【最終章開幕】大虐殺の魔王を目指す俺が「装備者の望みを逆の形で叶える呪い」を持った魔剣を抜いた結果魔王どころか英雄になってしまう話

61話 全てを虚無に堕とす魔王の闇の剣

　——という経緯があって、俺は聖女リカラの発動した封印空間を破壊し、そこにいた魔物たちを脱出して現在にいたる。

　外に出ようとした瞬間目の前から強大なブレスが飛んできたから焦ったぞ。咄嗟にぶったぎったから大した問題じゃないが。

　周囲を見渡してみるが、どうやら大分戦況が悪くなっているようだな。

　しかしメアとカゲヌイが冒険者たちのほとんどは倒したようで倒すべき敵自体は少なくなっている。

　問題は聖女リカラと、あのでっかい青い竜だな。

「ありえない……！！あの封印空間からどうやって脱出を……どんなに強力な魔法を使ったところで出れるわけがないのに……！！」

　俺が封印空間から出たことでリカラが明らかに動揺している。

　おそらく今まで自分から出た奴などいなかったのだろう。

　俺は魔剣の力を開放したことで生やした二枚の赤黒い翼をはためかせながら宙からリカラを見下ろす。

「なん、だ……あの姿は……！？」

「人間じゃ、人間の姿じゃ……」

「まさか、本当に魔王……！？」

　生き残っていた冒険者たちがこの俺の魔王たる姿を見て戦慄している。

　レーヴァテインの力を引き出した甲斐があったというものだ。

　俺は翼を駆使し、リカラの目の前にゆっくりと降り立つ。

　翼とか初めて使ったけどなかなか悪くない。

　使い方に失敗して落っこちたりしなくて良かった。

　そんなことになったらダサすぎるしな。

「貴方は……、一体なんなんですか！？

　その姿、その力……！？答えなさい！！」

　聖女リカラが冷静さを保てなくなり俺に対してそう問いかけてくる。

「何度でも教えてやろう。

　よく聞け愚者どもよ。

　俺様はこの世に生まれ落ちた新たなる魔王、デスルトスである」

「妄言はやめなさい！！」

《火炎弾》

　俺の言葉を妄言と切り捨てたリカラは魔法を唱えると杖の先端から巨大な炎の弾を生成しこちらに飛ばす。

　俺はその炎の弾をレーヴァテインを軽く振り弾く。

　弾かれた炎の弾は地面にぶつかり爆散し消える。

「くっ……！！」

　俺は一歩一歩少しずつ歩いていき近づいていく。リカラは俺の威圧感に気圧されているのを感じる。

「封印空間さえも抜け出すような化け物……

　それなら——！」

　リカラの視線は俺の背後に向いていた。

　ふと後ろを向くと俺が封印空間に穴を開けたことで封印されていた魔物たちがまるでアリの巣をつついた時のように穴から這い出てくる。

　それを見たリカラは怪しい笑みを浮かべた。

「貴方は封印空間に封じられていた私の魔物たちまで開放してしまった。それが貴方の敗因です！！」

《我が名に従え》

　リカラは杖を構え他者を操る能力を発動する。

　——しかし、封印の空間から這い出てきた魔物たちはリカラの命令に一切従う様子はない。

「ど、どうした！？従いなさい！！」

　もう一度操ろうとするが、何度やっても結果は同じだった。

「この程度のことにも気づかぬとは愚かな。こいつらの主人は既に俺様だ」

「な、なんですって……！？そんな、ありえない……！

　まさか、貴方も魔物を操るスキルを……！」

　魔物を操るスキル。

　そういうスキルを持っている人間もごく稀にはいるらしい。

　だが、何度も言うようにスキルに頼り切るなど、刃物を持って自身が強いと思い込んだ子供と同じだ。

　刃物も状況次第でどんな戦い方もできるのと同じように、スキルもあくまで攻撃手段の一つにすぎない。

　刃物がなくとも人は殺せる。

　同じように、スキルがなくとも魔物を従えることはできるのだ。

「他者を操るのにスキルなどいらぬ。

