20話 異性からプレゼントをもらったことはあるか?俺は無いが

 俺たちは王都有数の武器屋に訪れた。

 噂によれば王都直属の騎士もここで剣を選ぶことも多いという。

 店の中は奥に広がっており、奥に行くごとに値段の高い剣が並んでいる。

値段の低いものは乱雑に刺しておかれており、値段の高いものは壁棚に丁寧に飾られていている。

 王都有数の武器屋なんて言うものだから魔剣が売られているものかと思ったが少し期待外れだな。

 まぁ例えどんな剣があったところで俺のレーヴァテインには敵わないだろう。


 メアは壁棚に飾られている一つの剣をじっと見つめていた。

 軽さと鋭さを重視したその剣は細く長く、持ち手も剣士が剣を振りやすく整えられており、洗練され美しく伸びた刃はまさに職人技というべきか。

 確かにあの剣なら速さと技を主体とするメアにはぴったりだろう。

 騎士を志すならば生涯を遂げる伴侶を選ぶことと同じように苦楽を共にする自分の剣を選ぶことを夢見るというもの。

 実際お金か実績のある騎士は自分の目で選び抜いた職人を直接指名し自分用の剣を打たせることもあるという。

 まぁでもそういう職人って頑固なの多いから金だけじゃ頷いてくれないことも多いらしいが。


 メアはその剣を手に取ると一番奥で腕を組みながら座っていた髭を生やしたいかにも職人気質みたいな見た目をしたおっさんに近づき話しかける。


「この剣、試し切りしてもいいですか?」


 案外怖いもの知らずだな。

 金持ってねぇなら帰れ!とか冷やかしはお断りだ!とか言われそうだが。

 職人のおっさんはついてこい、と手をふり店の奥の部屋に連れて行く。

 その部屋は簡素な鍛錬場になっておりダミー人形や切株といった剣の具合を確かめるための部屋になっていた。

 おそらく剣を購入したい人たちはここで試すのだろう。

 職人のおっさんは鍛錬場の横にある椅子に座り込む。


「そのにある切株でも使え」

「分かりました」

「言っておくが、その剣は嬢ちゃんに使えるような品じゃ――」


 と、職人のおっさんが言いかけている間に既にメアは剣を構えており瞬きをする余裕があるかどうかの刹那に剣を動かしていた。

 そしてメアは瞬く間に試し切り用の切株を細切れにした。


「やっぱりいい剣ですね。これ」


 俺とエイルは見慣れているので驚かないが(エイルも一応絶句はしているが)職人のおっさんはさっきまでの不愛想な表情はどこに言ったんだってレベルで口をあんぐりとして目を丸くしていた。


