43話 魔剣レーヴァテインVS魔鎌アダマス
配下二人の戦いに満足した俺はリリーシュと向かい合う。
凄まじい魔力を感じる。
素の魔力だけで言えば俺を上回るかもしれないな。
「さぁ、死んでもらえる?」
まず先にリリーシュがこちらに向けてとびかかってくる。
その体をレーヴァテインで斬るも、メアが攻撃した時のようにまたしても霧のように掻き消えてしまう。
「残念、ハズレ」
次の瞬間、リリーシュの体が二人、三人と分裂し、同時に襲い掛かってくる。
レーヴァテインで同時に斬るが全て霧となって消える。
「さぁて、本物はどれかしら?」
こいつ、完全にからかっているな。
それとも俺の戦闘能力を様子見しているのか。
どちらにせよ舐められたものだ。
おそらくこれがカゲヌイの言っていた幻惑の力だろう。
しかし、この程度の幻惑、見破ることは容易い。
俺は懐からナイフを取り出し構える。
「そんなナイフ一本で何が——」
俺はナイフを右後ろの方にある木に向けて投げつけた。
投げたナイフを木の幹に真っすぐ突き刺さる。
「……たったこれだけの時間で私がここにいることを見破るなんてね」
ナイフのすぐ隣の空間からリリーシュが出現する。
そう、本物はあそこに姿を隠していたのだ。
「いくら幻惑でごまかそうが、気配すら惑わせるわけではあるまい?」
「ふぅん、本当に只者じゃないみたいね。じゃあこれはどうかしら」
彼女が手を広げると、空中に無数の暗器が現れる。
そしてそれはこちらに刃先を向け、次々を飛んでくる。
しかし俺はそれをよけることも防ぐこともしない。
なぜなら——それらは全て幻であるからだ。
飛んできたナイフは俺の体を次々とすり抜けていく。
しかしさりげなく幻に混ざった本物の暗器があったのでそれはちゃんとレーヴァテインではじいた。
「どうして……どうして分かるの!?」
余裕たっぷりだったさっきまでの表情と打って変わって、余裕を失くし始めている。
幻惑が破られたのが相当大きかったのだろう。
「言っただろう。俺様は魔王だと」
「妄言を……!」
(まさか……本当に魔王だとでも言うの!?そんな、ありえない……!!)
リリーシュは指を鳴らすと、目の前に大鎌を出現させた。
あれが奴の武器か?怪しげな雰囲気を感じる。
リリーシュはそれを右手で握り構える。
「
あれも魔剣の一種か。尋常じゃない魔力を感じる。
リリーシュは大鎌を構えると距離を詰め俺の脳天めがけて力任せに上から降りおろす。
振り下ろされた大鎌をレーヴァテインで受け止める。
「幻惑しか使えないと思わないことね!」
何度もレーヴァテインと大鎌がぶつかり合い、金属音があたりに響き渡る。
お互い一歩も引かず、武器をぶつけ合う。
しばらく剣戟を続けていると、やがて痺れを切らしたのかリリーシュは左手から魔法を生成した。
《水竜》
相手の左手から水の塊が出現し、やがて水の竜の形となっていき、こちらに襲いかかってくる。
流石の魔法制御能力だ。
水を竜の形にする魔法か。
だが、偶然にもこちらにも似た魔法はある。
《炎竜》
俺は手の平から炎の竜を生成し、相手の水の竜にぶつけ相殺した。
魔法が相殺したことにより周囲に爆発の衝撃波が巻き起こる。
「戦いながらそれだけ複雑な魔法を使えるのね……!化け物かしら?」
「お互い様だ。お前もだろう」
奴もSランク魔物と呼ばれるだけあって、相当の手練れだ。
幻惑を使わずとも、前に戦った土魔法使いのミゲイリと同等かそれ以上の技量がある。
次にリリーシュは後ろに下がり距離を取る。
大鎌を構えると、目を閉じ魔力を込め始めた。
一体何をする気だ?
