16話 魔法の訓練ときたら的を派手に破壊するしかない
休みも開け、入学して学校生活二週目が始まった。
午前は火の玉を軽く飛ばすような初級魔法の授業を行い、午後は模擬戦場でそれを実践するという授業だった。
「本日は魔法の訓練を行います」
アマンダ先生が模擬戦場にでてそう宣言する。
剣術の模擬戦に引き続いて今日は魔法の訓練をするらしい。
真ん中に的がある木の人形が横並びに10個ほど置かれている。
おそらくあれに当てていくのだろう。
「今回はあの的に全部に魔法を当てるまでの時間を競ってもらいます。まず最初は……」
「先生、俺からやります」
先日メアにボコボコにされて体のあちこちに包帯を巻いているグレンが手を挙げてそう宣言する。
メアの情報によれば休むように言われたようだが無理やり授業に出てきたらしい。
メアにはきちんと謝りに行かせたが負けてないの一点張りで謝罪を受け入れてくれなかったとか。意外と根性あるな。そのことについては見習うべきところかもしれない。
まぁあんだけ高を括っておいて女の子にボコボコにされちゃ立つ瀬がないよな。
おそらく今回の授業で汚名返上をするつもりなのだろう。
「そ、それじゃあグレン君、よーい、はじめ!」
先生が開始を宣言すると同時にグレンは魔力を練り上げ右手に炎を生み出しそのまま的に向けて撃ちだす。
その炎の弾は寸分たがわず的に当たる。
そして次々と的に当てていきあっという間に10個の的に当ててしまう。
「きゅ、9秒……」
生徒の中から驚きの声が上がる。
しかし俺も同じ気持ちではあった。
こいつ、剣術だけではなく魔法もなかなかの腕だ。
魔法を連続でしかも移動しながらとなるとどうしても当てづらい。
魔力を籠めるのにも時間がかかるため焦るとどうしても失敗してしまうものだ。
だがあいつは焦りも一切なく正確に10個の的に魔法を当てたのだ。
しかも今はあの怪我をしているためにこれが絶好調でないということだ。
性格に難が無かったら俺の配下に誘っていたのかもしれないというのに。
色々ともったいない奴だ。
「じゃ、じゃあ次は……」
「おい落ちこぼれ」
グレンはエイルを指をさして「落ちこぼれ」という言葉を唱える。
それを聞いたエイルは目がぴくっと反応する
メアに勝てないからって今度は確実に勝てる奴を相手にするとはつくづく小さい奴だ。
しかし夜の模擬戦場で撃っていた魔法をそのまま使うことさえできればあのくらいの的を壊すくらいわけないのではないだろうか。
「次はお前がやってみろよ」
「な、なんで私が……」
「魔力量だけは学園でもトップなんだろ?やってみせろよ」
「……分かった」
エイルはゆっくりと的の前へと歩いていき、ゆっくりと手を前に出し構える。
しばらく待っているがエイルは魔法を込める気配すら見せない。
それどころか額に汗を浮かべながら苦虫を噛み潰したような顔をしている。
どうしたというんだ。
昨日模擬戦場で撃った魔法をそのまま撃ってやればおそらくは的が全て消し飛ぶだろうから、彼女がやりたがっていた皆を見返すのだってできるというのに。
「どうした落ちこぼれ!まさか魔法も使えないくせに魔法学園に通ってんのかよ!もしかして試験はコネで無理矢理通したんじゃないのか?」
家で落ちこぼれって言われてるならコネで通るわけないだろ。って突っ込みたかったがまだその時じゃない。
俺が介入するのはもう少し先だ。
「うるっ……さい……!!」
落ちこぼれという声にだんだんイラついてきたのか
エイルは明らかに過剰な魔力を込め始める。
エイルの手の中にある火の玉はどんどん膨らみまるで破裂寸前の風船のような、爆発寸前の爆弾のような危険さを醸し出していた。
これ、まずくね?
