62話 戦いの終わり、新たな旅路
「……終わったのね」
俺が聖女リカラにとどめを刺したのを確認すると、リリーシュが駆け寄ってくる。
そして視線を俺の後ろに向ける。
俺の後ろには竜人、ブラックドラゴン、アークデーモンといった高ランクの魔物の軍勢がずらりと並んでいた。
「この魔物たちは?」
「聖女リカラが自身の持つ封印空間とやらに閉じ込めていたらしい」
「どうするつもりなの?」
「当然、我が配下に加えるに決まっているだろう」
思いがけない収穫だ。
まさかこんなところで新たな配下を得ることができるとは思わなかった。
これだけいれば町の一つや二つ簡単に滅ぼせる。
「リリーシュ様!!」
すると獣人、ゴブリン、オーガといった魔物たちの集団が近寄ってくる。
「こいつらはなんだ?」
「私の配下。といっても半分くらいだけど」
森の方にいたウルグ以外の配下たちも動員したというわけか。
「お前に任せた仕事はどうなっている?」
「言われた通りこなしてたわ。
町に残している私の配下の魔物たちに任せてる」
くっくっく、リリーシュは無事に町人を殺すという仕事を達成してくれたようだな。
リリーシュの解答に満足した俺は魔物たちの前に立ちふさがった。
「何をするつもり?」
「決まっているだろう。
この世に新たな魔王が生まれ落ちたことを分からせるのだ」
俺は魔剣を勢いよく地面に突き刺し、魔物全体を威圧した。
『聞け!!魔物どもよ!!』
そして大声で魔物たちに演説をし始める。
『貴様らを迫害し森の隅へと追い込んだ冒険者共、そして貴様らを真っ白な何もない空間に閉じ込めた聖女リカラは死んだ!
この新たなる魔王の俺様の手にかかってな!!』
リリーシュの配下である魔物たち、そして聖女リカラの封印空間から解放した魔物たちが俺の演説を聞き、水を打ったように静まり返っている。
『今宵を持って貴様らは我が新生魔王軍の配下となる!!
俺様は先代魔王が成し遂げられなかったことを成す者だ。
だが、俺を先代魔王と同じだと思わんことだ』
先代魔王が成し遂げられなかったことを為す。
その言葉を聞き俺の崇高なる野望を理解したのか、魔物たちがざわめきだす。
『俺様は新たなる魔王として、この世界を掌握し、全てをこの手中に収める!!
貴様らにはそれに付き従う栄誉をくれてやろう!!』
『『『ウォォォオオオオ————!!』』』
魔物たちが雄たけび声をあげる。
魔王軍結成の記念としては申し分ない演説だったな。
「これからどうするの?」
リリーシュが尋ねてくる。
「冒険者ギルドにむかう。
そこで今後の方針を伝える」
「分かった」
まずは町に戻るとするか。
色々と方針を伝えなきゃだし。
あ、待てよ。その前に聖女リカラが王都に運ぼうとしていた宝をあさっとかないとな。
****
町にたどり着き、開きっぱなしになった門をくぐり町の中の道を進んでいく。後ろには大勢の魔物たちがぞろぞろと続いて歩いてくる。
その様子を見た町人たちが新たな魔王の誕生の事実に震えあがっているようだった。
「おい見ろ、あの人間……魔物たちを従えているぞ!?」
「ということは、この町を破壊するつもりじゃ……」
「待てよ、そのつもりしたらどうしてさっき魔物たちが俺たちを助けてくれたんだよ?」
「あいつ、見たことがあるぞ!?確か悪い冒険者をことごとく懲らしめていた正義の冒険者……」
周りの町人たちは恐れおののいているようだな。
くっくっく、この後この町の住人たちは魔物に囲まれいつ死ぬか分からない恐怖に怯えながら生活することになるだろう。
——待てよ、思ったよりも町人に生き残りが多いような気がするな。おかしいな?
リリーシュが皆殺しにしてくれたかと思ってたんだが。
まぁ、ただ単に町人の母数が多かっただけだろう。多分。
あ、そうか。皆殺しにしたら強制労働させて金稼ぎとかできないし、そういうところも気を使ってある程度生き残りを残してくれてたんだな。きっとそうに違いない。
「聞いたことがあるぞ、稀に魔物を操ることができるスキルを持つ人間がいるって」
「まさか、その力を使って町を襲った冒険者たちを倒してくれたのか?」
「ということは、あの先頭にいる人間こそがこの町の英雄ってことなのか!?」
町人が何か話していたが、よく聞こえなかったので気にしないことにして俺は町を通り抜け、冒険者ギルドの中へ行き、執務室の扉を開けて中へと入ると椅子にどかりと座り込む。
リリーシュは町に配備した魔物たちに命令を下すために用があるとかで来ていないようだ。
メアとカゲヌイは俺の両側に立つ。
「ここを拠点にするのか?」
応接室の椅子の左側に立ったカゲヌイが聞いてくる。
俺が散々「俺の左腕なら常に左側に立て」と言い続けたら面倒くさがりながらも自動的に左側に立つようになった。
これも俺の魔王教育の賜物だな。
「何を言っている。こんなところを俺様の根城にするわけがないだろう」
「じゃあどうするの?」
メアが来客用のソファで寝っ転がってくつろぎながら聞いてくる。
俺の右腕なら右側に立たんかい。
カゲヌイでさえようやくやるようになったというのに。
「冒険者ギルドの乗っ取りは完了した。
町は占領し、冒険者共も殺し、聖女リカラさえも殺した。
そして何より、魔王軍を得た。
次にやることといえば……ここまで言えばもう分かるな?」
「分かんない」
「分かるわけないだろ」
こいつら……
未だに俺の魔王趣向を理解できていないというのか。
魔王軍を組織したのならば次はその魔王軍が住む場所というものがいるということに気が付いてほしいものなんだがな。
仕方ない、教えてやるとするか。
俺は椅子に座ったまま足を組み、手のひらを上に向け、これ見よがしにかっこよく右手を掲げ、宣言した。
「次なる目的は、魔王城を手に入れる」
「「魔王城??」」
メアとカゲヌイは何も分からないという顔で首をかしげていた。
メアはまだしもかつて先代魔王に仕えていたというカゲヌイが知らないということは、まさか先代魔王は魔王城すら持っていなかったとでも言うのか!?
