おまけ その6 魔剣の呪いは装備者に配下にすら影響を及ぼす

<メア視点>


 ある日の夜中、宿屋のベッドの上でメアはあぐらをかきながら腕を組み、頭を悩ませていた。

 ちなみにスルトはメアの横でぐっすりと寝ている。


「うーん」

「どうしたんだメア」


 床で横向きに寝ころんでいるカゲヌイがメアに話しかる。


「スルトにまた怒られちゃった。私が食べすぎるせいでお金が減ってばかりだって」

「あいつが怒るのはいつものことだろ」


 食べる量の比率で言えばどちらかといえばカゲヌイの方が責任は重いのだが、カゲヌイはそれを気にする様子もなくそんなことを言い放つ。

 しばらくメアは考え込んでいると何かを思いついたように指を鳴らした。


「そうだ、せっかくなら私たちが自分でお金稼いでくればいいんじゃ?」

「どうやってだよ」

「どこかから高い物を盗んで悪い人たちに売ればお金たくさんもらえるよ!スルトの言ってた悪いことをたくさんすることもついでに達成できるし、一石二鳥だよ」

「そんな笑顔で言うことか?」


 メアの言葉にカゲヌイが呆れ顔で呟く。


「そうと決まればさっそく行こう」

「お、おい。いま夜中——」


 メアはカゲヌイの腕を引っ張って無理やり外に連れて行った。

 一方のスルトは配下二人がそんなことをしでかそうとしていることも露も知らずベッドの上で眠り呆けていた。


****


「この倉庫とかいいんじゃない?」


 メアとカゲヌイはフードを深くかぶり闇夜にまぎれながら、遠くに見える小さな倉庫を観察する。

 扉の前には二人の見張りが立っていた。


「早く終わらせて帰って寝たいんだが」


 カゲヌイが大あくびをしながらそんなことを言う。


「よし、じゃあさっそく行こう」


 メアはすかさず飛び出し見張り二人の前に出る。


「て、てめぇら何者——ぎゃぁぁあっ!?」


 メアとカゲヌイは瞬く間に倉庫の見張りたちをボコボコにして倒していく。


「お、こいつ鍵持ってたぞ。これで扉が開けれるな」


 カゲヌイが鍵を使い倉庫の扉を開ける。

 すると倉庫の中には倉庫の主がためたと思われるアクセサリーや金貨といったお宝がずらりと並んでいた。


「うわーたくさんあるね」

「これ全部持ってけないぞ」

「持てるだけ持っていけばいいよ」

「じゃあそこにある金の延べ棒を……」


 メアとカゲヌイは持っていた袋に詰めれるだけ金の延べ棒を詰めた。


「ま、待て……それは、我が組織のっ——ぎゃばっ!」


 何か言おうとしていた倉庫の見張りの背中を踏み越えながらメアとカゲヌイはその場から退散する。


「これどうするんだ?」

「悪い人たちに売りに行く」


****


 その後。

 町の倉庫から金の延べ棒を盗み出したメアとカゲヌイは、路地裏で黒づくめの男たちと延べ棒と金銭の取引を行っていた。


「ふむ、これは確かにいいものだ」


 黒ずくめの男たちのリーダーらしき人物が金の延べ棒を確かめてそう呟く。


「メアお前……なんでこんな奴らのこと知ってるんだ?」

「スルトがそのうち取引に使いたいって言ってた人たちだったから」


 カゲヌイがこっそり耳打ちして聞いてくるのをメアはそう答えた。


「いいだろう、交渉成立だ。持っていけ」

「どうも」


 メアとカゲヌイは渡されたお金を袋にしまい込んだ。

 そしてすぐにその場を後にした。


 そしてその場に残った黒ずくめ男は不敵に笑い始めた。


「くっくっく、騙されやがって素人が。

 これだけの金塊があんな値段なわけないだろうが」

「素人で助かりましたね、アニキ」

「あぁ、明るくならねぇうちにさっさと持って帰るぞ」


****


 組織の本部の建物まで戻った黒づくめの男たちは、組織のボスの前で金の延べ棒を並べ取引の結果を報告していた。


