37話 お前も魔王の配下にならないか?
それからというものの、俺たちはあちこちで魔物を倒して回った。
魔王軍設立のためには金がいるしな。
なにより、配下二人を働かせるために多大な食費がかかるため、稼いでいないとあっという間に底を尽きてしまう。
冒険者稼業を進めると同時に、俺は腕の立つ冒険者をあちこちでスカウトして回った。
強い冒険者の前に突然現れ、魔王らしい言葉をぶつけ勧誘していった。
「そこのお前、良い腕をしている。我が配下となるがいい」
「何言ってんだ、頭おかしいのか?」
しかしある冒険者は俺の勧誘に対して不敬な発言をしてきた。
それに怒ったメアが足蹴りをかまして冒険者を壁まで吹き飛ばした。
「ぐぼぉぁっ!?」
冒険者は石の壁にめり込みそのまま気絶してしまった。
また別の日。
またしても同じように俺が目をかけた冒険者を勧誘した。
「この俺様が貴様を配下に入れてやる。光栄に思うがいい」
「舐めてんのかてめぇ!!」
せっかく勧誘したというのに相手の冒険者がなぜか俺に殴りかかってきたが、カゲヌイが横蹴りで壁まで吹き飛ばした。
「ぐばぁっ!?」
冒険者は石の壁に頭が刺さった状態で動かなくなる。
またしても別の日。
同じように実力のあるとの噂の冒険者を勧誘した。
「貴様は我が下僕となることを許す」
「ぶっ殺すぞ!!」
今度は斧を構えて俺の頭を勝ち割ろうと殴りかかってきたのをカゲヌイが拳で石斧を破壊して冒険者の腹に膝蹴りを食らわして気絶させた。
「ぐごぉっ!?」
またまた別の日。
違う冒険者を勧誘した。
「貴様も配下にならないか?」
「馬鹿かてめぇ」
しかしその冒険者も俺の勧誘に対して不敬な発言をしてくる。
それに怒ったメアが足蹴りをかまして冒険者を壁まで以下略。
「あばぁっ!?」
冒険者は石の壁にめり込みそのまま以下略。
そういう感じで、何度も冒険者を勧誘してもいつの間にか相手が壁にめり込んだ状態で終わっており、一度も勧誘に成功することはなかった。
****
ことごとく勧誘に失敗した俺は食堂でパンを無心でむさぼりながら放心していた。
なぜだ、なぜこうなるんだ?
どうしてこんなにも失敗するんだ?
一応冒険者としての威厳は示したし、なによりこれだけ魔王感漂う人間の配下になりたいって誰しも思うはずなのに。
「なぁ、なんで誰も俺の配下になってくれないんだ?」
俺はたまらず右側に座っているメアに聞く。
「なんでだろうね?」
メアはパンを食べながら疑問符を浮かべている。
我がアドバイザーであるメアにも分からないというのか。
「いや、理由は一目瞭然だろ」
左側に座っているカゲヌイがばっさりと言ってくる。
カゲヌイには理由が分かっているとでもいうのか?
「私だったらスルトの配下にすぐなりたいけど」
「それはお前だけだぞ」
メアの発言をカゲヌイがばっさりと切り捨てる。
言われてみれば進んで俺の配下になってくれたのはメアだけだった気もする。
でもメアもいきなり配下になったわけではなく俺の魔王たる実力と計画を根気強く教えた結果なってくれたみたいなところあるし。
待てよ、ということは——
「なるほどな、俺の魔王たる実力や計画を示し、その魅力に気づかせてやればいいんだな」
「絶対違うと思うんだが……」
となると、魔王たる実力を示すことで配下になってくれるのは人間よりも魔物の方が可能性が大きいな。
どこかでカゲヌイのように話の通じて、なおかつ実力のある魔物にで会えればいいんだがな。
そういう感じで金稼ぎは順調に進んでいるが魔王軍設立のための軍集めはそれほど進んでない。
しかし配下増やせないと魔王軍作れない。
どうしたものか。
そんなことを繰り返していたせいでいつの間にか冒険者の中で俺たちの評判が広がっているみたいだった。
食堂の周りの冒険者たちが俺たちの姿を見てこそこそと噂をしていた。
「おい、見ろよあの超大型新人」
「シッ!目を合わすな!あいつ、絡んできた冒険者を羽虫のごとく踏みつぶしたって噂だぞ!!」
「それどころか突然押しかけてパーティに勧誘して、断ると壁にめり込ませるって噂だぞ」
「生意気だな。おい、シメちまうか?」
「やめとけよ、Bランク冒険者パーティが全員地面に埋まったって話が……」
周りで冒険者たちがこそこそと俺たちの噂を話している。
俺たちを称賛しているというより恐れている。
それは魔王趣向的にはいいんだが、配下増えないと意味ないよなぁ……