そんなことありえん、それは果たして魔王と言えるのか!?
仕方ないな、この俺が魔王城の素晴らしさを教え込まねば。
「隣の国に建設中の城があるらしい。
その城を手に入れ、我が根城とし、そこを拠点に世界を破滅に導くのだ」
「また旅に出るんだね。楽しそう」
「また旅に出るのか……もう少しくらい休んでいってもいいだろ」
この町を出て新たな場所に向かうことに肯定的なメアと否定的なカゲヌイ。
昔から思ってたが二人は性格的にも考え方的にも対照的だな。
旅立ちの準備をすべく動こうとした時、扉をノックする音が聞こえてくる。
「入るわよ」
扉を開けて入ってきたのはリリーシュだった。
「今後の方針について教えを乞いにきたわ。
それと、紹介したい相手がいる」
「なんだと?」
「と言っても貴方のよく知ってる相手みたいだけど。
入って」
リリーシュが扉の方向に向けてそう言うと、青髪で長い髪で、軽装の上に白いマントを羽織った少女が現れた。
あれは、もしかしてエイルか?
「この子に途中で助けてもらってね。
話を聞いてみたら貴方の知り合いだっていうから連れてきたの」
「その、久しぶり、ね?」
エイルはどことなく恥ずかしそうにそう声をかけてくる。
ちなみに念のため解説しておくと、エイルは前回魔法学園で俺が助けるふりをして、魔導書を奪いとるために利用した相手だ。
とはいっても俺が利用したことに気づいてるかどうかは知らないが。
ここにいるということは、俺のことを追いかけてきたということになる。
その理由は必然的に二つ考えられる。
一つは、俺に利用されたことに気が付き復讐のために追ってきた。
二つは、俺の悪の道に魅了され俺に従うべくついてきたことだ。
「なんのためにここまで来た?」
俺は魔王らしく椅子に座りながら足を組み、頬杖をつくポーズをする。
「私は、貴方に従い、共に地獄の道を歩むためにここまできた」
エイルは表情は少し先の恐怖に怯えた顔をしつつも、覚悟を決めた目をしてそう話す。
俺は机に両肘を立て、両手を組み、その両手に顔を近づけ意味深な表情をする。
(いわゆるゲン●ウポーズというやつだ)
「つまり、貴様らは俺の軍門に下る覚悟を決めたということでいいんだな?」
俺はその意味深な表情のまま二人に問いかける。
リリーシュはそもそも戦うことに躊躇していたようだしな。
この再確認は何よりも重要なことだ。
解答を待っていると、まず先にリリーシュが口を開いた。
「貴方のおかげでウルグを取り返すことができた。
なによりも、先代魔王が達成できなかったことを成し遂げる力が貴方にはあるということが分かった。
だから私は、この命を貴方に捧げる覚悟よ」
ウルグを取り返す?なに、あいつ攫われてたの?いつの間に?
俺そんなん知らんのだけど。
適当に暴れてた時になんかしてたのかな。分からん。
まぁいいや。勝手に恩を感じてるのならそれはそれでいいか。
とにかく、Sランクの実力を持つリリーシュを四天王にできたのはかなり大きい。
「エイル、貴様はどうだ」
「その、私も同じ。
私は貴方の力になりたい。
貴方と共に戦う覚悟を既に決めてるから」
エイルは胸に手を当て、そう発言した。
その瞳には明確な覚悟が宿っていた。
まさかエイルがここまで覚悟を決めていたとはな。
悪くない、悪くないぞ。
実力で言えばリリーシュには劣るが、伸びしろという意味ではリリーシュより上かもしれないからな。
「なら貴様はこの冒険者ギルドを新たに作り直す命を与える」
「え、えぇ!?そんな大役を私が……?で、できるかな……」
さっきまでの覚悟の表情はどこへやら、エイルは慌て始める。
おいおい、そんなんじゃ魔王の配下など勤まらんぞ。
「そこで貴様は英雄ヒロに反意を抱く人間たちを集めろ。
そこで人間の軍を築くのだ」
「わ、分かった……やってみる」
動揺しつつもエイルは覚悟を決めたようだった。
続いてリリーシュが話し始める。
「それで、どうするの?
