15話 夜の魔法学園を探索することは誰もが憧れるはず
<スルト視点>
数分前
皆が寝静まっている頃。俺は一人で学園を探索していた。
理由は一つ。夜の学園の探索って絶対何かイベントが発生するからだ。
こっそり悪事を企む先生とか、隠れて非人道的な実験を行う魔法使いとか。
そういうのに遭遇しないかなーと期待して歩き回っているのだ。
もしかしたら禁忌の魔導書に関する手がかりも得られるかもしれないしな。
ちなみにカゲヌイは寮で寝ている。
デブが寮に置きっぱなしにしている夜食のストックを貪っているらしい。
太ってあの肝心の速度が落ちたりしないか心配だ。精進してほしいものだ。
模擬戦場にたどり着くと大きな地響きのようなものを感じた。
覗いてみるとエイルが凄まじい魔力を込め大火球を放っているのが見えた。
ちょっと待ったなんだあれ。
なんだあの魔力。というか魔法。
学園生であそこまで威力が出る魔法を使える人間がいるなんて知らなかった。
あれほどの威力を平然と連発している。
この魔力量。はっきり言って異常だ。
なんでこんな奴が落ちこぼれなんだよ。阿保じゃん。
今日の模擬戦を見て少しがっかりしていたのだがそんなものは全て吹き飛んでしまった。
大火球を放つ魔法使い。俺の配下としてはかなりインパクトだ。
ぜひともエイルには俺の配下になってもらいたい。
しかしどうしたものか。どういうタイミングで入っていこうかな……
そんなことを考えていると聞き捨てならない一言が聞こえた。
「何が……禁忌の魔導書よ……!」
禁忌の魔導書。それは俺がこの学園に入った目的の一つじゃないか。
「皆……皆死んじゃえば良いのよ……!こんな学園……滅びれば……!!」
ほう、いいな。破壊願望も持っている。
落ちこぼれと言われ続けて学園側に不満が募っているのだろう。
悪としての才能もあって素晴らしいぞ。
この復讐心をうまく利用してやれば悪堕ちしてくれることだろう。
よし、ここだ。俺は気配を消し足音を立てないように模擬戦場の中に入り、壁に寄りかかり「いつからそこにいた」的な雰囲気を醸し出しながら声を出した。
「どうした?そんなに苦しんで」
「あ、貴方は……!」
エイルが驚いた声を出したのを確認すると俺は壁から背を離してゆっくりとエイルの方へと歩いていく。
「……いつからそこにいたの」
ナイス!理想的な反応をしてくれるじゃないか!
口角が上がりそうになったが必死に抑える。この先が大事なんだからな。
「たった今だ」
「なんでそもそもこんなところに?」
「ここに来い、というお告げのようなものを感じたのだ」
「……ばっかみたい」
おいおいそんなこと言うなよ。
だって夜の学園が楽しそうで散歩してましたとか言えるわけないじゃん。
文化祭前の高校生じゃあるまいし。
しかしお告げというのは実際嘘ではないかもしれない。
俺がたまたまここに来たタイミングでエイルがいるんだからな。
これもレーヴァテインの導きかもしれない。知らんけど。
「それより、禁忌の魔導書っていうのはなんのことだ?」
それを聞いた瞬間エイルは慌てて目を泳がせた後、そっぽを向いてバツが悪そうな顔をする。
「……な、何でもないわよ。というか貴方には関係ないことでしょう」
当然誤魔化そうとするに決まってるよな。
しかしなぜそのことをエイルが知ってるんだ?
もう面倒くさいので俺は確信をついた発言を食らわすことにした。
「この学園の地下に封印されているという禁忌の魔導書だろう?」
目の色を変えたエイルは俺の胸倉を掴んで壁まで押し込み、それにより俺の背中が壁にぶつかり、音が響き渡る。
ちょ、後頭部痛いし苦しいからもう少し優しめにしてほしい。
「貴方、いつそれを知ったの」
「独自の情報網だ」
口には出さないが色々やり方があるというものだ。
ちなみにこの情報源は知っての通り前に酒場で会った学園教授に酒を勧めておだてたりしていい気分にさせた上で聞き出した話だ。
「魔導書のことを知ってどうするつもり?」
「それは言えない。だが少なくとも、悪いことをするつもりはない、とだけ言っておこう。なんだったら協力してやっても良い」
いやまぁ奪って俺のものにするからこの発言は嘘なんだけど。
流石にそれを言うと信頼関係が失われるから魔導書が手に入るまではいい感じに話を合わせておくことにしよう。
「……その言葉、嘘じゃないわね?」
「あぁ。だからさっさとその手を離すがいい」
そろそろ酸欠になりそう。
魔王が顔青くしてぶっ倒れるとかダサすぎて笑えない。
少しするとエイルはようやく手を離した。
(あまり信用はできないけど、私一人で考えていても解決できないのは事実。それなら一か八か……)
「誰にも言わないって約束してくれるのなら、教えてあげる」
「いいだろう」
これに関しては実際言うつもりはない。
魔導書を欲しがるライバルが増えても面倒だし。
「実は……」
エイルは俺に事情を説明してくれた。
学費を払えておらずそのせいで除籍の危機にあること。
更に学園長から学費を免除されたければ禁忌の魔導書を狙う敵組織ロキシスの痕跡があるかどうかを調査しろ言われたこと。
「ふむ、それはなかなか難儀なことだな」
流石に無茶じゃありませんかね。魔法が使えるとしても剣術が使えないような学園生一人にこんな重大任務を任せるか普通。
禁忌の魔導書って言われるくらいだから近づいただけでどんな危険があるか分からんぞ。
「私のことが邪魔なのよ。私の家も。学園も。ただの捨て石よ。たまたま上手くいけばいいくらいいに考えてるだろうし、失敗したところで私のことを排除できる」
なるほどな。
学園長はそういう理由でエイルにこんなことを押し付けたのか。
それにしても、エイルはどうしてあそこまで魔力を……聞いてみるか。
「どうしてお前はそこまでの魔力量を持っているんだ?」
「生まれつきなのよ」
「生まれつき……ね」
俺は不敵な笑みを浮かべる。
「なるほどな。そういうことか」
「……何が分かったていうのよ」
「お前のおおよそのことだ」
「まさか、本当に気が付いたの?」
「当然だ」
俺にはいくつか思い当たる節がある。
エイルの無尽蔵の魔力。おそらく理由はこれだろう。
俺の全てを見透かす目に恐れをなしたのかエイルは苦い顔をしている。
しばらくすると理由を明かす気になったのか、諦めたように深くゆっくりを息を吐いた。
そしてあろうことか突然制服のボタンを外し始める。
――って、え!?おいおい、何してんの。別に誰も胸を見せろとか言ってないんだが!?
