33話 絡んでくる冒険者はボコして壁に打ち付けておく
ドラフルク町へと足を踏み入れた俺たち。
王都とはまた違う街並みが広がる。
王都は貴族が中心に住んでいたが、こちらでは平民が多く住んでいると聞いた。
装飾が多めの大きめの家よりも実用性の高い小さな民家が中心といった感じだな。
魔物の素材を買い付けに来たり、逆に冒険者に武器や道具を売りに来るような商人もちらほらみられる。
メアとカゲヌイが道の途中にある市場なんかに目を奪われて寄り道しようとしていたがそれを抑え真っ先に冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドの建物はこの町でも一番大きいようだ。
ギルドの紋章が描かれた看板がでかでかと扉に飾られている。
俺たちは冒険者ギルドの中へと入り、建物の中を見渡す。
オンラインゲームとかで見たような景色だな。
あたりで冒険者らしき人間たちが談笑しているのが見える。
壁には依頼の張り紙が並んでおり、カウンターには受付嬢が立っている。
おそらくあそこで冒険者登録をするのだろう。
カウンターに行き受付の人間に話しかける。
「冒険者登録をしたいのだが」
「え?は、はい……」
受付嬢は俺たちの姿を見て慌てつつも手続きを始めた。
なんだ、どうして慌てる必要がある?
まさか——この俺が魔王たる人間だということに気づいたのか?
やはり大物はそのオーラをどんなに隠したつもりでも隠し切れないというわけか。
それにしても周りからもやけに視線を感じるな。
そう思っていると準備を終えた受付嬢が案内を始めた。
「そ、その冒険者登録のためには試験を受けていただく必要がありまして……」
試験?事前にある程度調べておいたがそんなものは聞いたことがないぞ。
「実は実力の伴わない人が冒険者になった結果、無理に難易度の高い依頼をこなそうとしてそのまま帰ってこなくなると言う事例が相次いでいまして、そのために冒険者登録をする前に実力を確かめさせてもらっているんです」
なるほどな。
人手不足とはいえ実力のない人間に増えられても困るというわけか。
「その試験とはなんだ」
「二つのうちどちらかを達成していただければ合格となります。
一つは森にいるゴブリンを3匹倒してくることです。耳が討伐の証になるので忘れないようにお願いします。
二つは冒険者ギルドに常駐している試験官と戦って実力を示すかのどちらかです。どうなさいますか?」
ふむ、ゴブリンか。その程度俺の敵ではない。
しかし試験官と戦うというのも面白そうだ。
冒険者ギルドの連中には俺たちの実力をこれでもかと思い知らせる必要がある。
ただ実力を見せるだけではだめだ。「強すぎる……」とか、「な、なんだこいつらは……」みたいな感じで恐れおののいてもらわなければいけない。
そのためにはどちらを選択するべきだろうか。
顎に手をあてじっくりと考えていると、後ろから近づいてくる気配がした。
「なんだおい、ガキじゃねぇか」
「てめぇらみてぇなガキどもが来るとこじゃねぇんだよ」
筋肉隆々でハゲの男とモヒカンにサングラスを付けた細身の男が絡んできた。
テンプレートな絡みじゃねぇか。
さて、どうしたものか。
魔王的には馬鹿にしてきた奴は抹殺なのだがこのタイミングで騒ぎを起こすのは面倒だ。
もしかして受付嬢や周りが変な目で見ていたのが原因か?
恐れられていたのではなく舐められていたとは。
強者のオーラを隠しすぎたか。
雑魚に舐められるなど魔王にはあってはならない。精進が必要だな。
「俺たちが代わりに試験してやるよ」
男がこちらに近づき、メアとカゲヌイの肩に触れようとした瞬間、二人の姿が消える。
そして二人は瞬時に男の後ろに回り込み、メアは剣を抜き、カゲヌイは爪を構え、同時にチンピラの首に突きつける。
「な、何ッ……!?」
流石は俺の側近。俺が指示するまでもなく俺がしてほしいことをしてくれる。
俺はその状態のまま男を挑発した。
「ほう、貴様が試験をしてくれるのか。しかしおかしいな。試験とは試験を受ける人間よりも優れた人間が行わないと意味がないのではないか?」
「ぐっ……て、てめぇ……!」
男は脂汗を流しながら苦虫を噛み潰したような顔をする。
悔しそうだな。だが、これで第一の目標である、冒険者ギルドの連中に俺たちの実力を垣間見せるということができた。
「貴様ら、武器を収めるがいい」
俺の合図とともにメアとカゲヌイは戦闘態勢を解除する。
「俺たちはゴブリン狩りを行うことにする」
「は、はい……分かりました……」
俺が冒険者登録試験の方向性を決めると受付嬢は粛々と手続きを行う。
受付嬢からゴブリンの出現する場所が書かれた地図を受け取ると俺たちは冒険者ギルドの出口へと向かう。
「ちっ、偉そうなこと言いやがって楽な方選んでんじゃねぇか腰抜けが」
チンピラの片割れの男が捨て台詞を吐く。
それを聞いたメアが男を恐ろしい目でにらみつけ腰に差した剣を抜こうとした。
俺は咄嗟にそれを止めた。
「よせ、かませ犬の苦し紛れの捨て台詞にすぎ——」
メアを止めようとしたが、横にいるカゲヌイを止めることを忘れていたせいで、カゲヌイがメアよりも先に動き、右手の拳でチンピラを壁まで殴り飛ばした。
ズドン!!
「ぐがぁっ!?」
吹き飛んでいったハゲのチンピラはそのまま壁にめり込み気絶した。
「カゲヌイ、何をしている」
「舐められるのは嫌いだ」
俺のために怒ってくれるのはいいんだが、冒険者登録する前に建物内で流血沙汰とか勘弁してほしい。
「あ、アニキィ!」
もう一人のモヒカンの方のチンピラがハゲのチンピラに駆け寄る。
「て、てめぇら……覚えておけよ!!」
チンピラは気絶した方のチンピラを背負ってどこか消えていった。
「いくぞ」
後処理も面倒だったし俺たちは依頼をこなすために冒険者ギルドを後にしたのだった。
まぁ魔王趣向的にこの俺に不敬を働いた輩を不問にするというのも魔王らしくないし、吹き飛ばして怪我させるくらいはしておかないとな。
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