このままじゃ戦力が足りなくて英雄と戦えないぞ。
「一旦宿屋に戻るか——」
そう思ってふと両脇を見てみるとメアとカゲヌイが飯を食い漁って皿を天高く積み上げていた。
「おい、貴様ら。いつまで食ってる」
「だって美味しいし」
「腹が減っては戦えないだろうが」
メアとカゲヌイがそんなことを言う。
ちゃんと働いてるおかげで討伐報酬はもらえてるから金は溜まってるんだが、出費が多くちゃ意味がない。
****
手持ちの金貨を配下共の食費のために大量に消費した後、宿屋へと戻る。
「あ、お姉ちゃんたち」
宿屋の廊下を歩いていると宿屋の娘のアンが話しかけてくる。
「みんな噂してるよ!お兄ちゃんたちのこと」
さんざん冒険者ギルドで噂を聞いているから正直もう飽き飽きしているが。
しかしこんな少女ですら俺たちの噂を聞いているとは。
「どういう噂だ?」
「強いけど極悪非道の冒険者だって」
俺がアンに聞くとそんな噂を話してくれる。
「ふっ、褒めたところで施しはせんぞ」
「褒めてるのか?これ」
俺がその言葉に悦に浸っているとカゲヌイが突っ込んでくる。
極悪非道、悪逆無道。そんな言葉は魔王たるこの俺にとって誉め言葉に他ならない。
「私もお姉ちゃんたちみたいに冒険者になろうかなぁ」
宿屋の娘だというのに冒険者に憧れているのか?
ふっ、だとしたら大分無謀な憧れだな。
「お母さんは冒険者なんてゴロツキばかりでロクなものじゃないって言って反対するんだけど……」
アンは両方の人差し指をくっつけながらそう話す。
俺も冒険者になることは勧めることはできんな。
なぜなら、冒険者になるということはそれすなわち魔王たる俺の敵となるということだ。
この俺の配下になるというのなら話は別だが、そうでなくば間違いなく俺の手にかかり命を落とすことになるだろう。
「お前のような子供に冒険者になることなどできん。諦めるのだな」
俺が気を使って優しく現実を見せてやったというのに、アンがむっとした表情でつっかかってくる。
「なによ!私のお兄ちゃんだって、強い冒険者パーティにいるんだからね!!」
アンは自慢げに自身の兄の話をしている。
冒険者の兄がいるのか。まぁどうでもいいが。
「お兄ちゃんは私たち家族のために自分を危険に晒してまで冒険者として頑張ってくれてるんだから!
私だって実はスキルを持ってて……あっ——」
アンは何かを言いかけ、はっとした表情をして口を手で押さえる。
「ご、ごめん、なんでもない。
これ、絶対言うなって言われてたし……」
そこまで言ったのなら最後まで言えばいいだろうに。
まぁ、こんな娘がどんな力を持ってようが俺の脅威にはならないだろう。
もしそうなったとしても、俺の配下となるか、俺の敵となり排除するかの二択にすぎん。
アンの話に一通り付き合った後、俺たちは宿屋に戻った。
「それで、どうするんだ。お前が言ってた配下集めは進んでないが」
ベッドにどかりと座り込んだカゲヌイが俺に今後のことを聞いてくる。
「だとしても目的は一つだ。冒険者ギルドを乗っ取る」
「どうやってだよ。戦力も足りてないっていうのに。
魔法学園の時とは違うだろ。
いくらお前が強いからって、あそこを乗っ取ろうとしたらギルドにいる冒険者全員と敵対することになるんだぞ?」
確かにカゲヌイの言う通りではある。
冒険者どもを皆殺しにするのは簡単だが、闇雲に殺すのも美しくない。
あくまで冒険者ギルドは滅ぼすのではなく、乗っ取るのだ。
町や冒険者ギルドを占領して統治下におくのであればどう足掻いても軍は必要になる。
「そうだな……」
あまりいい案が浮かばないな。
配下集め、冒険者ギルドの乗っ取り。
この二つをうまく進めるいい方法はないものだろうか。
うーん……
すぐに思いつきそうになかったので俺はベッドに寝っ転がる。
何も思いつかない時はリラックスするのが一番だ。
「……おい?結局どうするんだ——」
「Zzz……」
カゲヌイが聞いてきたころには、考え込みすぎて眠くなった俺はそのまま眠りについていた。
「スルトならもう寝てるよ」
「こ、こいつは……」
俺の行動パターンをだいたい知り尽くしているおかげで俺の昼寝に動じていないメアに対して、カゲヌイは言いようもない静かな怒りでわなわなと震えていたのだった。
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