19話 誕生会とか祝賀会とかやろうって言ってくれる友達が欲しい人生だった

「王都だー!」


 メアは来てからというもののずっとはしゃいでいる。

 一方俺はというとずっと表情を変えず落ち着いている。魔王とは高笑いこそすれど、はしゃいだりなどしないのだ。

 横でエイルも俺と同じ状態――かと思っていたらよくよく見るとずっとそわそわしている。

 それどころか目の下に隈が見えるような。

 まさかとは思うが、昨日楽しみすぎて眠れなかったとか言うまいな。小学生じゃあるまいに。


「どうした、眠そうだな」

「いや、その……昨日ちょっと寝不足で……」


 そのまさかだったわ。

 案外子供っぽいところもあるんだな。

 そういえば休日もずっと学費のために働いてばかりでどこかに遊びに行っているところを見たこともなかったしな。楽しみになるのも無理もないことか。


『スルト、あそこの魚が食いたいんだが』

『あとで買ってやる。外に出てくるな』


 影から外の様子を覗いていたカゲヌイがさりげなく向かい側にあるレストランを指をさして要求してきた。

 というかこの距離で人もたくさいるというのによく魚の匂いが分かるな。

 猫も実は嗅覚が強いのかそれともこいつ特有の勘の良さか。


「スルトはどこに行きたい?」

「そうだな、やはり武器屋、防具屋、もしくは魔導書やまだ見ぬ魔法について記された本屋とかだな」


 俺の要望はそれに尽きる。魔王たるもの常に貪欲に自分の力を身に着けねばならんのだ。

 しかし、それを聞いたエイルは呆れてため息を漏らしていた。


「貴方ね……別にこれから魔物退治に行くわけじゃないんだから。あくまで遊びに来てるのよ?」

「俺は俺の行きたいところに行き、やりたいことをするまでだ」

「さいですか……それに女子を二人つれてそんなところに行くなんて……ねぇ、メアさん」


 エイルはメアに同意を求めるがメアの反応はエイルが求めていたものとは違った。


「私はスルトが行きたいところならどこでも行くよ?」


 ま、眩しすぎる……

 俺とエイルはあまりの眩しさに目が眩んでしまう。

 心なしかメアの後ろに後光が射している気がする。

 まさかメアは光魔法の使い手だったのか?いやそんな事実はどこにもないはず。

 くそっ、まさか俺以外に闇属性と光属性の使い手がいたとは……


「い、いいだろう……その気持ちに免じて今回はメアの行きたいところに行くがいい……」

「え?いいの?やったー」


 くそっ、天然の光属性にやられてしまったか。

 メアは闇の部分があるように見えて光の部分もあるからな。

 ある意味二面性を持っていると言える。

 やはり魔王は光属性、聖属性、浄化に弱いということか。

 このくらい耐えられるようにならねば。精進が必要だな。


****


 最初にやってきたのは王都の服屋だった。

 王都にいくつも点在する服屋の中でも学園生や若者、特に女性人気の高い店らしい。

 ファンタジー世界で服屋といったら俺としては防具屋なのだが……


「ねぇスルト、どっちが良いと思う?」


 メアは二着の服を右手と左手に持ち俺に見せてきた。

 右手にあるのは深紫色のシルク生地でできたドレス。晩餐会でこの服を着ていけば誰もがその美しさに見惚れ目で追うだろう。

左手にあるのは華やかな桃色でワンピース。胸のリボンが程よいアクセントとなっている。

 それを見て俺が抱いた印象はただ一つだ。


 違いが分からん!!!!!


 え?さっきの説明?適当にそれっぽく服を語ったに決まってんだろうが。

 リボンとかついてるついてないによる違いとか分かるわけないだろうが!

 どっちがかっこいいかとかどっちの方が魔王らしいかとか言われたらいくらでも答えられるが服の違いなんて分かるわけがない。

 異性をきちんとエスコートできる技術も人として生きていくためなら必要なんだろうが、魔王となる俺にはいらない技術だからな。


「そうだな……そっちの桃色のワンピースの方が良いと思うぞ」

「え、本当?これ買おうかなー」


 しいて言えばドレスの方は晩餐会とか貴族の集まりで着てきそうな感じだし。普段使いという意味ではワンピースの方がいいだろう。多分。

 あとは本人が決めることなので後は知らん。


「ね、ねぇ……スルト」

「ん?」


 今度はエイルが服を見つめながら俺に話しかけてきた。

 これは、まさか……


「その……どっちがいいかな」


 お前もかよぉおおおぉぉお!!


 さっきのメアの服選びで俺の脳みそのリソースは8割も使ってしまった。

 残りの2割でエイルが満足行く回答ができるとは思えんぞ。

 さて、どうしたものか。


 エイルが指さしている場所には二着のワンピースがある。

 青色のワンピースと白色のワンピースだ。

 だから違い分かんねぇよ!

 色以外に何が違うというんだ。

 しいて言えば白いワンピース方は腰から下がレースがかってて透き通っているし肩から先に生地がない。少し大胆すぎるんじゃないだろうか。

 青色のワンピースの方は肘の近くまで生地があるし寒くなさそう。あと腰から下にかけて紺色になるいわゆるグラデーションがかかっている。

 グラデーションって俺好きなんだよな。かっこいいし。

 よし、こっちが良いって言っとけばいいや。


「そちらの青色の方が……」

「あ!ちょっと待って!ここの一列の服もおしゃれで……ねぇねぇ、どれがいいかな」


 選択肢が10倍くらいに増えやがったぁあああああ!!!!


