おまけ その1 ある日のスルトとメア
<メア視点>
私とスルトが学園に出発するよりも前。
10歳ぐらいのころだっただろうか。
ある日のこと。
スルトはいつも鍛錬のために使っているという森のとある広場まで案内してくれた。
そこで私に大きな炎の魔法を披露してくれた。
スルトの手から放たれた炎は岩の壁を大きく抉るほどの威力だった。
「こんなんじゃだめだ」
おそらく中級魔法くらいの威力はあると思う。
それなのにスルトは全然満足していないという表情をしてうなだれていた。
「どうして?」
「俺はもっと凄まじい魔法を使えるようにならないといけないんだ!」
十分凄いと思うけどなぁ。あんな魔法私でも全然使えないし。
スルトはずっとここでこの魔法を練習しているようだった。岩壁のあちこちに魔法当てた後があり、周りの木には剣で切った傷跡がたくさんある。
これより凄まじい魔法と言ったら……絵本とか御伽噺に出てくるような魔法が使いたいのかな。
「すさまじい……超級魔法とか?でも超級魔法って過去の英雄の人たちでやっと使えるくらいって聞いたことあるよ。辺り一面が火の海になるとか、町を凍らせちゃうとか」
「そんなものじゃ足りない。もっとだもっと」
「えぇ?じゃあどんな?」
「指を振ったら山が崩れ、息を吹けば竜巻が起こる、そのくらいだ!」
「そんな凄い力あっても役に立つことないと思うけどなぁ」
「なんだと!?メア、お前だけは俺のことを理解してくれていると信じていたのに……くそっ!!」
スルトがなんのためのそこまで頑張って、なにをするためにそんな目標を立ててるのはかよく分からない。
でも皆から変な風に言われてもスルトは私にとってのヒーローだから。
だから私は大人しく後ろについてくの。
「叶うといいね。スルトの願い」
「願い?ふふん、やはり分かってないな。これは確定事項だ。願いは叶うかどうか分からないことだが、俺のしていることは遠くに見える目印に沿って走っていることと同じ、歩いてさえいれば目的地にいつかは必ずたどり着くのと同じように、俺もその果てに必ずたどり着く」
スルトは最初から変わってるけど、頑張るようになったのは私たちが5歳のころだったような気がする。
私はスルトに騎士になりたいと夢を語った時があった。
村の大人たちは皆笑うか子供の夢だと軽く見るだけだった。
村の子供たちは馬鹿にしてばかりで全く聞き耳を持ってくれなかった。
でもスルトは違った。
それを聞いた瞬間、興味深そうな顔をして私の夢を真剣に聞いてくれた。
そしたら今度は騎士になる実力があるか見てやると言って木剣をもって私の前で構えを取った。
5歳で剣の試合をするなんて今考えてもおかしかったと思う。
でもスルトも私も至って真剣だった。
そして剣での試合の結果は私の勝利だった。
負けたスルトはずっとぽかんとしていて、突然立ち上がったかと思ったら数日の間、姿を見なくなった。
スルトの両親のターシャさんとレイモンドさんに聞いてみると最近夜遅くまで村のどこかで遊んでいて夜遅くに帰ってくるようになったと言っていた。
こっそりついていったことが一度だけあったけど、この広場でずっと木に向かって木剣を振り回していた。
そういえば木に変ならくがきがあったような気がするけどもしかしたらあれは私を描いてたつもりだったのかもしれない。
どうやら私に負けたのが相当悔しかったらしい。
それ以降ちょくちょくスルトは私に剣の試合を挑んでくるようになった。
スルトには言ってないけど生まれつき私は左眼で見た動きを模倣できてしまう。
だから何度も戦っているうちにスルトの剣術を模倣するだけでなく見切れるようになってしまう。
最近は意識して抑えられるようになったけど、子供の時は剣での試合をしていると勝手に発動してしまってた。
だから戦うたびにスルトの剣術を盗む形になってしまっていたから申し訳ないなと思ってた。
スルトは勝負のたびに新しい剣術や戦法で挑んで、そのたびに私を苦しませるが最後の最後は私がスルトの剣術を見切って勝ってしまう。
そのたびにスルトは森に籠り、また私に挑んできて……そういったことを繰り返してきた。
スルトは私の剣術を褒めてくれるけど実はその中にはスルトから真似した剣術がたくさんある。だから本当は今の私はスルトによって作られているといっても過言じゃない。
今ではすっかり色んな魔法を使えるようになっているしあんな凄い剣も持っている。
きっと魔法を使ってあの剣も使われたら私じゃ絶対勝てない。
でもスルトは私に剣術だけで勝つことに拘っているらしく絶対にそうしようとしない。
「今日からはここで試合をしよう」
「こっそり戦ってるの大人たちにばれちゃったしね」
「言っておくがそれを気にしているわけじゃないぞ。戦いの最中に邪魔者が入ると面倒なだけだ」
「分かってるって」
「くっくっく、俺が新たに生み出した
「うん、楽しみにしてる」
今日も私はスルトとここで試合をしてスルトとの時間を過ごす。
私の人生の中で最も楽しくて幸せな時間の一つだ。
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