「あっ……!!」
予想通りと言うべきか、エイルは発現させようとしていた魔法を制御できなくなり、魔法は待った見当違いの方向へと飛んでいってしまう。
具体的には見学していた生徒達の列へ。
寸前のところで俺がレーヴァテインを抜き魔法の軌道を逸らし的の方へと飛ばした。
飛んで行った魔法は爆散し的どころか地面ごと抉り取り大きめのクレーターをその場に残していた。
ある程度魔力を吸収する素材でできているこの場所をあんなふうにするとは凄まじい威力だ。
「だ、大丈夫ですか!?」
後ろでアマンダ先生が魔法が当たりかけた生徒の様子を見に行ってくれる。
「あんな危ない魔法を撃つなんて……」
「もし当たってたらどうなってたか」
「まさか、わざと当てようとしたんじゃないの?」
クラス中から陰口やエイルを危険視する声、根拠のない憶測が飛び交う。
確かに魔力量でいえばトップクラスだがそれを制御する力が無いといった具合だな。
さてどうしたものか。とりあえず次は俺が魔法を披露して話を変えるか。
友達との会話で自分のギャグが滑ったら強引にでも話題を変えるのが一番なことと同じようにな!
「先生、次は俺がやってもいいですか」
「え、あ、はい……構いませんが……」
手を上げアマンダ先生にそう宣言した。
そして的の目の前に俺は立つと、俺は両手に魔力を込めそれを少しずつ炎の形に変換していく。
それはエイルの放ったような巨大な塊のするのではなくあくまで掌の中で収まる範囲のままで漂わせる。
少しずつ少しずつ魔力を練りその炎を細く長くそして力強く伸ばしていく。それはやがて一つの生き物の形となる。俺はその生き物であり魔法の名を唱える。
《炎龍》
俺の放った炎龍は空を舞うかのごとく的に向けて泳いでいき10個の的を輪くぐりのように優雅に貫いていく。炎龍の通った道には鮮やかな軌跡が残っているのが見える。
その魔法の美しさに周りで見ていた生徒たちは思わず息をのむ。
「な、7秒……」
「グレンを超えただって?しかしそれよりも……」
「なんという美しい魔法だろうか……」
皆が賞賛するのも無理はない。
これは俺のとっておきの魔法だからな。
見た目重視のやつだけど。
しかしこれで終わりじゃない。
俺は再び炎龍を的のある場所まで泳がせる。
そして次の魔法を唱えた。
《
俺が唱えた瞬間、先ほどのエイルの魔法に勝るとも劣らない炎の爆発が起き、10個全ての的を巻き込んだ大爆発が巻き起こった。
「な、なんだあの威力……」
「や、やべぇよ……」
あまりの威力に生徒達は驚愕している。
「……あの、スルト君? 流石にやりすぎです……」
アマンダ先生が黒焦げになった的を見ながら顔を引きつらせながら諭してくる。
少しやりすぎたか。 あの的ってやっぱり高かったりするんだろうか。
思わず周りからは拍手が沸き起こる。
そうだそうだ、もっと褒めたてろ。
「く、くそ……!」
せっかくエイルを貶めて自分の株を元に戻したつもりがすっかり話題が俺の魔法にかき消されたことにグレンは悔しがっている。
「あんな魔法見たことないわ!新しい魔法として国に登録すべきよ!」
「確かに、その通りだ」
皆思い思いの言葉を口にする。
しかし実はこの魔法には致命的な弱点がある。
それは魔法を動かすのはかなりの集中力がいるので戦いながら使おうとするとどうしてもそちらに意識を集中しなければならないので隙が生まれやすくなるということ。
更に魔法を操っている間も魔力が消費され続けるので実は魔法を複数回分けて使った方が格段に効率が良かったりする。
これは皆には内緒だ。
でも周りを良い感じに驚かせられているし魔王としての第一歩には丁度いいだろう。
あと話題をエイルの魔法から移すためにもな。
「やはり魔法試験首席は違うわ」
「それに対してあの人は……」
「落ちこぼれなんだ、それ以上言ってやるな」
ってあぁもう。せっかく話題を変えてやったのになんでそっちに戻すんだ。
まるで俺がエイルのことを踏み台にしたみたいじゃんか。
例えるなら自分の言ったギャグが滑って強引に話題を変えたのに相手から「今のどういう意味だったの?」って聞かれたくらいのショックだ。
「アマンダ先生、次は誰が?」
「え?あぁ、えっと……」
「先生!私がやってもいいですか?」