****


 そんなこんなで脳みそのリソースとメモリは半年分を使い果たした後。

 メアは俺が選んだ服を無事購入。

 エイルは選んだはいいがお金を節約しておきたいと買うことは無かった。

 俺の脳みそ返せ。


『……分かった、分かった。そう慌てるな』

「スルト、何か言った?」

「なんでもない。それより、あそこのレストランで昼食にしないか?」


 俺は向かい側にある看板に大きく魚の絵が描かれた少し大衆向けといった感じのレストランを指さす。


「あ、いいねー。あそこ一度行ってみたかったんだ」

「そうしましょうか」


 メアとエイルは俺に賛同しレストランへと向かう。

 俺の影の中で約一名が震えていたような気がするがおそらく気のせいだろう。うん。


****


 俺たちはレストランへと入りテーブル席へと座る。

 ちなみにメアとエイルは隣同士で俺は向かい側の席で一人になるように調整した。

メアが俺の横に座りたがっていたがなんとか納得させた。

 理由はこの後分かる。

 

「この魚料理を三つ」

「貴方、そんなに食べれるの?」

「問題ない」


 なんでって、食べるのは俺じゃないからな。

 しばらくすると料理が運ばれてくる。


「ここ良いお店ね」

「そうだねー、景色も良いし」

「そうだな。ほら、あそこにも珍しいものがあるぞ。見てみろ」

「「え?どこ?」」


 メアとエイルが視線を逸らした瞬間、俺は魚料理を手に取り俺の右隣にある俺の影に向かって投げつける。

 そして影からカゲヌイがとびだしそれをキャッチしてそのまま影へと戻っていく。


「ちょっと、珍しいものなんてどこにも……」


 エイルが視線を戻し俺の皿へと目をやる。

 さっきまであったはずの魚料理は完全に姿を消していた。

 その異変に気付いたエイルは目を丸くする。


「……あれ?ちょっと、私の目がおかしいの?さっきまでそのお皿の上に料理がのっかってたような……」

「食ったに決まっているだろう」

「いやいやいやいや、私たちが目を逸らしたのはほんの一瞬だったような気が……」

「気のせいだろう。それより、自分たちの料理を食べなくていいのか。冷めるぞ」

「あ、う、うん……」

「いただきまーす」


 頭に疑問符を浮かべまくっているエイルと違い、全く気にすることなく料理を頬張るメア。

 俺は二人に気づかれないよう俺は自身の影に問いかける。


『満足したか』

『足りん。もっとだ』

『強欲だな』

『お前には言われたくない』


 仕方がないので俺は通りがかった店員に追加の注文をする。


「魚料理。今度は五人前」

「は、はい……え、えぇ?」

「あ、貴方……いつからそんな大食いになったのよ……」

「今日からだ」

「メアさん、この人って普段からそんなに食べるの?」

「え?なーに?」


 口いっぱいに食べ物を頬張っているメアには何も聞こえてなかったらしい。

 味方がいないといった表情でエイルは諦め顔だった。


 しばらくして店員が五人前の魚料理皿を持ち運んでくる。


「お待たせいたしました、こちら魚料理になりま……きゃっ!」


 次の瞬間、新人らしき店員がつまづいて料理が乗った皿を落とし、皿が俺の顔にぶち当たってしまう。

 さながらパイ投げを受けたみたいにきれいに顔にひっついていた。何故。

 

「も、申し訳ありません!お怪我はありませんでしたか!?」


 こいつ、魔王に対して無礼千万な奴だ。今この場で処断してやろうか。

 そう思っているといつの間にか向かい側の席からメアの姿が消えておりあろうことか店員に食って掛かっていた。


「スルトに何をする……!」

「すすす、すみません、ごめんなさっ」


 またしても暗黒のオーラを身にまとっている。

 たまにこうやってメアは暴走する時がある。

 一般人がメアのあの握力に耐えられるとは思えん。

 俺は顔に刺さった皿を取り除き、店員の両肩が潰される前に爆速で移動しメアを引きはがす。


「メア、やめい。俺は気にしてない」

「でも……」

「命令だ、やめろ」

「分かった」


 メアはようやく大人しくなり静かに席に戻っていった。

 こんなことになっては怒る気もなくなるし、なによりも俺には新人の店員よりも強い怒りを向ける相手がいた。


「……あれ?お皿の上にのっていた料理はどこに?」


 店員は散らばったはずの料理を片付けようとするもどこにも痕が残されていなかった。

 一瞬の早業だった。俺の顔目掛けて飛んでくる皿と料理。

 その刹那、俺の影からカゲヌイが飛び出し宙に浮いた状態料理皿から料理だけ掴み口に入れるとそのまま影に戻っていった。そして残された皿は俺の頭にぶち当たるという構図だ。

 こいつ……魔王を庇うのが配下の役目だろうに。

 罰として今晩夜食を要求してきても用意してやらん。


****


 カゲヌイのせいでひどい目にあった。

 お小遣いも大分減ったし。猫なんだから魚くらい自分でとってきてほしいものだ。

 まぁいい、次は俺好みの場所だし許してやろう。

 そう、次行く場所は武器屋だ。

 王都には一体どんな品が並んでるのか見るのが楽しみだ。



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