　こやつらは我が魔王たる闇の力を目の当たりにし、真に従うべき相手が誰なのかを気づいたにすぎんのだ」

「なん、ですって……！」

「スキルなど武器の一つにすぎん。お前のスキルは弱い。なぜならそれを扱う者が赤子も同然だからだ」

「……弱い、ですって？私が……！？」

　俺の侮辱を聞いてリカラが怒りで打ち震えている。

　さて、俺はせっかく新しい魔物たちを配下に従えたことだし命令を出すとするか。

『我が僕どもよ。初仕事だ。奴に従う冒険者を襲え』

　俺に隷属した魔物たちは俺の命令に従い生き残った冒険者たちを襲い始める。

「ぎゃあぁぁあ！？」

「た、助け——」

　有無を言わさず魔物たちは冒険者たちに襲い掛かっていく。

　愉快、痛快。この俺に逆らった愚かな者共に容赦せず殺戮していく。これぞ魔王というものだ。

「く、そぉ！！」

　ブラックドラゴンやアークデーモンといった上位種の魔物たちが聖女リカラに襲い掛かる。

　英雄の一人といえども、流石に消耗した上でこれだけの数の上位種を相手取るのは簡単ではないだろう。

　配下に働かせて自分は高みの見物というのも魔王らしいが、怠けてばかりはいられないな。

　そう考えていると見知った顔が近づいてきた。

「スルト！」

　カゲヌイが左肩に血だらけのメアを背負いこちらに駆け寄ってくる。

　よくよく見るとカゲヌイ自身も右腕が黒焦げている。敵の攻撃にやられたのか。

　カゲヌイならあのへんな青い竜のことを知ってるかもしれないな。

「カゲヌイか。聞くが、あの竜はなんだ」

「リカラが召喚したんだ……あいつは、魔力を吸い取る力を持ってるみたいだ……」

　するとカゲヌイが限界を迎えたようでその場に崩れ落ちる。

「う、腕が……回復魔法を……」

「いいだろう」

　右腕を負傷していたカゲヌイとメアに回復魔法をかけてやる。

　致命傷というほどでもないし、俺の回復魔法ならすぐにでも動けるようになるだろう。

「全く、魔王の配下ともあろうものが情けないことこの上ないな」

「……っ、その言い方は、ないだろ……」

　珍しくカゲヌイが俺の嫌味に対して何も言い返してこない。

　それどころか凄まじく落ち込んでいる。

　——いや、待てよ？俺が戻るまでに怪我してまで必死に戦っていたわけだしここは素直に称賛するべきか？

　ここは——

「せいぜいそこから真の魔王たる俺様の活躍を眺めているがいい」

　こんな感じに言って手本をみせてやる、ってムーブが魔王的には良さそうだな。

　俺は背中に生えた翼を両側に真っすぐ広げ、地面を強く蹴り飛ばし跳躍すると同時に大きく羽ばたいた。

　まずはあの竜を先に片づけるとするか。

「あの姿……本当に魔王、みたい、だな……」

「……スルトは、自分がなるって言ったことは、成し遂げるよ」

　カゲヌイとメアは飛び立ったスルトに対してそんな感想を抱いたのだった。

＊＊＊＊

　俺は魔剣の翼を駆使し、魔竜の目の前まで移動する。

「グギャァァアア！！」

　魔竜は口に魔力を込め、そのままブレスをこちらに向けて乱射してくる。

　しかしあの程度の攻撃が俺に当たるはずもない。

　俺は翼を動かし華麗に避け続ける。

《ダークネスブレイズ》

　右手に闇の魔力を込め、闇の槍を形成し、それを魔竜に向けて発射する。

　闇の槍が魔竜の腹を貫く。

　しかし、すぐに傷が塞がっていき元通りになってしまう。

「再生した？なんだあいつは」

「スルト！」

　声のした方をみるとリリーシュがウルグに抱きかかえられていた。

　今の声はリリーシュか。

　俺はその場に降り立ちリリーシュに駆け寄る。

「こんなところで何をしている」

「攻撃をまともに食らってね……げほっ、なんとか回復魔法で回復したけど……」

「おい！魔竜の敵意はお前に向いてるんだぞ！今ここに来たら——」

　ウルグが俺に対して怒鳴ってくる。

