47話 復讐者を無惨に屠るのも魔王の宿命というもの

〈スルト視点〉


 リリーシュに俺の魔王たる素質を認めさせるべく、Aランク冒険者パーティを皆殺しにするという目標を達成し、俺は意気揚々と帰路についていた。


「スルト、嬉しそうだね」


 右後ろにいるメアが俺の表情を見てそう聞いてくる。


「ふっ、分かるか。流石俺の右腕」

「歩きながらそんな変な顔してて恥ずかしくないのか?」


 カゲヌイが俺の右側で歩きながらぼやく。


「ふっふっふ、カゲヌイ、お前はまだ俺の魔王趣向を理解できていな——」


 それを言いかけ、俺はある事実に気づく。


 待てよ、カゲヌイは、俺のを歩いているだと?

 右側を見てメアとカゲヌイの立ち位置を改めて確認する。

カゲヌイはメアの更に右側に立っている。

 俺の左側ではなく、俺の右側を!?

 これは、魔王趣向的に許されん!!


「お前!お前は俺の左腕なんだから右側に立つんじゃない!左側に立ってろ!」


 俺はたまらずカゲヌイを一喝し注意する。


「前々から思ってたんだが、その拘りは必要なのか?」


 カゲヌイが手を腰に当てて呆れながらそんなことを言ってくる。

 そんなことをも理解できんとは。


「当然だろう!