「ボス、見てくだせぇ、これだけの金塊を取ってきました」

「よくやった。くくく、これだけあればこの町を裏から動かせるようになる。権力も女も思うがままだ」


 ボスが不敵に笑っていると部下の一人が金塊を落としてしまう。


「おい!気をつけろ!価値が下がるだろうが」

「す、すいやせん!!」

「ったく……」

「あ、あのボス……?」

「ん?どうした」

「金の延べ棒がぶつけた衝撃でなんか光を発してるんですが……」

「は?何言ってんだ。金の延べ棒が光るわけ——」


 黒づくめの組織のボスは金の延べ棒を改めてよく確認する。


「ってこいつぁ!?金の延べ棒に酷似してるが、国が制作を禁じている特製爆薬ゴルドニトロじゃねぇか!?」

「なんでそんなものが——」

「は、早く逃げろ!!さもねぇと——」


ボガァアアン!!


****


 次の日の朝。メアは満面の笑顔でスルトに自慢げにたくさんの金貨が入った袋を手渡した。


「スルトー、見てみて。お金たくさん取ってきたよ」

「……どこからこんな額を」

「盗んできた」

「そうか、よくやった。

 なんだ、てっきり何か悪いことでもして持ってきたかと思ったぞ」

「いや窃盗そのものが悪いことだろ」


 カゲヌイに突っ込みを入れられたが気にすることなく俺はメアから渡された金貨を受け取った。


 そういえば、宿屋の外がなにやら騒がしいような気がするな。

 何か事件でもあったのか?


 考えていると宿屋の娘のアンが扉を開けて中に入ってくる。


「あ、起きてたんだ。お兄ちゃんたちおはよー」

「外が騒がしいようだが何か知ってるか?」

「なんかねー、この町の裏で動いていた悪い組織の基地が突然爆発して壊滅したんだって。

 それに、町のとある倉庫で国が持っちゃダメって禁じてる爆弾をこっそり保管してた貴族がいたってそこでも騒ぎになってるみたい」

「な、なんだと!?」


 その裏で動いている悪い組織とは、俺がこっそり取引して最終的には傘下にしてやろうと目論んでいた裏の組織じゃないか。

 

「その二つの問題を同時に解決した英雄は誰かって皆話してるみたいだよ」

「くそ、誰だ一体そんなことをした奴は……!」


 断じて許せん。許さんぞ。

 俺がこの手でしょっぴいて——


 そんなことを考えているとカゲヌイが左後ろでバツが悪そうな顔をして顔を指先でぽりぽりと搔いていた。


「あー…………」

「どうした、カゲヌイ」

「い、いやー、なんでもない、ぞ?」


 こいつ、何か知ってるのか?

 まさか、その犯人とは——


「カゲヌイ!お前さては——」

「えっ!?い、言っておくけど私は仕方なくついて行っただけで何も——」

「犯人がどこにいるか知ってるな!?今すぐ案内しろ!!」

「……え?」


 カゲヌイがぽかんとした顔をしている。


「そうと決まれば急がねば。メア、お前も行くぞ!」

「あ、うん」


 俺はマントを羽織りレーヴァテインを後ろにしまい準備を整える。

 ——その時、レーヴァテインが怪しげに赤く光り輝いたことに俺は気づかなかった。


「なぁスルト、お前の持ってる剣、今赤く光らなかったか?」

「気のせいだろう。今はそんなことよりもそんなことをしでかした奴を見つけ出して小突いてやらんと気が済まん。行くぞ!」

「行こ―」

「お、おー……」


 俺は二人を引き連れ犯人捜しの冒険に出発したのだった。


 ちなみにだがカゲヌイにあれこれと聞こうとしたが一向に口を割ることはなかった。

 そのおかげで犯人を捕まえることはできなかった。


 まぁ俺の小計画はダメになったが金が少し増えたので許してやるとしよう。

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