《魔鎌アダマス 能力開放》
そう唱えると、大鎌を中心に周囲に紫色の突風が吹き荒れる。
そして大鎌の刃が紫色に光り輝き始めた。
「私はね……負けるわけにはいかないのよ……!」
奴も本気を出したか。
なら、こちらも相応に答えねばなるまい。
俺はレーヴァテインを構え、魔力を込めた。
《レーヴァテイン 魔剣解放 10%》
あたりに赤黒い衝撃波が巻き起こり、森の木々を大きく揺らす。
心なしか森そのものが怯え、震えているような感覚がする。
リリーシュも気圧されそうになっているが、持ちこたえ、そのままこちらに突撃してくる。
「うがぁあぁあああ!!」
大鎌を再び振り下ろすがそれをレーヴァテインで受け止める。
さきほどとは比較にならない威力だ。
だがこちらもそれは同じ。
今度はこちらからレーヴァテインによる攻撃を繰り出すが、大鎌で受け止められる。
しかし衝撃波で後ろにある木が地面ごと吹き飛んでしまう。
武器がぶつかり合うたびにさきほどとは比較にならない衝撃波が巻き起こりまるで竜巻の中心がすぐそこにあるかのような惨状と化し、あたりの木はバラバラに吹き飛んでいく。
「り、リリーシュ様!!それ以上は……!」
メアとカゲヌイの相手をしていた耳狩りウルトでさえもその惨状に静止の声をかける。
「どうした?息が上がっているぞ?」
「どうして……どうして倒れないの……!」
「俺様がお前よりも強いからだろう」
「このっ……!馬鹿にしてるわね……!」
リリーシュは俺の挑発に簡単に乗ってしまう。
さっきまでの余裕な態度とは真逆で激情に支配されてしまっているな。
しかし、力を開放した状態のレーヴァテインと互角に渡り合うとは。
このリリーシュとかいう淫魔、それにあのアダマスという魔剣。
両者とも凄まじい実力だ。
ぜひとも配下に加えたいところだな
「これが……私の全力だとでも思ったの!?」
淫魔は大鎌を地面に置くと、服に手をかける。
なんだ、何をする気だ?
もしかして脱ぐ気か?
え、この状況で?なに、なんなの。
そう思って内心うろたえていると、あたりに赤白いオーラのようなものが立ち込める。
なんだこれは、よくよく見ると周囲の木々が枯れて行っている。
まさか、生命力を吸い取っている?
なるほど、そういうことか。
自身の肌を晒すことでその肌を通して周囲の生命力と魔力を吸い取る術か何かか。
《魅了 全開放——》
『なりません!リリーシュ様!!それを使っては!!』
耳狩りウルトが駆け寄り淫魔の肩を掴み抑え込んだ。
「くっ……!!」
止めねばならないほどの技とは。
なるほど、周囲を巻き込みかねない奥の手を発動しようとしたのか。
『……ごめんなさい、どうかしてたわ』
淫魔は膝から地面に崩れ落ちた。
「……降参よ。私の負けだわ」
淫魔リリーシュは自身の敗北を認めた。
勝てたのはいいが、全力を出させずに戦って勝ったことになるというのも魔王趣向的にはなんか違う気がすんだよなぁ。
本気の相手を打ち負かしてこそ配下にできるというものだが。
「一つだけ聞かせてほしい」
「なんだ?」
「そこまでして魔王になって、その上で貴方は何を成し遂げようっていうの?」
「俺は先代魔王が成し遂げられなかったことを成して見せる。俺ならそれができる」
「……本気なの?」
「当然だ」
先代の魔王のことは知らないが、人類を殺戮し世界を滅亡させるという目的を達成できなかったということはなんとなく分かる。
この俺が魔王となればそれが実現できる。
断る理由などないはずだ。
(一体どこで先代の魔王のことを知ったの?
いや、魔物の言葉が話せるのなら魔王のことを知っている魔物から聞いたのかもしれないわね)
「……貴方が何をしたがっているのかは分かった」
リリーシュはそう呟く。
どうやら俺の崇高なる野望が奴にも伝わったようだな。
「貴方の性格は先代魔王とは真逆ね。でも先代魔王と同じことをしようとしている」
先代魔王。
彼がどのように世界の破滅を望んだのかは少し興味がある。
そして何かが原因で失敗したのかもな。
「負けは認めるけど、私は貴方の配下になるつもりはない」
「ほう?」
負けたくせに配下にならないとは。
勝負の約束を反故にするつもりか?