いくら必要なことだったとはいえ、聖女リカラを手にかけたのはね。
すぐにでも王都の軍が攻めてくるに違いないわ。
それをどうするか……」
「心配はいらん。そのための魔王軍だ」
リカラを倒した時についでに味方にした魔物たち。
あれを使えばいい。
「封印空間から出てきたデーモンを始めとする魔物たちの指揮は一時的にリリーシュ、貴様に一任する。
奴らに防衛を任せればしばらくの間ここを攻め落とされることはないだろう。
王都から攻め込んでくる軍がいたら全て蹴散らせ」
「分かったわ。貴方はどうするの?」
リリーシュが今度は俺自身の方針について尋ねてくる。
「北西に行く。そこにある城を手に入れる」
「何のために?」
「いずれ分かる」
俺は意味深な表情を崩さずにそう語った。
「そちらで目的が達成したらそちらに連絡を送る」
「分かった。貴方を信じるわ」
俺はゆっくりと椅子から立ち上がる。
話はまだい終わりではない。
まだ最後に伝えていない一番重要なことがある。
「最後に、最も重要なことを伝えよう。
貴様ら二人に、四天王の称号を与える」
「「してんのう??」」
前にメアとカゲヌイに四天王について話した時と全く同じように、リリーシュとエイルは首をかしげている。
仕方ない、もう一度説明するしかないか。
「四天王、仏教における四つの守護神のことだ。 そこから転じて配下の中で最も優れている四人のことを差す。
これから魔王軍を組織するにあたり実力、策略と兼ね備えた優秀な貴様たちにその称号を与える」
「……そのなんとかいうのは分からないけど、とにかく私たち二人に魔王軍としての役職を与えるということね」
リリーシュが話の半分くらいは分からないといった顔をしている。
くそう、どうして四天王という役職が伝わらないんだ?
こんなにもかっこいいのに。
まぁ半分だけでも理解してくれただけよしとしよう。
これでひとまず四天王を二人確保か。
四天王というのだからあと二人は集めないとな。
次の旅でもしかしたら見つけられるかもしれない。
仕事と役職も与えたことだし、ひとまずこの二人のことは問題なさそうだろう。
リリーシュはこの町で圧制を敷き、町人からこれでもかと金を搾り取ってくれることだろう。
そして宝物庫から得た金、これでもう金に困ることはない。
(メアとカゲヌイが食べ過ぎなければという前提はあるが)
更に聖女リカラが王都まで運ぼうとしていた魔道具たち。
これもあとで試しておきたいところだな。
俺は立ち上がったまま執務室の扉へと向かう。
メアとカゲヌイも後ろをついてくる。
「待って、スルト」
エイルに呼び止められる。
「貴方なら既に知っていると思うけど、私は今やり方次第であらゆる魔法を作り出せる力がある」
え、なんなのそれ。知らんのだが。初めて知った。
でもここで知らないって雰囲気だすとあれだし知ってることにしておこう。
「何か作ってほしい魔法はない?
貴方の役に立ちたい」
作ってほしい魔法か。
うーん、それなら——
「大規模な転移魔方陣は作れるか?」
「転移魔方陣……作れはすると思う。
でもやったことがないし、何より空間転移魔法は不安定になりやすい魔法。距離を指定して座標を固定する作業に入念な準備を進める必要がありそうね。
だから、できたら数週間は時間が欲しい」
「いいだろう。それなら俺たちは一足先に目的地に行く」
「ど、どうやって?」
エイルが聞いてくる。
俺は聖女リカラの宝物庫から奪い取った魔方陣が描かれた一つの
「これは一度きり使い捨ての転移魔方陣だ。
行先は魔剣の国バルムンク。
安全性を考慮して、行けるのは最大三人までだな。
だから、俺たちが一足先に隣国に向かい、エイルの転移魔方陣が完成し次第ここにいる軍も呼び寄せる」
「その国で何をするつもりなの?」
「いずれ分かる」
賢い魔王というのは簡単に計画を教えないものなのだ。
まぁ正直に言うとさっきメアとカゲヌイに説明したばかりなので二回説明するのが面倒なだけなんだが。
「もう行くつもりなの?」
リリーシュが聞いてくる。
「あぁ、時間を無駄にはできん」
「そう。言うまでもないことだけど、気をつけてね」
「本当に言うまでもないことだ。魔王たるこの俺にそんな言葉はいらぬ」
俺は別れをすますとそのまま冒険者ギルドの裏口から出て、誰もいない路地裏まで移動する。
そして転移魔方陣の
すると
「よし行くぞ。俺様の魔王となる旅路も魔王城さえ得てしまえば終わりを迎える」
「楽しみだねー」
「はいはい……住むところなんでどこだって同じだろうに」
メアは楽しそうに、カゲヌイは不服そうに俺の後ろをついてくる。
こうして新たな旅路に向けて出発したのだった。
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