18話 なんで封印といえば地下室なのか答えられる人いない説
<エイル視点>
スルトとの魔法の制御の訓練を終えた翌日の朝。
寝不足気味な自分の体に鞭打って起き上がる。
今日は学園長から任された例の調査をこなす日だ。
学園長から地下室の鍵を渡され地下への階段を降りて扉を開き地下室の広間へとたどり着く。
地下とはいえ広間は数百人は入れそうなほど広く、いくつも柱が柱が立ち並び天井を支えている。
壁には人々が天から降りてきた女神を崇める様子が描かれた絵画が飾られておりこの部屋の豪華さを主張しているかのようだった。
ここは主にちょっとした講義や模擬戦場が空いていない時の剣術指導などに使うらしいがこの学校はそもそも場所がたくさんあるので滅多に使われないし人がこないらしい。
地下室広間を過ぎて更に奥の階段を降り、立ち入り禁止と書かれた扉を鍵で開け通ると更にもう一つ厳重に封印された扉がある。そこを専用の鍵で開錠する。
扉を開ける前から凄まじい魔力を感じる。
意を決して中へと入ると真っ先に目に入ったのは言うまでもない、部屋の真ん中に厳重に封印されている魔導書だ。
見たこともない大きな魔法陣の上に紋章が描かれた紙でぐるぐる巻きにされた魔導書が宙に浮いている。
間違いない、これが禁忌の魔導書だ。
魔導書はスキルが埋め込まれた特殊な本で読むことでそのスキルを得ることができるという。
この魔導書は禁忌の魔導書と呼ばれるくらいだから相当強いスキルが封じられているのだろう。
「もし、私がこの力が手に入れることができたら……」
そんなことをほんの一瞬だけ考えてしまう自分のことに気が付きハッとしてしまう。
そんなことをすればどうなるかなんて分かりきっているというのに。
学園を追放されどこにも私の居場所は無くなってしまうだろう。
––––でも、もしそれができたとしたら私の人生は変わるのかもしれない。
落ちこぼれと言われることもなくなり、みんなを見返すことができて、私は強くなって……
しかし、そんなことを考えたところでできないことを妄想しても仕方ない。
頭の中の邪念を振り払い任務ををこなすために辺りを見渡す。
周囲には乱雑に魔法の本が落ちている。
ロキシスとかいう組織がこの場所に入ってきていないかを調査するとのことだったがらこれだけ厳重に何段階にも扉があるというのに、この部屋まで入ってこれるものなのだろうか。
学園長の言葉を疑いながらも部屋の周りに誰かが立ち入った証拠がないかを捜索する。
しかしどこにもそれらしい痕跡は見当たらない。
あと残されているのは……
禁忌の魔導書の近く。
流石にそんなことは無いと思うけど私が近づくことで封印に悪影響があったりしないだろうか。
しかしこのまま何も成果もなく戻ったら学費の援助の話がなくなってしまうかもしれない。私は覚悟を決めゆっくりと魔導書に近づいていく。
肌がピリピリと刺すような感覚がして鳥肌が立つ。
一体ここに封印されている魔導書はどんな危険なものなんだろうか。
考えても仕方ない。周りに何かないだろうか……
「これは……」
魔導書のすぐ下に何か布きれのようなものが落ちていた。
私はゆっくりと近づき拾い上げる。
それは明らかに何か服からちぎれたような布の破片。
学園生のものでもましてうちの学校のものじゃない。これは有力な証拠になるはず。
私はついに有力な証拠を見つけたと思い、急いで戻っていった。
――あまりに都合よく敵が痕跡を残しているという違和感に気づくこともなく。
****
私は急いで学園長室に向かい、魔導書の部屋から手に入れた証拠品を学園長室に提出した。
「魔導書のある部屋に落ちていました」
「なるほど、部屋のどこに落ちていましたか?」
「魔導書のすぐ下です」
「……本当にそこにありましたか?」
「本当です」
そこまで私は信用されていないのだろうか。
学園長はしばらくの間考えた後口を開いた。
「なかなかの成果です。有力な証拠となるでしょう。約束通り学費は免除します」
「ほ、本当ですか!?」
私は思わず学園長の作業机に乗り上げてしまう。
そんなことをしても学園長は顔色一つ変えようとしない。
冷静になり自分の行動に気づき急いで元の立ち位置に戻り咳払いをする。
「といっても今期だけですがね。来期の学費は遅れずに支払いをお願いします」
「は、はい。それでは失礼します」
浮き上がる気持ちを抑えて平静を保ちつつ私は急いで学園長室を後にした。
****
「……彼女は貴方たちが言う通り適正があるようです」
「そのようだな」
エイルが去った後、特殊な魔装で学園長室の隅に影を潜めていた男がいた。
男は魔装を脱ぎ姿を現す。
現れたのは入学式で学園長が生徒に紹介もされていた王都直属の騎士部隊を指揮しているミゲイリ先生だった。
「普通の魔法使いなら部屋に入ることさえできないというのに、禁忌の魔導書の目前まで近づけるとは。今度は期待できそうだ」
「今回は彼女を実験台に?」
「今更怖気づいたか?」
「そんなわけ……」
「それとも学園生を一人売ったことに今更罪悪感を感じて善人ぶるのか?」
「元々私は善人であるつもりはありませんよ」
「決行日は伝えた通りだ」
「はい」
****
<スルト視点>
エイルから無事学費が免除されたという話を聞いた。
無表情を装っていたがエイルはあきらかに嬉しそうだった。
これはいいタイミングだ。この隙を見逃さずエイルからの信頼を確固たるものにしておくべきだ。
「祝賀会も兼ね週末に皆で買い物にでも行こうではないか」
「え、でも私お金が……」
「学費が免除されるなら少しくらい余裕があるだろう。たまには自分を労ってやったらどうだ」
「うーん……」
エイルは少しの間考え込んだ後、納得したのか快く返事をしてくれた。
「そうね、そうするわ」
「スルト……私は?」
いつの間にか背後にいたメアがまたしても暗黒なオーラを身に纏っていた。
なんだこの現れ方。なんかホラー映画で見たことある気がする。
「メア、丁度良かった。メアも誘おうと思っていたところだ」
「あ、そうなの?私も行くー♪」
そう言うとあっさりと態度を変え楽しそうにしだすメア。
余程の寂しがりのようだな。うん。
割と怖いからあの不穏なオーラ出すのは控えてほしい。
って、魔王が配下に怖がってどうする。精進が必要だな。
そういうわけで次の休日、俺とメアとエイルの三人は王都の町へ買い物に行く約束を交わしたのだった。
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