60話 魔剣に秘められし新たな力
<スルト視点>
時間は少しさかのぼって、俺が聖女リカラの展開した封印空間に閉じ込められてすぐのこと。
「……なんだここは」
あたりを見渡してみるが真っ白な空間がどこまでも広がっていた。
俺としたことが封印されるとはな。
しかし、封印されるということはそれすなわち、倒すことが不可能な相手をそうするわけだから、俺は魔王並みの実力を持つ人間と認められたということになるんじゃないだろうか?
まぁそれも当然か。あそこまでの圧倒的な力を見せてやれば倒せるなんて思えないだろう。
って、悦に浸っている場合じゃない。さっさと脱出しないとな。
しかし、よくよく見渡してみるとあちこちに魔物がいる。
それもおびただしい数。何十、何百という数えきれない量の魔物が存在した。
通常のゴブリンよりも一回り体格の大きなホブゴブリン。
通常のオーガと違い、真っ黒な色が特徴のダークオーガ。
前足と翼が一体になったワイバーン型の真っ黒なブラックドラゴン。
全身が緑色の鱗に覆われ、背中に翼を生やした二足歩行のトカゲのような姿をした竜人。
真っ黒な全身にヤギのようなとんがった角にコウモリのような翼をもったデーモン。
ってあれは、悪魔種の中でも上位のアークデーモンまでいるじゃないか。
聖女の奴め、あらゆる魔物たちをこの空間に閉じ込めていたのか。
魔物たちは俺という新たな魔物空間への侵入者に気づき、こちらに目を向ける。
どうやらこいつらはずっとここで閉じ込められているようだな。
共食いだったり、封印された人間を糧にしてなんとか生き延びてきたのだろう。
よくよく見ると、そこかしこにこの空間に強制的に閉じ込められた人間たちの哀れな末路ともいえる残骸の血肉の痕が残っていた。
「ガァァアアア!!」
俺の姿を見ると同時に魔物たちは襲い掛かってくる。
魔王に対して刃を向けた者など死罪一択、と言いたいところだが俺はこの町に来た目的を忘れたわけじゃない。
こいつらが俺の配下となればこれ以上ない戦力となる。
攻撃躱したり、向かってきたのを蹴り飛ばしたりして無力化していく。
できる限り殺さないようにしなくては。
しばらくの間戦闘を続けていると、やがて戦力の差に気づいたのか、俺に対して襲うのをためらいその場に立ち尽くす魔物たちが出始める。
このあたりが潮時だな。
俺はレーヴァテインを両腕で力強く地面につき刺した。
それと同時にレーヴァテインに魔力を込め、魔剣に秘められし
《魔剣の衝撃》
レーヴァテインの剣先を中心に赤黒い衝撃波が放たれ、封印空間中を駆け巡った。
魔物たちはその闇の力に動揺し、恐れをなしている。
よし、うまくいったな。
広範囲に飛ばしてこの空間にいる全ての魔物がこの衝撃を食らったことだろう。
本来は相手の強化状態を強制解除する魔法なんだが、こうやって威圧にも使えるというわけだ。
『聞け!!全ての魔物共よ!!』
俺はこの空間にいる全ての魔物に聞こえるような大きな声で、魔物の言葉を放った。
『俺様はこの世に生まれ落ちた新たな魔王である』
魔王という単語を聞き、魔物たちは更なる動揺を浮かべる。
『貴様らはずっとこの空間に閉じ込められていたのだろう。
俺様の配下になり手足となることを誓えば、この空間から出してやる。
貴様らが払う代償はただ一つ。
魔王たるこの俺様への完全な服従だ』
俺の演説に対してゴブリンのような知能の少ない魔物ですら俺の言葉に静まり返っている。
《暗黒付与》
そしてこれ見よがしにレーヴァテインに闇の魔力を付与し、再び魔物たちを闇の力で威圧する。
しばらくの間、魔物たちの中で沈黙が広がる。
——魔物たちは、この俺の姿と先代の魔王の姿を重ねたようだ。
やがて自らの命運と、新たなる魔王の誕生を理解したであろう全ての魔物たちが俺に跪いた。
『いいだろう』
魔物たちの解答に満足した俺は静かな笑みを浮かべた。
さて、どうするか。
ここから出してやると啖呵を切ったはいいが正直なところ出る方法なんて正直分からん。
なんかとにかく強大な魔法とか発動させたら都合よく穴空いたりしないかな。
