11話 どこの世界も国も学校も共通して言えるのは偉い人の話は長くて退屈だということ

 俺は魔法学園の入り口までたどり着く。

 周りは同じように魔法学園に入学する者たちがいた。

 ここに通うものは誰しもが夢や野望を持つのだろう。


 偉大な魔導士となり世界を守る。

 魔法を研究し新たな魔法を生み出す。

 魔法を学び大事な人を守る。


 俺はそういった夢を悪いものだと否定することはない。

 だが、考えてみれば俺は結果的には否定することになってしまう。

 何故なら俺が魔王となればここにいる者たちの夢を無残にも打ち砕くのだから。


「スルト?中に入らないの?」

「ちょっと待ってくれ。今心の準備をしているところだ」

「緊張してるんだね。まだ時間があるしゆっくりでいいよ」


 俺は剣を握り誓いを立てた。


(魔導書を手に入れ俺の力の糧とし、魔法学園と敵対し魔王誕生の踏み台とする!)


 レーヴァテインは俺の誓いに答えるように小さく光る。

 心なしかこの剣に誓いを立てるとなんでも叶いそうな気がしてくる。

 固まった決意を胸に俺は魔法学園への第一歩を踏み出した。


****


「――で、あるからして」


 つまんねぇーなーーーーーーー。

 

 入学式が始まり、学園長の話が始まって1分も経ってないけどもう飽きた。

 こんな場所で何十分も何百人という人間を立たせたままでいるのは狂気の沙汰なんじゃないだろうか。


「貴方たちは偉大なる魔導士や騎士を輩出しているルーン魔法学園の生徒であることに誇りと責任をもって――」


 ああいう演説って全部テンプレートで毎年変わらないんだし全文書き起こして壁にでも貼っておいたらいいんじゃないだろうか。見たいやつが見るよ、多分。

 ふと周りを見てみると学園生たちがうきうきと楽しそうな顔をしながら学園長の話に聞き入っていた。まじかよ。

 よくよく見るとほとんどの学生たちは同じように学園長の話に聞き入っているようだった。


「あの学園長さん、凄く有名な人で英雄に魔法を教えたり魔導士部隊を指揮して魔王との戦いで大活躍した凄い人なんだって!」


 近くにいた学園生がそんな噂話をしていた。

 なるほど、そういうことか。

 皆話に聞き入っているのではなく、あの学園長が話をしてくれているということ自体が嬉しいのか。

 まぁ俺にはどうでもいいことだが。


 一方メアはいたって普通の顔で聞いている。

 なんというか、外行きの張り付いた笑顔といった感じだ。

 俺がメアに魔王計画を語っている時はもっと楽しそうな顔をしていたからメアにとっては学園長の話よりも俺の話が面白いということだろう。間違いない。


 周りを見渡してみると唯一俺と同じようにつまらなそうな顔をしている女生徒が一人いた。

 青髪で光沢のある綺麗でつややかな長髪をしている。

 ザ・クールって感じの顔をしている。

 美人だからモテそうだけど告白は全部ぶった切りますって感じの顔してるな。


「続いて新入生の皆さんの教鞭を執ることとなる教職の方々の紹介に移ります」


「風影剣術の師範であり、剣術を専攻なさっているアミル先生、魔法学を専攻なさっているアマンダ先生、剣術指導の補佐をしてくださるカイン先生、そして王都直属の騎士部隊を指揮なさっているミゲイリ先生です」


 生徒達から大きな拍手があがる。

 王都直属の騎士の偉い人ねぇ。なんでそんな偉い人までわざわざ教えに来てくれるんだ。

 学園を滅ぼすとなると当然彼らとも戦うことになるわけだ。

 俺も鍛え続けているとは言え相当な手練れ相手なら苦戦するかもしれない。

 対策を考えておかねば。


「では続いて首席入学者の方たちの紹介に移らせていただきます。名前を呼ばれた方たちは壇上にお越しください。剣術試験一位、メア・オーティス、筆記試験及び魔法試験一位、スルト・ノルガルド」


 あたりで拍手が響き渡る。

 流石メアだ。剣術試験で一位を取っていたとは。

 俺の側近第一候補なだけある。

 俺も思わず拍手をする。


「スルトも呼ばれてるよ、行くよ」

「……え?」

「早くしないと学園長先生に迷惑かかっちゃうし」

「え、ちょま……」


 ちょっとまった。筆記試験と魔法試験一位?いつのまにそんなことに……

 確かに前に王都に行ったときに国立図書館で魔法に関する本を読み漁ったからそこで得た知識を試験で書き込んだり、魔法試験で今までの成果を見せてやろうと四属性魔法をこれでもかと見せつけてたりしたが、まさか一位だなんて。


「メアさんは王都直属の騎士グローレンス氏にもその剣術の腕を高く評価され、その剣術の才能は我が学園の歴史の中でも――」


 メアのことは納得できるがまさか自分の実力がここまでとはな。

 いや逆か。俺が強いのもそうだが周りの連中が雑魚すぎるのかもしれん。

 まぁでも手練れの盗賊相手に簡単に勝ったりオーガの戦士倒してたりするし、当然と言えば当然か。

 しかし慢心するわけにはいかない。

 俺が目指すのは学園生最強ではない。生物最強、すなわち魔王なのだから。


「特にスルトさんは二つの試験で一位を獲得しておりこれは学園の歴史の中でも史上二回目の快挙となります。皆さん、彼らに負けずに勉学に励んでください」


 ふとさっき学園長の話をつまらなそうに聞いていた青髪の少女を見てみるとこちらを睨んでいたような気がした。

 なんかしたかな、俺。話したこともないんだからきっと気のせいだろう。


 学園長の話が終わると俺とメアは凄まじい拍手に包まれながら壇上を下りた。

 うーん、なんというか、拍手に包まれるっていうのは魔王趣向的にはあまりよくないな。恐怖の声に包まれるならいいんだが。

 やはり一位とか取るべきじゃなかったかもしれん。

 そんなことを考えながら入学式が終わるまで永遠と退屈な演説を聞いていたのだった。

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