「……嬢ちゃん、名前は」

「メア・オーティスです」

「メア……まさか噂のルーン魔法学園の剣術試験主席入学生で、それだけでなく騎士グローレンスから推薦を受けたというあの……!?」

「あ、はい。そうです」


 職人のおっさんは椅子から立ち上がるとどすどすと足をたてて歩いて行き剣を持ったままのメアの両手を力強く握る。

 ちょ、あぶねぇ、あぶねぇって。


「さっきは実力を侮るようなことを言って悪かった、ぜひ嬢ちゃんの剣を俺に打たせてくれねぇか!」

「え、えぇっと……」


 メアは困ったような表情をして慌てていると一瞬こちらを見て「どうしよう」と目で訴えかけてきた。割とこういうところ弱いんだよなこいつ。


「いいんじゃないか。こんな機会そうそうないだろう」

「えっと、じゃあ……お願いします……」

「よし、任せてくれ!」


 その後、採寸したりメアの剣の振りの癖とかを職人のおっさんが分析したりしてるうちに時間が過ぎていった。


****


「予定よりも大分かかったな」

「あはは……ごめんね……」


 武器屋のあとは王都の本屋に行ったりアクセサリーショップに行ったりと東行西走といった感じだった。観光に来たつもりがむしろ疲れた気もしてくる。

 配下に付き合うのも魔王の務めとはいえ大変だ。

 ちなみに剣ができあがるのはしばらく時間が必要とのことだったので俺たちはそのまま武器屋を後にした。

メアが質の良い剣を持つことで戦力が上がるならこちらとしても願ったり叶ったりだ。


「あ!見たことないお菓子が売ってる!買ってくるね!」


 そういうとメアはお菓子の店に向かって走っていってしまう。

 さっきレストランで散々食べたというのに……甘いものは別腹というやつか。

 そんなことを考えているとエイルが横で名残惜しそうな顔をしていた。


「そろそろ戻らないといけないわね」

「エイル」


 俺は本屋で購入していた一冊の魔法の書を手渡す。

 受け取ったエイルはそれがなんのためのものか分からないといった表情をしていた。


「これは?」

「魔法の制御について書かれた本だ。身体強化といった補助魔法や治癒などの回復魔法の制御について書かれている」


 エイルは受け取った魔法の本を眺めながら首をかしげた状態で固まっており、どうやら俺の意図を読み取ることができないらしい。


「気持ちは嬉しいけど……前にも言った通り私は火属性の攻撃魔法しか使えなくて……」

「そんなのはやってみないと分からないだろう」

「一度適正がないと確定した魔法はどうあがいても使えないものなのよ」

「お前には魔魂スキルがあるんだろう?もしかしたらそれもお前の恐れから来ているだけかもしれないぞ。何があったって不思議じゃない」

「そんなわけ……」

「言い切れるのか?」

「…………」


 俺にはどうしてもエイルに補助魔法や回復魔法を覚えてもらう必要があった。

 なぜなら……ゲームにおける魔王の配下というのは必ず補助魔法を使って魔王を強化したり回復して勇者たちを苦しめるものだからだ!

できたら蘇生魔法とか使って魔王が死んでもよみがえらせてほしいところだ。


「分かった。受けとっておくわ」

「あとこれもな」

「え……?」


 俺が渡したのは竜のウロコ(のレプリカ)を三枚重ねた羽飾りの真ん中に前に俺が三日三晩かけてデザインした俺の魔王としての紋章が描かれている。

 魔王の象徴といえる歪曲した二つの角、四方向に刻んだ傷跡、そして真ん中には俺の相棒たるレーヴァテインを描いたものを追加してある。我ながら最高の出来だ。


「これを……私に?」

「お前に似合うと思ってな」


 エイルは少し頬を赤らめてまじまじと羽飾りを見つめている。

 あまりのかっこよさに痺れているのだな、気持ちは分かるぞ。


「その……ありがと」

「スルト、私には?」


 メアはいつの間にか戻ってきており俺とエイルの会話に割って入ってくる。


「メアには前違うやつ渡したろ」

「私も新しいのが欲しい」

「我慢しろ、また今度作ってやる」

「本当?約束だよ」

「というかその両手に四つも持ってる三角のパイみたいなものはなんだ」

「竜の尻尾パイだって。王都でも人気らしいよ」


 メアのことはひとまず置いておくとして。

 くっくっく、エイルのやつすっかり俺に服従する気でいるようだな。

 俺が渡した羽飾りに仕掛けがしてあることに気づきもしないとは。

 あとは組織とやらがどう出るかだな。


****


<エイル視点>


 私はその夜、寮に戻りスルトから渡された魔法の本を読みふけっていた。

 補助魔法、回復魔法といった魔法について書かれている。

 一番最初に自分の魔法の適正を知り、火属性魔法以外の魔法を学ぼうとしなかった。

 自分にはこれしか方法はないと思い込んで。


 身体強化魔法。確かに私が体が弱いということを知った時にこの魔法を使えればその弱点を克服できると思ったことはあった。しかし現実は非情であり、私には下級の補助魔法すら使えなかった。

 回復魔法くらい使えればせめて誰かの役に立つことができたかもしれないのに。それすらも使うことはできない。どんなに適正がなくとも初級魔法程度ならほとんどの魔法使いが使えるというのに。


