32話 新たなる地へ、それと真名決め

 前回俺たちはルーン魔法学園で悪行を重ね、魔王としての旅路を歩みだした。

 禁忌の魔導書を奪い、教員たちを皆殺しにし、学園生たちを殺戮し、最後に校舎を破壊した。

 俺自身の理想とする魔王になるべく、俺は歩みを止めることはない。


 俺たちは更なる計画を実行に移すべく、次なる地へ向かっていた。


 ドラフルク町。

 王都ダングレイの西に位置する町。

 冒険者ギルドがあり、更には魔の森がすぐ近くにあり魔物防衛の最前線とも言えるこの地。

 俺たちは次なる標的をこの地にすべく、歩を進めていた。


「まだつかないのか?」

「もうすぐだ」


 左後ろについてきているカゲヌイが文句を垂れる。

 それに対して俺は地図をカゲヌイに見せて納得させる。


「もう少し歩いたら休憩すればいいよ」


 右後ろについてきているメアがカゲヌイを諭す。


 メアとカゲヌイは魔法学園襲撃が終わった後が初対面だったが、なんだかんだ打ち解けているようだ。

 カゲヌイに人間の言葉を教えるのを面倒くさかったのでメアにぶん投げたら根気強く教えてくれているようで、少しずつではあるがカゲヌイは人間の言葉も話せるようになってきている。


 しかしカゲヌイは旅のことで隙あらばあれこれと文句を言い続けている。


「わざわざ走る必要があるのか?あの馬車とかいうのを使えばいいだろ」


 カゲヌイは挙句の果てにそんな文句を俺に対して吐き出してくる。


「馬車なんか使ったら足がつくだろう。俺たちが魔法学園でどんな悪事を成し遂げたのか覚えてないのか?もしかしたらすでに隣町にも手配が回っているかもしれん」


 俺はそう言ってカゲヌイを納得させる。

 そう、わざわざ足を使っているのは体力づくりのためというわけじゃない。(まぁそれもないことはないが)

 一体どこまで手配が回っているか分からないため念のため足がつかないように歩きで隣町に向かっているのだ。


 しかし俺たち三人は常人に比べればはるかに速い脚があるとはいえ馬車なしは流石にきついものがある。

 メアは基本的に文句ひとつ言わずついてくるがカゲヌイは定期的に疲れたとか腹が減ったとか言って休憩を要求してくる。


 正直言って面倒くさい。

 まぁ、実を言うと馬車を使わない最大の理由が一つあるんだが……


 そう考えているとメアが俺に対して質問を投げかけてきた。


「スルト、どうしてエイルを連れて行かなかったの?配下にするとか言ってたのに」


 そう、前回俺は配下にすると決めたエイルをあえて連れて行かずにいた。

 それには大きな理由が一つある。

 それは——


「飯代が高くつくからだ」

「そんな理由なのかよ」


 理由を言うとカゲヌイが呆れた表情で突っ込みを入れてくる。

 しかしこいつがそのことで文句を言ってくるのことは見過ごすことはできない。


「お前、他人ごとのように言ってるが、お前が一番飯代食ってるんだぞ」

「そうだよ、もう少し遠慮しないと」


 右後ろでメアがカゲヌイを諭す。

 しかしメアがそのことでカゲヌイを諭すのは説得力がない。

 なぜなら、こいつも大飯食らいだからだ。


「メアお前も同じだぞ」

「え、そうかな」


 メアにそう突っ込むが、当人は自覚がないようだった。

 カゲヌイが一人で10人分は最低でも食うとすればメアは一人で5人分は食べる。

 俺としてはこれ以上出費を増やすのは避けたかったのだ。


 いつだったか、メアとエイル(あと俺の影に隠れたカゲヌイ)たちとレストランに食事に行ったことがあったか。

 メアはずっと食べてばかりでエイルの話を全く聞いていなかったし、カゲヌイは魚料理をこれでもかと食い漁るしで大変だった。


 しかし一応エイルを置いて行ったのはほかにも理由がある。

 俺の悪行を生徒たちに広めるという役割。

 何より、エイルが本当に俺と共に悪の道に進むつもりがあるのか、それを試したのだ。

 悪の魅力に取りつかれ俺についてきたのなら良し、悪行が怖くなり逃げ帰るのならそれまでだ。


「盗賊から奪った金はどうしたんだ」


 カゲヌイが金について聞いてくる。

 そういえば、大昔に村の近くの森で盗賊を狩って金を奪い取ったことがあったか。

 しばらくはあの金のおかげでなんとかなっていたのだが——


「メアの剣を新調するのに使い果たした」

「計画性がないな」


 カゲヌイがそんなことを言ってくる。

 誰のせいだと思ってんだ。

 お前が食う飯の量が減ればまだマシだったぞ。

 