　魔王に怒鳴るとはな。不敬な奴め。

　魔竜の方を振り返ると口に魔力を込め再びブレスを準備していた。

《常闇ノ円卓（とこやみのえんたく）》

　俺は左手を前に出し前方に円盤状の闇の盾を形成した。

　魔竜のブレスが俺に向けて放たれるがその闇の盾が全ての魔力を吸収してしまう。

　これは以前使った闇の盾の上位版だ。

　より広範囲の魔法を吸収できる。

「なっ——」

「この程度の攻撃も防げんのか？」

　圧倒的な実力の差を配下に見せつける。

　ふっ、これでこそ魔王。かっこいい。

　流石のウルグの俺の魔法に恐れおののいているようだ。

「やっぱり、貴方は、魔王、なのね……」

　リリーシュが俺の姿を見てそう呟いた。

「今更気づいたのか？

　まぁいい。それで、あいつはなんだ」

「あれは……魔竜マナルテア。

　周囲の魔力や生命力を吸収し自身の糧とする召喚竜。

　生命力を吸い取った結果、いくらでも再生する怪物と化した。

　心臓を貫こうが、腕を斬ろうが、首を落とそうが生えてくる。ずっと攻撃し続ければいつかは生命力も切れるだろうけど、元々が強すぎるせいでそんな削るのも一苦労。そんな状態

　正直、私でも勝てるかどうか……」

「そうか、その程度か」

　リリーシュから魔竜についての話を聞きだした後、俺は翼を広げ空に向けた羽ばたいた。

　ブレスが当たらないことに気が付いたのか、魔力で構成された魔弾が魔竜の周囲に展開され、こちらに向けて飛んでくる。

　翼でよけるが、魔団は追尾してこちらに当たるまでどこまでも追ってくる。

「チッ」

　仕方がないのでそれらを全てレーヴァテインを振り叩き落していく。

　よけ続けるばかりじゃ埒があかないな。

　色々攻撃を加えて試してみるか。

《ライトネスブレイズ》

　俺は左手に光の魔力を集めていきそれを凝縮し槍の形に変化させる。

　それを魔竜に向けて放つ。

　光の槍が魔竜の頭を貫く。

「ギィェェェアアアア！！」

　魔竜が叫ぶがその傷すらも再生している。

　なんだこいつ、不死身か？

　なかなか面倒だな。

「ひ、光魔法……！？」

「あいつ、本当になんなの……？魔王と名乗りながら、闇属性だけでなく光魔法も使えるなんて……」

　俺の戦闘を目の当たりにしていたウルグが下の方で驚愕していた。

　しかし、横で見ているリリーシュも同じ気持ちだった。

「行くわよ、ウルグ。リカラのところに」

「しかしまだお体が——」

「彼が魔物たちのために戦ってくれているのに、私がこんなところで寝ている場合じゃないでしょう」

「……仰せのままに」

　リリーシュはよろけながらもなんとか立ち上がり、ウルグと共にリカラの元へと向かった。

　一方俺はというと、永遠と魔竜に対して攻撃を続けていたがいくら傷をつけようと回復する。

　どうしたものか。

　時間もないし、こうなったら最初から最終奥義を使うとしよう。

　魔法学園を破壊するときに使った魔法の派生版を使うとするか。

「魔王の御業を見せてやろう」

　俺は翼を広げ空を飛んだまま、魔剣レーヴァテインを両手で持ち、前方に突き出すように掲げる。

　ここまで来たら、今の俺がどこまでレーヴァテインの力を引き出せるのか試してやる。

　俺は更なる無謀な実験をすべく、レーヴァテインに果てしなく膨大な魔力を込める。

　そして魔剣に秘められし更なる力を引き出した。

《レーヴァテイン　魔剣開放　40％》

　レーヴァテインの剣先を中心に赤黒い衝撃波が大空を駆け巡る。

　あまりに強力な衝撃波と圧に空が赤黒く染まり、まるで血の雨でも降るかのような景色に変わっていく。

　レーヴァテインから赤い稲妻のようなエネルギーが俺の腕に伝わり、俺でさえも油断をすれば意識を持っていかれるどころか体を乗っ取られそうなくらいのとんでもない力、いや剣そのものの意思を強く感じる。