しかしここでうろたえては魔王じゃない。
表情と視線がさっきの状態と変わらないように平静を保とうとする。
視線をゆっくりとエイルの胸元に移すと左胸に紫色の紋章があった。魔法陣のような五芒星が描かれており、中心には無限を意味する8の字を横に倒した文字が描かれている。
刺青?一体これはなんだ? よく分からない。
くそっ、分かったふりなんかするんじゃなかった。
「貴方が言う気づいた通り、私は魔魂スキルの持ち主。
名前は《無尽蔵の
無限に近い魔力を持つことと引き換えに体が弱くなる」
「なるほど、やはりな」
そうだったんすか!? 全然気が付かなかった。
てっきり毎日血の滲むような魔力訓練をし続けた結果いつの間にか魔力量がやばいことになってたとか、実は俺と同じ転生者とか考えてたのに。
魔魂スキルって確かスキルの上位互換だよな。
そんな激レアなものの持ち主が近くにいただなんて。
いやしかしそれも当然か。ここは世界でも有数の魔法学園。
どんな才能やスキルを生まれ持った人間がいても不思議じゃない。
「これさえうまく使いこなせるようになれば……私は一流の魔導士になれるかもしれない」
「そのために学園長からの任務を引き受けたのか? 学園長もまさかお前が引き受けるなんて思ってなくて無理難題を押し付けただけだろう」
「そんなこと分かってる。でも私は諦めるわけにはいかないの。魔導士になるまで。私の手で私のことを落ちこぼれとけなしたあいつら皆を見返してやるまで」
エイルは制服を元に戻すと憎しみに満ちた表情を見せる。
見返すか。くっくっく、周りに蔑まれたことで逆襲したいという欲求。
これをうまく利用しない手はない。
「お前は本当に、周りを見返したいのか?」
「何?」
「もっと違う、本当の理由があるんじゃないのか?」
「ないわよ。そんなの。話は終わりね。私行くから」
「待てよ。そのマキマキとかいう組織の調査、俺が協力してやってもいいぞ」
「……ロキシスよ。いらない。私一人でやるわ」
「おいおい、ここまで話した上で突っぱねるのか?乗りかかった船だろ?」
「気が変わったの。助けなんていらない」
ちっ、少し焦りすぎたか。
心に入りこもうとしすぎたせいで警戒されたか。
「ならばいつか助けが欲しくなった時。心の中で叫ぶがいい。目の前にいる邪魔者を消してくれ、とな」
「そんなことしても何の意味が?」
「いずれ分かるだろう」
「……なんなの貴方さっきから。でも頼ることは無いと思うわ」
エイルはそう言うと模擬戦場を後にした。
ふむ、エイルの信頼はまだ得られないか。
まぁいい。ひとまずはこんなものだろう。
クックック、エイルを利用してそのシャカシャカとかいう組織を倒すのに協力するふりをして禁忌の魔導書をこの俺がせしめてやる。
俺が魔王となる目標のためには仕方ない。
我ながら極悪非道すぎて思わず武者震いがしてきそうだ。
****
<エイル視点>
私は寮に向かいながらスルトの言葉を何度も頭の中で
『お前は本当に、周りを見返したいのか?』
あの言葉。まるで私のことを見透かしているかのようだった。
彼が現れた時だってそうだ。
気配もなく私の後ろに現れ禁忌の魔導書のことを持ち出してきた。
彼は一体どこで知ったんだろう?
彼はああ言っていたけど本当に彼は私の味方になってくれるのだろうか?
冷静に考えてみればあまりにも怪しすぎる。
組織の回し者としか考えられない。
しかし入学初日、彼が話しかけてきたあの時。
席はいくらでもあるのにわざわざ私の隣に座った。
こんな夜遅い時間にわざわざ訓練場に来るだなんておかしい。あきらかに不自然だ。
何よりも私の魔魂スキルのことを見抜いていた。
まさか、私のしようとしていること、私の力のこと、全て把握した上で私に近づいてきたの……?
私は寒気がした。
「……いや、ただの偶然よね」
私はそう呟いて心の中のもやを払い寮へと戻っていった。
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