26話 スルトVSカイン
俺はミゲイリ先生とカイン先生と向かい合う。
丁度飽きてきたころだったし俺は持っていた果物ナイフを投げ捨てた。
「ヴェルナー、お前はあの娘を追え」
「はぁ?待てよ、こいつは俺が殺す……!」
「元はといえばお前が暴走するから面倒なことになったんだ。これ以上命令違反を起こすならこの場で処断を行う」
「くっ……くそがっ……!」
刺青の男ヴェルナーは苦虫を噛み潰したような顔をして立ち上がると部屋を後しようとするが、それを俺が黙って見逃すわけがない。
「逃がすとでも――」
次の瞬間、ミゲイリ先生がどこに隠していたのか暗器を取り出しすぐ目の前まで移動し、補佐のカイン先生は刺青の男との間に立ちふさがり俺に追わせないようにしていた。
同時に攻撃してきたが俺は咄嗟にレーヴァテインを抜き防いたが刺青の男は既に部屋から出ていた。
ミゲイリ先生は短剣を両手に二つ構える。
カイン先生は剣を構えこちらに向き合う。
ようやくやる気になってくれたか。そう来なくてはな。
「スルトと言ったか。剣術も魔法もなかなかの腕だ。もし立場が違えば私の弟子にしていたかもしれん」
「貴様の実力では俺に物を教えることなどできぬ」
「貴様っ!」
俺が挑発すると挑発された本人ではなく横にいたカイン先生が切りかかってきた。
俺はその攻撃を後ろに跳ぶことで難なく回避した。
今までの技を見た上でまだ俺に勝てると思っているとは愚かな。
仕方ない、使いたかった技もあるし実験をするとしよう。
「今までのが俺様の実力だとでも?ほんの少しだけ本気を見せてやろう」
俺は両手を目の前に交差させ、左の掌は前方に向け、右手の掌は横に倒すように構えた。
左手の掌には真っ黒な魔力が集まり不定形な形を成していき、右手の掌には光り輝く魔力が集まり次第にその輝きを増していく。
魔法の準備が完了した俺は魔法の名を唱えた。
「左手に闇を、右手に光を」
《光の剣 闇の盾》
左手にまるでブラックホールのごとき円状の暗黒が生まれ、右手に光り輝く刀身を持つ剣が生まれる。
「なっ……!」
「光属性魔法と闇属性魔法だと!?しかもあんな魔法は見たことが……」
「そんなこけおどしがぁ……!!」
カイン先生は剣を構え踏み込むと剣を振り横斬りを繰り出す。
俺から見てもかなり洗練された剣技だ。
さっきのヴェルナーとかいう刺青の男は実戦経験自体は多いものの乱雑で無駄の多い動きだったがこちらは違う。
だが俺は刺青の男の鎌による攻撃を受け止めた時と同じように闇の盾で難なく防いでしまう。
「なっ、なぜ……」
光の剣、闇の盾は両者とも俺が開発したオリジナルの魔法である。
女神の転生特典として与えられた魔法の適正は火、風、水、土の基本の4大属性にとどまらず、魔導士の中でも使用者の非常に稀な光属性魔法と闇属性魔法の適正を与えられていた。
まずは闇の盾の特性を説明しよう。
衝撃完全吸収、魔力吸収。形状自在。
闇の盾でカイン先生の攻撃を防いでいると後ろからミゲイリ先生が放った土属性で構成された岩の槍が俺に目掛けて飛んでくる。
本来なら盾で防いでいる間は不可避。俺に岩の槍が刺さり俺は負ける。
――俺の盾が普通の盾なら、な。
闇の盾はカインの剣を防いだ状態を維持しつつ粘土のように形状を変化させ盾の範囲を俺の頭の前まで盾を広げ岩の槍を防いだ。
しかもそれだけでなく岩の槍をそのまま吸収した。
「な……」
「なんだ、なんなんだその魔法は!!」
良い反応してくれるじゃないか。
こういう時のために貯めておいた口上とセリフがたくさんあるんだ。
「闇。全てを飲み込み無に帰す全ての人間の畏怖の対象。それが魔王の左手の力だ」
決まったな。これ以上かっこいいセリフはない。
三日三晩考えてメモして練習しておいた甲斐があったぞ。
余談だが練習の様子をメアに見られて死にそうになったが一週間分のおやつを奢ることで口を封じておいた。