 こんな私に彼はやってみないと分からないと言ってくれた。

 彼は私に色んなことを教えてくれた。

 魔法の制御のやり方だけじゃない、私の魔法の力にはまだ可能性があるということ。

 そして、友達の時間の楽しさも思い出させてくれた。


 スルトからもらった羽飾りを眺める。

 真ん中に描いてある紋章はお世辞にも上手いといえない絵が描かれていた。

 正直何を描きたかったのかもよく分からない。紋章か何かなのだろうか。

いきなり翌日つけていったら嫌がられるかな。

 でも本人もそのつもりで渡したんだろうから、思い切ってつけて行こうかな。


 私はそんなことを考えながら寝床についたのだった。


****


 王都のどこかの建物にある地下室。

 じめじめとした埃っぽい怪しげなその部屋にはスルトが二日目に遭遇した剣を持つ若い男、学園長室に潜んでいた杖を持った初老の男、そして顔に刺青の入った男の三人が密会を行っていた。

 まず初めに初老の男が口を開く。


「揃ったようだな」

「たかが女一人攫うのにこんなに人数いるのか?」


 刺青の入った男が木箱に腰掛けながら頬杖をつき、心底面倒くさそうに投げかける。


「禁忌の魔導書が暴走する可能性がある。そうした場合再封印には最低でもこのくらいの備えをしておいた方がいいだろう」

「けっ、臆病なことで」

「貴様、師匠を侮辱する気か!」

「寄せ、カイン」


 剣を持った男が刺青の入った男の侮辱的な態度に憤慨する。

 それを初老の男が静止する。


「んで?任務の再確認でもすんのか?めんどいから俺はやんねーぞ」

「任務は既に把握しているのだろう。命令通りに任務をこなしさえすれば文句を言うつもりはない」

「忘れたくても忘れられねーよこんな任務。それにしてもまさか天下の魔法学園でこんな大規模な実験をやるなんてな」

「口を慎め」

「うるせーなおっさんは。まだ結構時間まだ時間があるだろ、俺は隣の部屋でひと眠りすんぞ」


 刺青の入った男は大あくびをしながら扉を雑に蹴り開けるとそのまま足で扉を閉じた。

 そしてすぐに隣の部屋からいびきが聞こえてくる。

 剣を持った男はその態度が気に食わないようだった。


「なぜあのような危険な男をこの任務に……!」

「上からの命令だ。今回は大掛かりな任務だ。

 学園に混乱を招きたいのだろう。

 でなければ学園中にあんなものを仕掛けないだろうし、学園中にあんなものを仕込まない。

ところで、例の仕掛けは終わっているのか?」

「学園の中に潜んでいる我々の部下に命令し設置済です」

「いいだろう」

「……しかし」

「文句があるなら任務を降りることだ」

「いえ、任された任務は最後までやり遂げます」

「いいだろう。作戦開始まで準備しておけ。作戦開始は、明日、学園の予鈴が鳴ったと同時だ」


****


<スルト視点>


 一方俺はと言うと学園の一番高い場所から学園を見下ろしていた。

 こういう時に限ってカゲヌイはついてこない。

 明日の予定を話してあわよくば手伝わせようと思ったのに。

 まぁいい。どの道あいつみたいな雑な奴はこういう細かい作業に向かないだろう。


「さてさて、学園のあちこちに仕掛けもし終わったし」


 俺が学園中に仕掛けたのはエイルに魔力を込めさせた長方形の箱。

 そう、これは前世におけるプラスティック爆弾を模したものだ。

 強い魔力を込めるほどより派手に大爆発する。

 まさかエイルも俺の悪事の片棒を担がされていることを知りもしないだろう。

 だがこれは本人が望んだことだ。

 学園を破壊し皆殺しにしたいという本人の望みをな。

 そうだ、エイルがしたがっているのは皆を見返すことなどではなく、皆を殺すことなはずだ。

 爆弾は試作段階で実験をしたわけじゃないがおそらく大丈夫だろう。

 さて、ここまで来たら日を待つだけだ。


「決行日は、明日学園の予鈴が鳴った瞬間だ」

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