仮にそうだとすれば、我が相棒であるレーヴァテインの力を引き出すほかない。
レーヴァテインには俺自身も把握できないほどの強力な力が秘められている。
一度に力を引き出しすぎるとそのあと反動が来ることもある。
今の俺にどれだけの力を引き出せるのか試すのも悪くない。
俺は実験すべく、レーヴァテインに膨大な魔力を込める。
そして魔剣に秘められし力を引き出した。
《レーヴァテイン 魔剣開放 30%》
レーヴァテインの剣先を中心に赤黒い衝撃波が封印空間全体に広がっていく。
あまりに強力な衝撃波に周りにいる高ランクの魔物でさえも気圧されている。
衝撃波で吹き飛ばないように必死に地面に縋り付いて耐えている魔物さえもいる。
ビキッ
その衝撃波だけでも封印空間にほんの少し亀裂が入る。
力を引き出すだけで封印空間にヒビを入れるとは。
レーヴァテインの力は計り知れないな。
レーヴァテインから赤い稲妻のようなエネルギーが俺の腕に伝わり、俺でさえも油断をすれば意識を持っていかれそうなほどの力を感じる。
俺はレーヴァテインを握る両腕に力を込め続け、レーヴァテインから伝わってくる力を受け入れ続ける。
その最中、頭の中に一つのイメージが浮かぶ。
——赤黒い巨大な竜。
その姿の片鱗だった。
まるで逆光から見ているかのような状態ではっきりとその姿を見ることはできなかったが、確かにそれは巨大な竜だった。
刺々しい前脚と後ろ脚が合わせて四本、翼は背中から四つも生え、後ろには百足のごとく刺々しく長細い巨大な尻尾が生えている。
背中には無数の真っ黒な角が生え、頭部は竜らしいとがった頭部に全てを食らいつくすような大きな口。
そしてその頭の上には天を貫くような大角が二本生えている。
まさに異形と呼ぶ他ないおぞましい見た目の竜。
いや、竜といえるか、生物と言えるのかすら怪しい。
竜の失敗作、そう表現すべき存在。
これは——魔剣の中にある力の源のイメージか?
この赤黒い異形の竜が剣に封じられていて、俺はその力を引き出しているというのか?
やがて魔剣の力を引き出し終わったことを感じ取る。
「……ん?なんだこれ」
レーヴァテインの力を引き出したことで、俺の背中にワイバーンのごとき赤黒い翼が顕現した。
これは、さっきイメージで見た竜が背中に生やしていた翼と同じものか?
なるほどな、これもレーヴァテインの力の一部か。
レーヴァテインの使用者というのなら、このくらい使いこなしてみろと。
この俺にそういうつもりなのか。
この翼は俺の意思で自在に動くようだ。
少し翼を羽ばたかせただけで周囲に魔力の衝撃波が伝わり周りにいる魔物が軽く吹き飛ばされる。
更には、たった数回羽ばたかせただけなのに俺の体はゆっくりを宙に浮かんでいた。
すなわち、この翼を顕現させることで俺は自在に空を飛べるということになる。
なるほどな、さしずめ、魔王第二形態といったところだろう。
そうと決まれば、さっさとこの空間を出るしかないな。
俺は宙に浮かんだまま、レーヴァテインを両手で握り、後ろに構え力を籠める。
ここは純粋に魔剣の力だけでこの空間に穴を開けてやる。
魔剣の力だけでどこまでできるか試すのにもちょうどいいしな。
レーヴァテインは俺の意思に答えるように魔力を放出し始める。
俺はその魔力の放出がピークに達すると同時に剣技を放った。
技名は……どうしよう。魔王計画書、第42Pの19行目に記してあるこの名で行くか。
《紅黒の
バキィイン!!
振りかぶったレーヴァテインを構えた状態から斜めに振り下ろし、真っ白い封印空間に黒い大きな亀裂が入る。
やがてその亀裂はどんどん広がっていく。
これで外に出られるだろう。
『さぁ、この魔王たる俺様が貴様らに自由をくれてやろう』
俺が魔物たちにそう宣言すると、魔物たちは歓喜の声の雄たけびを上げる。
さて、さっさと外に出て終わらせるとするか。
新たに得た軍と、このレーヴァテインから引き出した新たな力で英雄の一人である聖女リカラとの決着をつけてやる。
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