「そんな出鱈目な魔法があってたまるかぁぁああ!」
《魔力付与!!》
カイン先生は剣に青色の魔力を込め切りかかってくる。
その攻撃を今度は光の剣で防いだ。
そして左手の闇の力を凝縮し、脇腹を殴り飛ばす。
殴り飛ばされたカイン先生はそのまま壁際まで吹き飛ばされる。
「がはっ、き、貴様……盾を殴打に使うとは……」
「知らないのか?剣は相手の攻撃を防ぐためにあって、盾は殴るためにあるということを」
俺はその隙を見逃さず追撃のために距離をつめ左手を振りかぶる。
しかしその間に割って入ってきたミゲイリ先生によって阻まれる。
土属性の魔法で地面から壁を生成され行く手を阻まれ、俺が怯んでいる隙に俺の周りを岩で囲まれ閉じ込められてしまった。
「回復魔法をかけた。動けるか?」
「は、はい……師匠」
俺は光の剣で岩の壁をバラバラに切り刻み脱出する。
この程度の時間稼ぎにしかならん。さっきの攻撃の回復をされたようだが大したことじゃない。
俺は続いて光の剣の実験に移るべくこれ見よがしの右手に持った光の剣を見せつける。
「こっちの剣はもっといいぞ」
光の剣を顔の前に構える。
振りかぶると光の剣が輝くとともに三倍ほどの長さに伸びる。
振りかぶった剣を真横に振り、一方的に攻撃を行う。
カインは驚愕しつつも姿勢を低くし回避するが、後ろの壁は轟音と共に抉り取られ大きな傷痕が残る。
「な、なんなんだこれは……!?こんなの魔力付与した剣でも受けきれるかどうか……!」
「おいおい後ろに注目してよそ見か?」
既に距離を詰めていた俺は光の剣を上から振り下ろす。
カインは寸前のところで魔力付与した剣で受け止めるが俺はさらに魔力を込め剣ごとぶち破ろうとする。
しかし剣を切断できそうな直前で真横から暗器が二本俺の首を目掛けて飛んできたため紙一重で後方に避ける。
ちっ、あと一歩のところで。
カインは死が直前に迫ってきた恐怖からか肩で息をしていた。
(師匠が攻撃をはさまなかったら……私は死んでいた……!)
「貴様のような素人に私が負けてたまるかぁ!」
「まだ実力差が分からないのか」
俺は再び光の剣を顔の前に真っ直ぐ構え、もう一つの魔法を唱えた。
《光波》
解説し忘れていたが光の剣の力。
形状自在、伸縮自在。光波発動可能。
三度横薙ぎを放つと剣の先端から閃光のごとき光波が発生しカイン目掛けてかまいたちのごとく疾走する。
「なっ……!」
カインは必死に剣を振り俺の放った三つの光波を叩き落とすが剣は傷だらけになっている。
「光属性魔法とは一体……!?」
「二度目だ。よそ見」
光波と傷だらけになった剣に意識が向いているのを見逃さず俺は真横に瞬間移動のごとく移動し、防ごうとしていた剣ごとカインと呼ばれていた男をバラバラに切断した。
「まずは一人」
「カイン……!」
「どうした?弟子が殺されて復讐心にでも駆られたか」
「まさか。そいつが殺されたのは単に実力が足りなかったからだ……と言いたいところだが、お前は明らかに異常。ここからは本気で行かせてもらうぞ」
「あぁそう。それならこっちは……」
俺は両手を広げ闇の盾と光の剣を解除した。
「なぜ魔法を解いた」
「そっちが本気で行くなら、こちらはもう少し手加減してやろうと思ってな。なによりこの魔法をお前程度に使うのはもったいないしな」
「貴様……っ!」
武人としてのプライドに傷がついたのかミゲイリは憤慨する。
いやまぁ、本当は使用中魔力がゴリゴリに減ってくからなんだけどな。
ちゃんと実戦で使いたかったのを叶えられたのは満足だし、あとはいいや。
「お遊びはここまでだ」
ここからが俺の本領発揮だ。
レーヴァテインの力を見せてやる時が来た。
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