならたくさんの観光客が来ると予想していたんだが……
「ここは山々に囲まれて来るのは命がけだ。
余程酔狂な金持ちでもない限り観光目的で来ることは滅多にないぞ」
マジか。転移魔方陣で来たから国の立地の厳しさとかに気が付かなかった。
来てそうそう怪しまれるとは思わなかったぞ。
昨日あれだけこれでもかと設定を練っていたというのに根本から設定が崩壊してしまってはどうしようもない。
今からでも設定を練り直せ俺。
実は御曹司の息子で金が有り余ってて超強い護衛を連れて大量の魔剣をどうしても見たくてとか何かそういう感じで——
とかなんとか考えていたら竜人の衛兵が俺の背中にあるレーヴァテインに視線を向ける。
「その背中にあるのか、魔剣か?
観光というのは魔剣を見に来たという意味か?」
「そ、そうだ」
「行ってもいいが、くれぐれも今国で騒ぎは起こすなよ」
そういうと竜人は踵を返し、去っていった。
ふぅ、なんとか誤魔化せたな。
「雑すぎだろお前」
カゲヌイが突っ込みを入れてくる。
うるさいな、こいつ。
俺がどれだけ設定を頑張って練ったか知らないくせに偉そうに言いやがって。
「情報収集に行くぞ。
ここは三手に分かれる。
メア、お前はあちこちで気配を消して聞き耳を立てろ。
カゲヌイ、お前は影潜りを生かして情報を集めてこい。それと、潜入のための良い物件を見つけろ。
一時間後、あの広場に集合だ」
「うん」
「分かった」
俺が命ずると同時にメアとカゲヌイは姿を消す。
さて、俺も動くとするか。
とりあえず酒場にでも入れば情報は集められるだろう。
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