　これでまだたったの40%とは。

　凄まじい魔剣だ。

　だが、俺はこの程度抑え込んでやる。

　なぜなら俺は魔王だからだ。

　魔剣に支配されて何が魔王か。

　力を掌握せず何が魔王か。

　俺はレーヴァテインを握る両腕に力を込め続け、レーヴァテインから伝わってくる力を抑え込み続ける。

　力を引き出し終わったことを確認すると、俺は更なる付与魔法を付与すべく魔法を発動した。

《右手に光を　左手に闇を》

　そして右手に白金に輝く光の魔力を纏わせ、右手に暗黒に染まる魔力を纏わせる。

　そして暗黒の魔力と光輝なる魔力を少しずつ剣に纏わせていく。

　やがて剣の右半分が光、左半分が闇に包まれる。

　これは非常に微細な魔力操作を要求される技術だ。

　少しでも間違えばたちまち光と闇の魔力が拒絶反応を起こし、ここら一帯が消し飛んでしまうだろう。だが、俺ならそれができる。

「行くぞ」

　俺は前方に突き出していた剣をゆっくりと真上に構える。

　そして、魔剣から引き出した力と、光と闇の魔力を全て込め、究極の業（わざ）を発動させた。

《虚無の審判（アンノウン・ジャッジメント）》

　レーヴァテインの剣先から光り輝く光波と暗黒に輝く闇波が同時に放たれる。

　その二つの魔力の波は魔竜に当たる直前で一つになる。

　やがて光の魔力と闇の魔力が拒絶反応を起こし、大規模な消失現象が発生し、巨大な魔竜の体は瞬く間に破壊されていく。

「ギャアアゥウウウ……！！」

　体の大部分を消失した魔竜はそのまま体を維持することができなくなり、消失していく。

　まるで光と闇、そして赤の虚無に飲まれそして地獄に堕ちていくかのごとき恐ろしき現象。

　その光景を見た聖女リカラは現実か夢かの判断さえつかなかった。

「なんなんですか、あの技……魔竜を消失させる魔法！？

　ま、まさか……魔法学園でブラッディアを倒した謎の存在は……！？」

　リカラが俺の魔王たる御業を目の当たりにして恐れている。

　俺は翼を使い地面に着地し、リカラの方を向いた。

「さて、残るは一人だけだな」

「ひっ——」

　俺は魔剣同化を解除し翼に回していた魔剣をレーヴァテイン本体に戻す。

　それによりレーヴァテインが本来の長さを取り戻す。

　レーヴァテインを構えたまま俺はリカラに向かって歩いていく。

「ま、待ちなさい！私を殺せば、どうなるかわかってるんですか！？

　私は聖女リカラ、あの英雄ヒロ様と共に、魔王を倒した英雄の一人で、私を殺せばこの国の全てを敵に回すことになんですよ！？」

　この期に及んで命乞いでもしようというのか。

　というかそもそも、こいつは俺が何者か、何をしようとしているのか未だに分かっていないようだ。

「どうやら貴様は理解が及んでいないらしい」

「——え？」

「俺様は、それをするために貴様を殺すのだ」

　リカラはその言葉を聞き呆けたような顔をして絶望と共にその場にへたり込んだ。

「英雄と敵対して、世界を敵に回すことが、な、なんで——」

「何度も言わせるな。俺様は、この世に生まれ落ちた真の魔王、デスルトス様だ」

　俺はその言葉と共に、レーヴァテインをリカラの心臓に突き刺した。

「がっ——」

　リカラは心臓から血を流し倒れて動かなくなった。

　聖女と呼ばれながら、英雄ヒロに妄信し、己の全てを捧げるべく他の全てを犠牲にしてまで尽くした女性の哀れな末路だった。