お前は自分についている左腕がよく見たら右腕だったら違和感に絶望するだろう?」

「別に立ち位置なんてどっちでも——」


 とうとうカゲヌイは禁忌たる言葉、「どっちでもいい」を言いかける。

 俺は慌てて言葉を遮る。


「分かってない!!分かってないな!カゲヌイ!お前は!」

「な、なんだよ……」


 俺の声量にカゲヌイは少し引いている。


「仕方ない、今晩みっちりと俺が魔王趣向について教えを説く必要がありそうだ」


 俺は収納魔法から魔王計画書を取り出す。

 確か第45ページに配下に対して魔王趣向を教えを説くための内容を書いていたはず——


「スルトはこうなったら長いから。今晩はずっと魔王についての話が終わらないと思った方がいいかも」 

「えぇ……メア、お前はよく話に付き合えるな……」


 俺が魔王計画書をめくっているとメアとカゲヌイが話し始める。


「だって、魔王について話してる時のスルト、楽しそうだし」

「お前も楽しそうだよな……時々お前のことが羨ましくなるよ……」

「カゲちゃんも楽しめばいいのに」

「その呼び方はやめてくれ。あの話を永遠と聞かされるのを楽しくなるのは難しそうだ……」


 カゲヌイがうんざりしたような顔をする。


「……ん?」


 突然カゲヌイの目つきが鋭くなり、後ろを振り向く。


「どうし——」


 メアが言いかけるが、一呼吸遅れてカゲヌイと同じく周りの気配に気が付く。


「……囲まれてるね」


 メアが周りからの気配を感じ取る。


「数は12といったところか」


 カゲヌイが鼻を嗅ぎ周囲の人間の数を把握する。

 やがて建物の影から武器を持った人間たちが現れる。


「何の用だよ。私たちは忙しいんだ」

「スルトに危害を加えようっていうのなら、許さない」


 カゲヌイとメアが周りを警戒しながら目的を聞く。


 道の向こう側には5人、後ろ側には7人と、塞がれている。

 どれもこれも配下として勧誘して、その後ボコボコにした奴らだった。


「てめぇら……よくもさんざんコケにしてくれたな……!!」


 先頭に立っている男が斧を構えこちらに殺意を向けながら怒りを露わにする。


「なんだ、逆恨みかよ」


 カゲヌイがやれやれといった顔をして肩をすくめる。


「それはこっちのセリフだ!!突然押しかけてきたと思ったら殴りとばしてきやがって!!」

「そうだそうだ!」

「ふざけんなよ!!」


 男が叫んだのに合わせて周りの人間が同調する。


「……正直に言うと、何も否定できないな」


 カゲヌイは自分たちの落ち度を自覚し、ばつが悪そうに頭をかく。


「おい、スルト、あいつらはどうするんだ——」


 カゲヌイが男たちの処遇を聞いてくるが俺は魔王計画書の中から魔王趣向の教えの内容を探すのに忙しくて全くそちらに目を向けていなかった。


「おい、おい?聞いてるか?あいつら今にも襲い掛かって——」


「死ねやぁあ!!」

「うぉおおお!!」


 違うページを開いてしまった。

 これは魔王技の候補のページだった。

 闇魔法を使った技リストが書いてある。

 これは確か––––


《闇の掌握》


 俺は左手を前に出す。

 そして手の平から暗黒の魔力の断片を飛ばし、男たちを包んでいく。

 やがてそれは男たちの体を覆っていき、念力のように動き男たちの移動を制限した。


「な、なんだこれ……動かねぇ……!?」

「何の魔法なんだ、これは……!?」


 開いた手のひらを力強く握ると、それに合わせ闇も中心に集まっていき、男たちを空中に集め圧縮する。


「ぎゃぁあ!?」

「ぐぁぁぁあ!?」


 まるでブラックホールのように一か所に集まっていき、鈍い音が響き渡る。


「お、おい……スルト……ベキバキとか怪しい音が聞こえるんだが……」


 カゲヌイが心配そうに言ってくる。

 そのまま近くにあったゴミ捨て場に全部捨てた。


 うーん、この闇魔法、悪く無いが改良が必要そうだ。


 手をかざしただけで相手を捻り潰す。念力系は最高にかっこいいと言えば良いんだが。

 事前に闇の魔力を飛ばしておく必要があるし、今のところ人間程度の軽いものしか持ち上げられない。

 実践に使うのであればもう少し改良が必要だな。


 って、俺は魔法の実験がしたかったんじゃなくて、カゲヌイに魔王趣向を教え込むための説法を探していたのに。どこだどこだ……?

 ちっ、すぐには見つからないか。


「あとにしよう。先飯食いに行くぞ」

「やったー」

「おい、あれは放置でいいのか?」


 カゲヌイがゴミ箱に方を指差すが、俺は魔王計画書に書かれている内容を探すのに忙しく、メアは完全に食堂で飯を食べることしか頭になく、意に介すことなく歩き続ける。


「……はぁ、生きてはいるみたいだな。

死ぬとしてもあんな死に方はごめんだな」


 カゲヌイはゴミ箱に捨てられた荒くれどもの様子を確認した後、食堂に向かう俺たちに遅れてついていった。


****


 目標を成し遂げた俺たちは食堂で食事をする。

 相変わらずメアとカゲヌイは飯を食ってばっかりいる。

 まぁ、魔王たる所業を達成した今はくらいは許してやるとしよう


 すると食堂のおばさんが大盛の肉料理を運んでくる。

 こんなの頼んだか?


「おい、こんなのは頼んでないぞ」

「いいのよ~サービスよ♡」


 そう言っておばさんはおぞましいウインクをかまして厨房に戻っていった。

 なんだあのおばさん。妙になれなれしいな。


 心なしかメアがおばさんのことを暗黒のオーラを放ちながら睨んでいるような。

 おばさんに嫉妬するなよ。


「まぁ魔王に対する貢物だというのなら受け取らないわけにもいかんな」


 おそらくメアとカゲヌイがこれでもかと料理を注文するものだから常連に対するサービスか何かだろう。

 せっかくの料理を食おうとしたらカゲヌイに皿を奪われる。


「あ、おい!それはこの俺への貢ぎ物だ。お前には渡さんぞ」

「早い者勝ちだ」

「魔王の食事を奪うなど許されん。不敬な行為を行ったものには断罪を——」


カゲヌイと言い合っているといつの間にかメアが肉料理をフォークで刺して美味しそうに頬張っていた。


「あ!メア!それ俺の!食べんなよ!」

「あ、ごめん。食べないのかと思って」


 そう言いながらもメアは食べることをやめようとせず右腕は一心不乱に肉を口元に運んでいた。

 もうすでに半分も残ってない。


「き、貴様ら……!今度という今度は……!」


 俺たちはもみくちゃに喧嘩を始めたのだった。



 その光景を食堂の主人が厨房で作業をしながら眺めていた。


「またやってるよ、あの三人。」

「いいじゃないの、常連でいつも大量に注文してくれるし少しくらい」


 食堂の厨房で夫婦が話している。


「それにしても珍しいな、冒険者なんかにサービスするなんて」


 食堂の厨房で主人がおばさんに話している。


「あの子たち、素行の悪い冒険者を再起不能になるまでボコボコにして懲らしめてくれるのよ!おかげでここ最近食堂で暴れる冒険者が来なくなって助かってるんだから」

「そうだったのか。怪しい雰囲気を醸し出してるからてっきり危ない人なのかと」

「人は見かけによらないってことよねぇ」


 食堂でのいざこざを終えて宿屋に戻る。


 なにはともあれ、リリーシュもこれで俺の実力を認め配下となるだろう。

 奴が配下となればこの町に来た最大の目的である、冒険者ギルドの乗っ取りはほぼ成功したも同然だろう。


 さて、Aランク冒険者パーティを皆殺しにするという悪事を成し遂げたことだし、翌日の冒険者どもの反応が楽しみだな。

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