 こう見えて俺は割と金の管理はしっかりしている方だ。

 前世でもお小遣いはきちんと管理してほしいものは優先度順位をつけた上で買ってたからな。

 

 文句を言い続けるカゲヌイを諭しながら俺たちは町に向かっていった。


****


「たどり着いたな」


 隣町のドラフルク町に到着した。

 入り口には大きな門があり、その前には槍を手に持ち鎧を着こんだ門番二人が立っている。

 町の周りには石でできた高い塀がめぐらされている。

 この町は魔物の森から近いため、たびたび近くの魔の森から魔物が襲撃してくることがあるらしい。

 それゆえに町の防衛を万全にしているというわけだな。


「この町で何をするんだ?」


 カゲヌイが聞いてくる。


「冒険者登録だ」


 冒険者ギルドのあるドラフルク町はすぐ近くに魔物が多く住む魔の森があり、常に魔物が増え続けているために人手が足りていない。

 そのため、立場、家柄問わずに実力さえあれば冒険者登録ができるようになっているらしい。


「冒険者ギルドは常に人手不足。多少素性が怪しくても実力さえ確かであれば登録ができるらしい。身を隠すには絶好の場所と言えるだろう」


 俺は町に入る前にメアとカゲヌイにこの町に入る目的について話し始める。


「ここでの目的は大きく分けて三つある。一つ目は四天王集め、魔王軍を設立する」

「「してんのう??」」


 メアとカゲヌイは首をかしげて頭の上に疑問符を浮かべる。

 メアはともかくとして、カゲヌイが意味を分かっていないということは先代魔王の配下の中に四天王という概念が無かったのだろうか。


「四天王、仏教における四つの守護神のことだ。 そこから転じて配下の中で最も優れている四人のことを差す。 これから魔王軍を作るにあたり実力、策略と兼ね備えた優秀な者たちを集める必要がある」

「私たちは?」


 メアが自分自身に指を差しながら聞いてくる。


「お前らは魔王の側近。護衛といってもいい。だから四天王とはまた違う」


 側近はあくまで魔王の護衛をするもの。

 四天王は魔王の命に従い魔物の軍を率いる者たち。

 そういう拘りが俺の魔王趣向の中には存在するのだ。


「……そのなんとかいうのは分かんないが、とにかく強い配下をもっと集めるってことだな」


 カゲヌイが腕を組みながら頭を傾げている。

 こいつの頭では難しかったか?