——いや待て、「こっちが勝ったら配下になれ」とかいう約束をしてたわけじゃなかったか。
くそっ、俺としたことが。
「でも貴方の実力を認める。
私たちはまだ貴方を信用できない。だから、何か証拠を示してくれたら考えなくもないわ」
証拠か。俺がこいつらの主人、魔王の器足りえるかの証拠が欲しいということだろう。
そうなれば、俺が残虐非道であることを証明せねばならない。
やるべきことは一つだ。
「冒険者の首でも持ってくれば信用するか?」
「……冒険者?」
ピンと来ていないようだから確信をついてやろう。
「Aランク冒険者、そこの耳狩りが負けたそうだな。代わりに殺してきてやろう」
「き、貴様……!」
耳狩りウルグは侮辱されたと感じているようだ。
「……やれるの?」
「当然だ」
「……分かった。お願いするわ」
「リリーシュ様!?」
「くっくっく」
これで決まりだ。どのみち冒険者ギルドは乗っ取るのだ。
俺が冒険者ギルドを乗っ取った時、俺に従わないような邪魔な冒険者は皆殺しにする。
この世界におけるAランク冒険者というものがどれほどの実力か確かめるため、そして冒険者ギルドを乗っ取るためにも冒険者狩りは必要なことだ。
俺は血の入ったグラスを飲み干すと、乾杯のようにグラスを目の前に出した。
「この魔王たる俺に任せておくがいい」
めっちゃ鉄の味がする。まじぃ。
まぁただの血がうまいわけないよな。後でおなか壊さないよな。
心配になりながらも俺たちは迷いの森を後にした。
****
スルトたちが帰った後。
迷いの森の中にて。
淫魔リリーシュは森を出ていくスルトたちを眺めながら話し始める。
『はぁ……私としたことが……』
リリーシュは怒りに任せて暴走してしまったことを悔やんでいた。
『リリーシュ様があそこまでお怒りになられるとは珍しい』
『そりゃそうでしょう。私は魔王と実現するはずだった野望を諦めて、今は静かに暮らしたいのよ。
聖女を殺すなんて言われたら、平穏が崩されるに決まっているわ』
『しかし、奴の発言。果たして本気でしょうか』
リリーシュは水晶玉に映るスルトたちの姿を眺めながら水晶玉を撫でる。
『先代魔王が達成できなかったことは何か知ってるわよね』
『それは……』
『そう、魔物と人間の共存』
リリーシュは腕を組みながら椅子に深く座り込みながら物思いにふける。
『果たして、そんなことが実現できるのでしょうか』
『できるわけないじゃないの。私と先代魔王ですらできなかったことが』
ウルグの問いに対してリリーシュは嘲笑するように切り捨てる。
『でも彼が本気でそれをやろうとしてるのは伝わってくるわ。そうでなければ獣人を味方につけたり、魔物語を話せたりなんかしない』
『どうして奴は魔物の言葉を話せるのでしょうか?』
『これはあくまで推測に過ぎないけど、大昔に人間で魔物との共存を目指そうと魔物語を研究していた学者がいるって聞いたことがある。彼はその後継者か何かなんじゃないかしら』
リリーシュは机の上に置かれている冒険者たちの顔が描かれた紙の束を取り出して眺める。
『ウルグ、貴方に耳狩りとかいう不名誉な通り名がついてでも、冒険者を狩ることを命令したのはなんでか分かるわよね』
『ロキシス教団』
『そう。私は人間を無差別に殺したいわけじゃない。ロキシス教団の手の者か、それに関連した人間だけを始末した。あのAランク冒険者もそう』
リリーシュが視線を向けた先にはウルグが狩ってきた冒険者たちの冒険者カードが乱雑に積み上げられている。
『魔物を完全悪とし、魔物を殲滅するためならどんなことだってやるという過激組織、ロキシス。最近じゃ魔導書とか魔剣をあちこちでかき集めるなんて噂だし』
『奴はどこまで知っているのでしょうか』
『分からない。でも、先代魔王のことを知っていて、魔物の言葉も知っているのなら、ロキシス教団のことも知っていても不思議じゃないわ』
紙の束の中からAランクと書かれた四枚の紙を取り出す。
『だとしても、あのAランク冒険者は貴方が負けたくらいだし。
それにあのパーティの戦士、特殊なスキルを持っている。私なら勝てるだろうけど、私が直接動くのはリスクが高すぎる』
『自身の不甲斐なさ故です。申し訳ありません』
『別に責めてないわ』
リリーシュはAランク冒険者が描かれた紙を地面に投げ捨てた。
『でも人間と魔物の共存なんてできるわけない。
私ももうあんな思いはしたくない。
手伝うふりして、私の安寧を邪魔する輩の排除でもさせておけばいいわ』
『いいのですか?』
『彼もいずれ分かるはずよ。人間と魔物の共存なって絶対に不可能だってことにね』
リリーシュはそう言ってグラスに入ったワインを飲み干した。
◇魔鎌アダマス
武器種:鎌
能力:傷つけた者の生命力を奪う。奪った生命力、自身の生命力を分け与えることで大幅に強化できる。
代償:装備者の持つ最も強い能力を半分の力まで弱体化させる。
◇生命の魅了
種;魔魂スキル
説明:淫魔が持つ固有スキルの最上位。
能力1:五感を通して相手を魅了することで自身の支配下に置くことができる。
能力2:肌を晒すことでそれを見た者や、周囲の生物の魔力と生命力を強制的に奪い取ることができる。
代償:生命力を奪い取る力は対象を選べず味方に対しても強制発動する。
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