話題を次の魔法練習に移し、なんとか注目をエイルから移す。
さて、今度はどうしたものか。
****
俺とエイルは模擬戦場の壁側の見学の位置に移動し、魔法訓練を眺めながら二人で話す。
あきらかに落ち込んでいる。
それはそうだろう。自分の放った魔法が人に当たりかけたんだしな。
よし、一言目は大事だな。優しく声をかけてやろう。
「見事な魔法だった」
「……どこがよ。暴走して……人を傷つけるような魔法のどこがよ!」
キレられた。選択肢間違えたか。
こういう時ゲームならセーブアンドロードして選びなおせるのになぁ……
そんなことを考えていると今度はエイルの方から質問がとんできた。
「どうしてあんなことを」
「ん?」
「私が魔法を暴走させた後、どうして名乗り出たりなんか……
それにあの魔法。自分の魔法を見せて私を更に陥れるつもりだったの?」
やばい、やっぱりそういう解釈になるか。
違うんだよ。話題を強引に変えたら注目がそっちに行くかなって思っただけで。
「そんなつもりはない。お前は一度俺の魔法を目にしておくべきだと思ったのだ」
「なんのために」
「お前なら自分の魔法に足りないものが何か既に分かっているだろう」
「それは……」
ちなみに俺は分かってない。
エイルはなんか勝手に自分で解釈するタイプっぽいし適当なこと言ってけば俺が察し良いみたいな空気になるから楽だ。
「そうよ、貴方の言う通り私は魔法の制御ができない。体の中の有り余る魔力に制御が追い付かない。人一倍魔法の制御が難しいの」
なるほど!確かに!
エイルも自分でそのことに気づけたわけだし、俺が分かってなかったことはこの際置いておこう。
「お前は攻撃魔法しか使えないのか?」
「……うん」
だんだんと声が消え入りそうな小さな声になっていく。
眉間に皺をよせていた表情もいつのまにか悲しい顔になっていくのが見える。
「四大属性の中で火属性しか使えない上に弱めに発動しようとするとうまくいかないし、無理やり発動しようとするとあんな大火球になる。凄まじく不安定なの」
「なるほどな」
「せめてこれさえなければ……もう少し普通の魔導士になれてたのかな……」
エイルは自身の左胸を抑えながら呟く。
そんな中二能力を生まれ持っておきながらいらないと言う気か。そんなの許さんぞ。
俺も魔眼とか無尽蔵の魔力欲しい。
まぁ光属性と闇属性の適正と超かっこいい魔剣が既にあるしこれ以上望むのも罰が当たるというものか。俺が最強の魔王と至るためにはこれで十分すぎるほどだしな。
「そう悲観的になることはない。あれほど威力のある魔法は魔導士でもそう使えない。誇って良いことだ」
「貴方がいなければ……私は人を死なせていたかもしれないのに……?」
「俺ならあの程度止めるのは造作もないことだ」
エイルは頬杖をつきながらちらりと俺の方を一瞥すると深くため息をつく。
呆れられた?もしかして。
「……よほど自分に自信があるのね」
「当然だ」
「ただの慢心に見えるけど」
「慢心ではなく事実だ」
「はぁ……変なの。でも少しだけ羨ましいかも。そこまで自分に自信が持てるのは」
その刹那、エイルの口元が一瞬だけ緩んだ気がした。
もしかしていつもの表情を崩したのは初めてだったんじゃないだろうか。
「……あの、今更こんなこと言うのは変かもしれないけど……」
「ん?」
「私に、魔法制御の仕方を教えてくれない?」
エイルはいつの間にかこっちに向き合っており、真剣な表情をしていた。
「貴方もきっとそのつもりであの魔法を見せてくれたんでしょう?あそこまでの魔法制御、学園の先生の中でもできる人はなかなかいない」
あー、そういう解釈?
ただ単に空気変えたかったのと俺の優雅な魔法を見せただけだったんだけど。
まぁ別にいっか。
配下候補を直々に指導するというのもなかなか悪くない。
「いいだろう」
「ほ、本当に?」
「あぁ。今日の夜、模擬戦場に来い」
「う、うん」
俺とエイルは魔法制御の訓練をする約束をしたのだった。
ここでどれだけエイルの信頼を勝ち取るかがカギだ。
俺が禁忌の魔導書を奪い取るためにせいぜい利用させてもらうとしよう。
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