【完結】大虐殺の魔王を目指す俺が「装備者の望みを逆の形で叶える呪い」を持った魔剣を抜いた結果魔王どころか英雄になってしまう話
35話 異世界あるあるの大型新人が強い魔物を狩ってきて驚かれるやつをやりたかった
35話 異世界あるあるの大型新人が強い魔物を狩ってきて驚かれるやつをやりたかった
冒険者ギルドに戻った俺たちは討伐の証を集めた袋を机の上にどさっ、という音を立てつつ乗せた。
「こ、これは…………」
机の上に置かれた袋の中にある魔物の耳を見た受付嬢はあまりの出来事に驚いている。
「これだけの数のゴブリンを討伐したんですか!?
そ、それに……オークにハイオークの耳……!?」
「な、なんだって……!?」
「冒険者登録試験でオークを……!?」
「あ、ありえない……」
それを聞いた周りの冒険者たちもその事実に恐れおののいている。
ふむ、これぞお約束。
新人で一見弱そうな冒険者がしょっぱなからとんでもない戦果を挙げてしまいギルド職員、並びに冒険者たちが驚愕する。
やはり最強の魔王となるのならこのくらいやらないとな。
「!?!?!?!?」
受付嬢が声にならない悲鳴を上げている。
それどころかその場に座り込んで腰を抜かしている。
良い反応だ。これで俺たちの実力の証明としては——
「に、人間の耳……!?」
——え?
机に広げられた討伐証明の耳をよく見るとピアスとか刺青が入ったあきらかに人間の耳まである。
あれ、まさか。
襲ってきたチンピラと謎の黒ずくめの人間たちの耳まで取ってきた!?
俺はたまらずカゲヌイの方を見る。
カゲヌイ~?お前何してくれてんの?
「だって全部の耳を切り取れって言っただろ」
俺がカゲヌイを睨みつけるとそんなことを呟く。
確かに言ったけどさぁ!
だからって人間の耳まで取ってきて受付嬢に渡す奴があるか!
いや魔王趣向的に考えるとありなんだけど。
こんなにも残酷な行為、俺でさえも思いつかなかったし。
問題はタイミングだ。
冒険者試験でこんなサイコパスムーブかましたら登録できなくなるだろうが。
「あ、あの……これは……」
受付嬢が腰を抜かしたまま震えている。
どうしよう。なんて言い訳しよう。
なんか襲い掛かってきたから皆殺しにしましたって言っておくか。
しかし、耳切り取って持ってきたことは言い訳できん。
それどこか正当防衛を信じてもらえず俺たちが積極的に襲ったと疑われてしまう。
こうなったら——
「俺はその場に落ちていたものを集めてきただけだ」
その場にたまたま落ちてました!
これで誤魔化す! どうだ、行けるか!?
「ということは……これが現場に……?」
「そうだ」
しばらくの間沈黙が広がる。
――誤魔化せた? 流石に無理?
「しょ、少々お待ちください!」
受付嬢は俺たちが渡した耳を持って奥の部屋へと行ってしまった。
どうしよう、このまま殺害を疑われて逮捕の流れ?
まさか俺の冒険者となり信頼を得て最終的に冒険者ギルドを乗っ取る計画がこんな早い段階で頓挫するとは思わなかった。
****
受付嬢はギルドの二階にあるギルドマスターの執務室をノックし中へと入る。
ギルドマスターは短い黒髪で刺すような鋭い目が特徴的で、鎧を身にまとっている厳格な女性だ。
今は戦いから身を引いているものの、彼女はかつて名の知れた冒険者であり、今はその経験を活かしギルドマスターとなり冒険者たちを取りまとめる立場になっている。
「ギルドマスター、これを見てください」
「どうしたそんなに慌てて。
……人間の耳?
しかもこれはよく見る荒くれ共の……ということは」
「はい、また姿を現したみたいです」
「耳狩りか……」
ギルドマスターは執務室の机に山積みになっている書類のうちの一枚を取り出して眺める。
そこにはとがった獣の耳を生やした獣人の似顔絵が書かれていた。
「どうやら森に落ちていたのを冒険者登録試験を行っていた方たちが見つけたみたいです」
「そうか。遭遇しなくて幸運だったな。
それにしても、突然現れ、突然冒険者を襲い耳を切り取った状態で残していく謎の獣人。耳狩り。
また現れるとはな。一体目的はなんだ?」
「しかしこちらを見てください」
受付嬢はスルトたちがとってきた人間の耳をギルドマスターに見せる。
「耳の後ろに紋章?なんだこれは」
「分かりません。しかし、耳狩りの目的を突き止めるのに役に立つかもしれません」
「分かった。あとは私に任せてくれ」
「あとそれとは別に相談したいことが……」
「ん? まだ何かあるのか?」
「実は……」
****
「……お前たちか。冒険者登録試験でオークとハイオークを倒してきたというのは」
俺たちは別室に案内されギルドマスターの前に座らされていた。
俺は椅子の上に足を組みながら偉そうに座り、その横でメアとカゲヌイは何が起こってもいいように立ったままでいる。
うん、なんかいいな。
自分だけ椅子に座り従者には立たせる。
これぞ魔王ムーブって感じ。
やはり俺専用の玉座なんかも欲しいな。
そのうち特注で作りたいものだ。
––––って、今は魔王的趣向に思いふけっている場合じゃない。
ギルドマスターに呼び出されたということは俺たちの悪事がばれた可能性が高い。
流石にごまかし切れないか……?