「つまりはそういうことだ」

「次の二つ目はなにするの?」


 メアが興味深そうに聞いてくれる。

 こう興味を持ってくれると俺としても語りがいがあるというものだ。


「二つ目は、金だ」

「金なんて奪えばいいだろ」


 カゲヌイが呆れ顔でそんなことを言ってくる。


「ふっ、これだから獣の脳しか持たないやつは」

「おい、馬鹿にするなよ!」

「まぁまぁ」


 カゲヌイが俺に食って掛かろうとするのをメアが肩を引っ張って止める。


「金を奪うためにも下地というものがいるのだ」

「魔王のくせに真面目に働くのか」


 カゲヌイが冷静な突っ込みを入れてくる。

 それを言われると魔王趣向的には反してるといえば反しているのだが。

 しかし、重要なのはそこではない。


「ふふふ、金稼ぎはただの前段階に決まっているだろう。目的はもう一つある」

「それは?」


 メアはずっと俺の魔王計画について興味深そうに聞いてくれるな。

 流石は俺の第一配下だ。


「冒険者ギルドの乗っ取りだ」


 冒険者ギルドは英雄が支援している。

 乗っ取ってしまえば英雄の勢力減退をすることができる。

 それだけでなく、今問題になっている金稼ぎの問題も解決できる。

 いっそのこと魔物を討伐するのではなく人間を討伐することで金がもらえる組織にするのもありかもしれないな。くっくっく、我ながらなんという魔王的アイディアだ。


「魔法学園の破壊の次は冒険者ギルドの乗っ取りか……」

「凄い、流石スルト」


 メアとカゲヌイの二人も俺の魔王計画の全容に驚いているようだった。


 側近二人にこの町での目的を一通り話し終えた後、俺はこの町に入る前に決めるべき最も重要なことについて語り始めた。


「それよりも前に決めるべきことがある」

「決めるべきことって?」

「なんだそれは」


 メアとカゲヌイの二人は頭の上に疑問符を浮かべながら聞いてくる。


「それは――真名だ」

「「まな?」」


 真名も知らんとは。

 魔王の側近としての知識が足りていないと言わざるを得んな。

 定期的に魔王の側近として必要な知識を植え込んでいく必要があるな。


「ここで本名を使ってはすぐに俺たちだとばれてしまうだろう。なにより魔の者としての異名、二つ名、真の名というものが必要なのだ」

「例えば?」


 メアはいまいちピンと来ていないという表情をしていた。

 横にいるカゲヌイも同様だった。

 まだまだ俺の魔王趣向を理解できていないようだな。

 こういう時のために考えておいた真名がある。

 これを聞けばたちまち己の中の魔王趣向が呼び覚まされるに違いない。


「カゲヌイ、お前はシャドウライトニングウルフ。メアはブラッドアイバーサーカーだ」

「なんかださい」

「な、なんだと!?」


 カゲヌイは俺の決めた渾身の真名に対してそんな心のない罵声を浴びせた。


「ばぁさぁかぁってなに?」


 メアの方も罵声ではないにしろ、天然なぶった切りをかましてくる。

 ひらがなにするなよ。ださくみえるじゃないか。


 思いのほか不評だった。

 何故だ! この二人には誰しもが若かりし頃に心のうちに秘めているはずの魔王の心というものが存在しないと言うのか。


「というか、その名前で登録したら偽名ってすぐ分かるだろ」


 くそっ、カゲヌイのくせに痛いところをついてきやがる。

 こいつ脳筋のくせにどうしてこういう時だけするどいんだ。

 仕方ない、二人の真名は一旦保留としよう。


「スルトの名前はどうするの?」


 今度はメアの方から聞いてきた。

 名前っていうな。真名って言え。


「ふっふっふ、恐ろしき我が真名に戦慄するがよい」


 こういう時のために魔王計画書には俺の真名候補となる記述を連ねている。

 俺の脳裏に浮かびし真名の数々を見るがよい。


 以下、俺の真名案、そしてメア、カゲヌイの反応だ。


「ラグナロク+スルトで《ラグナルト》」

「良いと思う」

「ださい」


「我が相棒の名を少し借りて《レヴァデーア》」

「凄く良いね」

「言いづらいだろ」


「ニブルヘイムを改変して《ニヴルヘル》」

「良い感じ」

「変だな」


「冥府の王ハデスとくっつけて《ハデスルト》

「素敵だね」

「きもくないか」


「むっ……じゃあ、デス、スルト、に更に追加して《デスルトス》」

「かっこいい」

「ださすぎる」


 こ、こいつら……!!


「全肯定botと全否定botかお前らは!話にならんぞ!」

「スルトの言うことなんだから全部良いと思う」

「全部ださいんだから仕方ないだろ」


 埒が明かん。

 もう少しちょうどいい塩梅の参考意見を聞かせてくれる人間はいないのか。

 やはりエイルを連れてきた方がよかっただろうか。


 一旦魔王としての真名決めは保留にして先に冒険者登録を済ませることにしよう。


 それにしても俺の魔王計画書第55ページに記されている真名候補の上位がこうも簡単につぶされるとは思ってもいなかった。

 魔王の真名は非常に重要なものだし、理想的な真名を決めるためにも精進が必要だな。


******************

※作者コメント

本日から第二章を更新します!

更新頻度ですが、今までのような毎日更新ではなく、月、水、金の週三日更新にしようと思います。(途中で変えるかもしれません)

楽しんでいただけたら嬉しいです!

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