「見たところかなり若いみたいだが……その年でそこまでの実力があるとは」
ギルドマスターを名乗る女性は俺たちが取ってきたハイオークの耳を手に持ち眺める。
どうやら俺たちが本当にそんな実力があるのかどうか疑っているようだな。
ひとまず人間の耳の話は置いておくつもりなのだろうか。
「本当にお前たちが討伐したのか?
誰かが倒したオークのものを取ってきたとか、魔物同士の争いで死んだのを取ってきたとか……」
「人間が倒したのなら討伐の証をそのままにしておくないわけないだろう。
魔物同士の争いだとしてもオークとハイオークを全滅させるほどの魔物があの森に現れるのか?」
「……それはそうなんだが。
こちらとしてもあまり疑いたくはないんだが……」
随分と疑われたものだ。
言いたいことは分からんでもないが、俺としても実力を下に見られたままという状態は見過ごすわけにはいけない。
ここは魔王趣向的には——
「信じられないのなら――」
俺は前のめりの状態で椅子に座り直す。
「今ここで実力を確かめてみるか?」
更に軽くオーラを放ちギルドマスターを威圧した。
その横で受付嬢は震えている。
ギルドマスターは動じていないふりをしているが汗を流し明らかに俺の隠された実力を感じ取っている。
「……分かった。認めよう」
俺の威圧が効いたのか、ギルドマスターは俺たちの冒険者登録を認めたようだった。
くっくっく、こうでなくては。
このオーラを感じて強者だということに気づけないようではギルドマスターたる資格はないだろう。
これで俺たちの実力も示せたし、万事解決——
「それで、お前たちが取ってきた人間の耳についてだが……」
あやばい。
そのこと忘れてた。
やっぱり逮捕?逮捕なのか?
「お前たちももう知っているだろうが、正式な発表はこちら側で行う。
申し訳ないがこのことはまだ誰にも言わないでおいてくれ。ギルド内に動揺を与えたくない」
……正式な発表?なんのことだ?
あ、もしかして俺たちが襲われた側だということに気が付いてくれたのか。
それであのチンピラ共が悪事を働いて死んだってことはまだ言うなってことか。
「分かった」
なんとかギルドマスターからの呼び出しを乗り越えた俺たちはそのまま受付嬢に案内されカウンターへと戻っていった。
****
「それでは冒険者登録の手続きをいたしますね。
お名前を教えていただけますでしょうか」
さっきまでの慌てっぷりはどこへやら。
受付嬢は表情をビジネス的なクールな笑顔に戻し、冒険者についての案内を始めた。
登録名に関しては、仮で決めた偽名をメアには教えてある。
「メアリーです」
「カゲヌイ」
メアはメアリー、カゲヌイはそのままでいいだろ。
俺はどうしようか――
「スルトルで」
「スルトルさんですね」
受付嬢は俺たちから聞いた名前を書類に書き留める。
すると横にいたカゲヌイに耳打ちされる。
「お前、適当すぎるだろ」
仕方ないだろ。咄嗟に良いの浮かばなかったんだから。
「そして、こちら討伐報酬となります」
金貨が入った袋が置かれる。
手に持ってみるがだいぶ重みがある。
……多くね?
「いくらくらいだ」
「金貨50枚です」
「……なぁスルト、この金額は多いのか?少ないのか?」
カゲヌイが金貨の袋を見て訪ねてくる。
金貨一枚で確か魚料理10皿分が買えた気がする。
魚料理一つで1000円くらいだと仮定して、だいたいこの量の金貨は日本円にして50万円近くといったところか。
ハイオーク1体、オーク10体ほどで50金貨か。だいぶおいしい仕事だな。
「せっかくお金もらったんだし美味しいものでも食べに行こうよ」
「賛成だ」
メアが飯の話をするとすぐにカゲヌイが賛同した。
お前らは飯しか頭にないのかよ。
——まぁ、また稼げばいいし最初くらい飯食わせてやってもいいか。
仕事をした配下にきちんと報酬を支払うというのも魔王として大事なことだ。
圧制を強いて配下から謀反を起こされても面倒だしな。
「分かった、行くぞ」
「やったー」
「早く」
この後、冒険者たち行きつけの食堂に行った結果、調子にのったメアとカゲヌイが飯を食いすぎてせっかく受け取った報酬の半分近くが消費されてしまったのだった。
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